事実と認識2017年01月13日 11:20

事実と認識
事実と認識


ちょっと考えさせられる記述を見つけた。

(たんせい4号)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%82%93%E3%81%9B%E3%81%844%E5%8F%B7

「技術試験用人工衛星である。」

(運用終了試験衛星「たんせい4」)
http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/tansei-4.html

「M-3S型ロケットの性能試験、磁気力によるスピン軸太陽オフセット指向自動制御、フライ・ホイールによる姿勢制御試験など、将来の衛星制御方式の実験を目的として打上げられた試験衛星である。」

「第1周でヨーヨーデスピナを起動しスピン数を毎秒2.1回から毎分18回に落とし、太陽電池パドルを展開。」

(第16回
試験衛星「たんせい4号」)
http://www.isas.jaxa.jp/j/column/hiwa/16.shtml

「実験および試験状況:
軌道投入後、衛星は正常で、第1周でヨーヨーデスピナを起動しスピン数を毎秒2.1回から毎分18回に落とした後、初めて搭載された太陽電池パドルを正常に展開しました。」

これらの記述を見る限り、たんせい4号の打ち上げには何のトラブルもなく、順調に上がったかのように感じる。

問題ない・・・。

浮沈子は、ヨーヨーデスピナというのが分からずに、いろいろ調べていたのだが、こんな記事を見つけた。

(科学衛星の熱設計の歩みと 熱物性研究について)
http://www.netsubussei.jp/group/onishi.pdf

「原理はきわめて簡単で、衛星のスピン軸に直交する面内に重りの付いたワイヤーを巻きつけ、その重りを衛星から切り離すと、ワイヤーは衛星のスピン方向にほどけていき、その間にケーブルに働く張力によって衛星のスピンを減衰させるトルクが生じます。」(資料15ページ:たんせい2号画像参照)

「ワイヤーが完全にほどけ、それを衛星から切り離すと、それまで衛星が持っていた角運動量を重りが持ち去り、衛星は所定スピン数に減衰される、仕組みです」(同上)

この仕組みは、たんせい2号によって導入されたようだ。

(たんせい2号)
http://www.isas.jaxa.jp/j/column/hiwa/08.shtml

「搭載機器は、従来の共通機器の他に、今回初めて行う衛星の姿勢制御の試験のため、
(1)衛星のスピンを落とすためのヨーヨーデスピナ
(2)衛星のスピン軸方向を制御する地磁気利用スピン軸方向制御装置
(3)姿勢変化を補償するキーピング・マグネット
が載せられました。」

「地上からのコマンドでヨーヨーデスピナを作動させ、衛星のスピンを毎秒2.3回から毎分11.3回に低下させました。」

先の引用には、こんなくだりもある。

「初期運用はヨーヨーデスピナによるスピンレートの低減(軌道投入時の30rpmから5rpm)、パドルの展開、スピン軸の太陽指向による電力の確保等の運用が行われます。」(資料19ページ)

他の資料と比較すると、軌道投入時のスピンレートが異なっている。

・他の記事:毎秒2.1回→毎分126回
・この記事:毎分30回

ちょっと違い過ぎるな。

低減後のスピンレートも大きく異なる。

・他の記事:毎分18回
・この記事:毎分5回(予定)

まあいい。

問題は、次のくだりだ(資料27ページ)。

「「たんせい4」の運用は、大変劇的でした。それは、打ち上げ直後のヨーヨーデスピナの不具合により、所定のスピン数に至らない状況で太陽電池パネルの展開を行ったことから始まります。」

「内之浦の最初の周回でパドルの展開を行わないと電力が確保されないこと、反して所定のスピン以上でパドル展開を行うと構造的破壊を招くことが考えられました。」

おいおい、これって衛星ひとみの時と同じ話じゃん!?。

「運用時間が10分と短い時間で判断する必要に迫られ、何もしないで衛星の寿命を終わるよりもと思い、パドル展開のコマンド指令を出しました。」

なんか、相当ヤバそうな感じだな。

「衛星が消失(内之浦局と衛星との通信が不可能になる)寸前に無事パドルの展開を確認しました。」

やれやれ・・・。

「これは、パドルの展開手順にスピン数の良否の判定が想定されていなかったためでした。」

テクニカルダイビングの世界なら、あの世行きになるような話だ(そうかあ?)。

この論文集の著者である大西晃さんは、科学衛星の熱設計が専門のようで、地味ながら重要な知見が述べられている(ジミー大西?)。

しかし、たんせい4号の打ち上げ時のヒヤヒヤする話の方が、100倍面白かったな。

ヨーヨーデスピナは、今でも使われているようだ。

(S-310ロケット)
https://ja.wikipedia.org/wiki/S-310%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88

「発射後29秒の燃焼終了時には2.8Hzのスピンを持つが、科学観測時には1Hz程度に下げる必要があるため、計器部には発射後50秒で作動するヨーヨーデスピナが搭載されている。」

ちなみに、この観測ロケットは、コストが明記されている。

「打ち上げコスト:約2億円」

今回打ち上げ予定の電柱ロケットに搭載される衛星(トリコム1)では、使われていない(たぶん)。

(JAXAが世界最小の衛星用ロケットを開発 - 今年度中に内之浦から打ち上げへ)
http://news.mynavi.jp/articles/2016/11/24/ss520/

「ロケット側がスピン安定のため、分離時には衛星もそのまま1.6回転/秒程度でスピンすることになる。これだと撮影や通信に問題があるため、回転軸に搭載された1軸のリアクションホイールで回転速度を抑えてから、3軸の磁気トルカを使って姿勢制御を開始する予定とのことだ。」

衛星切り離しにおいても、分離ボルトに非火工品を用いるなど、ちょっとした仕掛けもあるようだな。

「分離機構は火工品ではない新しい方式を試すという」(写真キャプションより)

たんせい4号の衛星スピン制御については、事実誤認なのか意図的な隠ぺい(!)なのかは分からない。

結果として、太陽電池パドルは破壊されなかったし、その後の運用も、まあ、ほぼ予定通りということになった(ビーコンモードに移行したのちに、一時(2か月以上)衛星喪失状態になるなど、紆余曲折を経ているようだ)。

どうも、この記事を読んでいると、衛星ひとみが脳裏にちらつく。

たんせい4号は、3年余りの運用を終えて1983年5月に天寿を全うして落下し、焼失した。

その年、83タルガが作られたわけだな。

まあ、どうでもいいんですが。

もう、34年も前の話だ。

事実がどうであったのか、それに対する認識にズレがあるのはなぜなのか。

浮沈子には知る由もない・・・。

ちなみに、ヨーヨーで遊ぶ人をスピナーということがあるらしいが、ヨーヨーデスピナとは無関係だろう(たぶん)。

(ヨーヨー:スピナー:追加)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%A8%E3%83%BC#.E3.82.B9.E3.83.94.E3.83.8A.E3.83.BC