コスト削減なのか2016年04月10日 00:53

コスト削減なのか


浮沈子のこの記事は、実は、何度も書き直している。

スペースXが、ファルコン9の1段目を洋上回収できたことで、今後の打ち上げ費用の低減が見込めることから、いろいろな妄想が頭をもたげて、収拾がつかない状態になっているからだ(まあ、いつものことですが)。

以下は、書き直し前の引用。

<引用開始>
(安売り攻勢かけるスペースX 
宇宙開発の仁義なき戦い)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6376

「“業界最安地”からさらに大幅値引き!」

浮沈子も、変換ミスを見逃して、あとから慌てて直すことが多いが、この変換ミスは、ちょっと見逃せないな。

読み方が間違っている!。

「さいやすね」と読んでいれば、こういう変換ミスは起きない。

まあ、どうでもいいんですが。

で、いくらよ?。

「現在のスペースXのファルコンロケット打ち上げ費用は「業界最安値」の6100万ドル」

「それが再利用ロケットを使えば4000万ドルになるという」

「最初の再利用ロケット顧客になるので、打ち上げ費用を30%ではなく50%オフにしてほしい」

「燃料費、ロケット修繕費などを考慮しないと、正確にどこまで値引きができるかは現段階では未定」

半値でも、まだまだ高い。

最低でも10回は再使用できるだろうから、1000万ドルを切ることは可能だ。

しかし、商売として、そこまで安値にすることはない。

画期的なシステムと運用を手にしたのだから、今は、ライバルが追いすがるまで、稼ぎまくるまでだ。

SES社は、最初の再使用ロケットだから安くしろと言っているが、論理的ではない。

だって、まだ1回しか使っていない、新品同様の再使用ロケットを使うことが出来るのだから。

100回くらい使った奴なら、もっと安くしてくれって言ってもいいけどな。

将来は、リビルド品のエンジンと、新品のエンジンを混ぜて使って、システム全体の信頼性を安定させるようにするはずだ。

ファルコン9は、その名のとおり、9基のマーリンエンジンを使っている。

(ファルコン9)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%B39

「ファルコン9でも複数の1段エンジンをクラスター化しているため、飛行中にエンジンの1基が停止してもミッションを継続する事が出来る。」

「実際に4回目の打ち上げでは、上昇中にエンジン1基が異常を起こしたために停止されたが、他のエンジンに被害を与える事なく軌道に乗る事に成功した。」

リビルド品のエンジンの比率は、将来的には高まっていき、やがて、その信頼性が新品のエンジンを超える。

新品は、初期不良の可能性を完全に排除することは出来ないが、リビルド品は、使用実績があり、稼働を保証されているからだ。

まあ、どっこいどっこいになれば、十分ということだな。

もう、再使用だから値引いてくれとかいう話はない。

ロケットを再使用するのは当たり前で、新品の、いつ爆発するかもしれないロケットは、おっかなくって使えないということになるだろう。

再使用ロケットが標準になって、安全な輸送が確立されれば、真のコスト競争が始まる。

より多くの貨物を、より柔軟に打ち上げることが出来るロケットが求められる。

燃料を調節して、燃焼時間をコントロールし、ペイロードと軌道によって使い分ける。

再使用ロケットならではの、フレキシビリティを手に入れることになる。

ファルコンヘビーが上がれば、そして、再使用されることになれば、地球低軌道に50トンを超える貨物を上げることが可能になるだけではなく、50トンまでの、任意の重さの貨物を、適正なコストで打ち上げることが出来るようになる。

脅威だな。

ライバルにとっては、悪夢に違いない。

価格競争性が、根底から覆る。
<引用終わり>

いろいろ書いてみて、ちょっと違うのではないかと思い始めた。

再使用ロケットの本質というのは、コストの削減なのか?。

以前に、高頻度打ち上げを可能にする技術という観点で書いたこともある。

10分に1回の打ち上げ。

新幹線並みの運用だ。

その需要は、大陸間高速移動にあると書いた。

(再使用ロケット)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2015/02/06/7565639

「1日1便とかではなく、1時間に1回とか、新幹線並みに10分に1回の打ち上げということになるかもしれない。」

「現在、地球低軌道周回以上のロケットは、年間せいぜい100本くらいだろうが、近い将来は、1万とか10万の規模になる。」

「宇宙利用にコペルニクス的転回が訪れるのか、それとも、いつまでたっても金太郎飴の、秒読み付きの打ち上げ中継を見続けさせられることになるのか。」

記事は1年以上前のもので、この時は、もちろん、まだ回収には成功していない。

個人所有のロケットで、週末宇宙旅行を楽しむという、未来チックな話だが、そういう方向ではないのではないか。

何となく、しっくりこない。

その原因は分かっている。

妄想が羽ばたかないのだ。

再使用ロケットが現実になってしまって、3割引きとか、世知辛い現実的な話が出てきて、知的刺激が減退しているというのが理由だ。

現実味を帯びてくると、魅力は半減する。

出来るかどうかという、ビミョーな頃合いが良かったわけだ。

打ち上げコストが、多少下がったくらいでは、パラダイム転換は起きない(衛星打ち上げ市場は大混乱でしょうが)。

地球の重力が100分の1になったわけでもなく、1万円で週末の宇宙旅行が出来るようになるわけでもない。

具体的に、何かが起こるわけではないのだ。

つまらん話になってしまった。

とりあえず、後日のネタとして上げておこう。

姿勢制御の受難2016年04月10日 09:43

姿勢制御の受難


大貫さんは、姿勢制御の問題が、衛星ひとみのトラブルの発端と見ている。

(X線天文衛星「ひとみ」、復旧は長期戦へ。姿勢制御系に注目)
http://sorae.jp/030201/2016_04_08_astroh.html

「JAXAは姿勢制御系のトラブルの可能性を重視している模様だ。」

「3月31日時点での「ひとみ」の回転は5.22秒に1回と推定」

「姿勢制御系のトラブルの可能性を第一に説明している。これは、5秒に1回転という回転速度が、他の理由では説明しにくいから」

まあ、そうだろうな。

「リアクションホイール」「磁気トルカ」「スラスター」の3つのデバイスの中で、高速回転を作り出せるのはスラスターだけだ。

しかし、スラスターの異常は分かっていない。

そういうことになると、スラスターを誤って噴射させた側の問題、つまり、プログラムのバグということになる。

それを誘発した原因は、また、別の状況になるのかもしれない(センサー、リアクションホイール、磁気トルカなどの異常)。

ある条件が整うと、思いっきり吹いてしまうというわけだ。

なお、記事中にマスプロマスとあるのは、マスパロマスの誤り。

弘法にもなんとやらだ。

まあいい。

「もし通信が回復して原因が判明し、姿勢制御系を正しく作動させることができれば、「ひとみ」の観測を再開できるかもしれない。」

いやあ、そうなのかあ?。

浮沈子はそうは思わんけどな。

「「ひとみ」と同等のX線天文衛星は世界的にも他になく、近年中に計画もないため、たとえ一部であっても観測できればその価値は大きい。」

満身創痍の状態で、どこまでできるかは未知数だし、そもそも、どのくらいの期間粘って回復を試みるかということもある。

半年、1年ということになれば、その間の時間は無駄になる。

「「ひとみ」の回転が自然に収束して通信が復旧するのを待っている。」

多くの部品が分離したこと、高速回転を行っていること、通信が回復しないこと。

この時点で、運用を諦めてもいいのではないか。


「先日、復活したばかりの金星探査機「あかつき」の中村正人プロジェクトマネージャーからも、「絶対にあきらめるな」とエールを送られたばかりだ。」

なんか、こう、余計なお世話というか、エールになっていない感じだな。

まあ、内輪だから、さっさと諦めた方がいいとは言い辛いだろう。

無責任な外野的発言になるが、浮沈子は、もう潮時だと思っている。

十分撤退する理由はある。

後は、決断するだけだ。

宇宙探査に失敗はつきものだ。

それを、受け入れて、次の開発に賭ける。

原因究明だって、出来ない時もある。

同じ原因で失敗することもあり得る。

310億円をどぶに捨てたということになるのかもしれないが、それは仕方ない。

浮沈子は、大きな衛星を作ったことが、根本の原因だと思っている。

要素技術では、新しいことはあまりないんだろうが、単純にデカくすることだけでも、相当に大変なはずだ。

(ひとみ (人工衛星))
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%BF_(%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F)

「総重量約2.7トン、望遠鏡伸展後の全長14m」

(すざく)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%99%E3%81%96%E3%81%8F

「鏡筒を伸ばすと全長6.5mになる。総重量は1680kg。」

最大長にして2倍以上、重量も1.6倍と、巨大化している。

この大きさの衛星の制御を、ちゃんと確立していたのかどうか。

(日本の宇宙機の一覧)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%AE%87%E5%AE%99%E6%A9%9F%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7

「名称:質量(kg:1トン以上を表記):打ち上げ日:主製造業者(一部独自調査))
・ふよう1号:1340:1992-02-11:三菱電機?
・みょうじょう:2400:1994-02-04:東芝, 石川島播磨重工業
・きく6号:2000:1994-08-28: 東芝
・宇宙実験・観測フリーフライヤ:4000:1995-03-18:三菱電機
・みどり:3560:1996-08-17:三菱電機
・熱帯降雨観測衛星:3500:1997-11-28:不明(米国製)
・きく7号(おりひめ/ひこぼし):2900:1997-11-28:NEC
・かけはし:2000:1998-02-21:日本電気
・こだま:1500:2002-09-10:三菱電機
・次世代無人宇宙実験システム:1800:2002-09-10:三菱電機
・みどりII:3700:2002-12-14:三菱電機
・すざく:1700:2005-07-10:NEC東芝スペースシステム
・ひまわり6号:1800:2005-02-26:スペースシステムズ/ロラール
・だいち:4000:2006-01-24:NEC東芝スペースシステム
・ひまわり7号:2500:2006-02-18:三菱電機
・きく8号:3000:2006-12-18:三菱電機
・かぐや:2900:2007-09-14:NEC東芝スペースシステム
・きずな:2700:2008-02-23:NEC東芝スペースシステム
・いぶき:1750:2009-01-23:三菱電機
・みちびき:4000:2010-09-11:三菱電機
・しずく:1991:2012-05-18:本体NEC」

これ以降はリストにないが、けっこうな機数を打ち上げている。

情報収集衛星は、質量が公表されていない。

当然1トン以上と推定されるが、ここでは割愛した。

また、単独の衛星になっていないVEP-2、きぼう関係、こうのとり関係も外した。

科学衛星での実績は少ないが、NECは、大型衛星の制御系には経験がある。

かぐややきずなは、ひとみと同程度の巨大衛星だ。

だいちも飛ばしている。

うーん、デカいから問題が発生したということは言えない。

初物的には、やっぱスペースワイヤーかなあ・・・。

ついでに、太陽電池がぶっ飛んだことがあることも分かった。

(みどり (人工衛星))
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%BF%E3%81%A9%E3%82%8A_(%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E8%A1%9B%E6%98%9F)

「打ち上げ後約6ヶ月で太陽電池パドルの破断により機能を停止。運用が断念された。」

問題は、後継機の方でも太陽電池関連のトラブルに見舞われていることだろうな。

(みどりII)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%BF%E3%81%A9%E3%82%8AII

「だが、2003年(平成15年)10月25日 午前1時15分頃、衛星の太陽電池パドルの発生電力が6kwから1kwに減少し、同日8時55分頃以降、衛星との交信ができなくなり(先代みどりに引き続き)途中で運用を断念した。」

まあ、三菱電機も、お祓いしなけりゃならんな。

「JAXAは衛星のテレメトリデータを解析し、故障の原因の仮説を発表した。 仮説はいくつかあるが、どれも、太陽電池から太陽電池パドルと衛星を繋ぐハーネス間で、回路の短絡または開放が起こり、衛星側に送れる電力が低下したというものになっており、スペースデブリが太陽電池パドルに衝突し破断した訳ではないとしている。」

今回、姿勢制御系のトラブルということになれば、同じように故障原因の仮説という形での発表になるんだろう。

みどりIIの時も、JAXAによる対策本部が設置されている。

しかしなあ、実用衛星とか、ロケットの打ち上げに係る案件と異なり、今回はISAS関連での初めての対策本部になるわけで、影響はそれだけ深刻なわけだ。

今の段階では、仮説も出せないだろうから、もう少し調査が必要ということになる。

テレメトリーは二度と取れず、地上からの観測も限界という段階で、早期に運用を断念して、次に進むのが賢明だろう。

あかつきのように、復旧の見通しがあれば粘ってもいいが、バラバラに破断した状態では、諦めた方がいいな。

「JAXAは衛星から受信したそれまでのテレメトリデータから、太陽電池パドルの発生電力が通常の1/6である、6kwから1kwに低下していることを突き止め、その後数ヶ月に渡り、コマンド送信や衛星状態の解析などを実施したが、衛星との交信は復旧しなかった。」

今回も、数か月は粘る腹なんだろう。

前例踏襲というか、そういう風習が蔓延ってるに違いない。

理事からは、半年という発言も出ている。

しかしなあ、2003年には、H2A6号機の打ち上げ失敗もあったし、厄年だな。