累々たる屍2017年01月25日 03:13

累々たる屍
累々たる屍


実に、浮沈子好みの記事を見つけた。

(宇宙開発秘録 - 夢敗れたロケットや衛星たち 4 暗黒面が喚んだ希望 - 単段式宇宙往還機「デルタ・クリッパー」(前編))
http://news.mynavi.jp/series/spacetechnology/004/

「数々の華々しい成功に彩られている宇宙開発だが、その栄光の影には、失敗の歴史が連なっている。」

シリーズは、第9回までだが、まだ続くかもしれない。

・第1回:宇宙から人の目でソ連を監視せよ - 軍事宇宙ステーション「MOL」(前編)
・第2回:宇宙から人の目でソ連を監視せよ - 軍事宇宙ステーション「MOL」(後編)
・第3回:火星探検へ旅立ったダーウィン - 英国の火星探査機「ビーグル2」
・第4回:暗黒面が喚んだ希望 - 単段式宇宙往還機「デルタ・クリッパー」(前編)
・第5回:暗黒面が喚んだ希望 - 単段式宇宙往還機「デルタ・クリッパー」(後編)
・第6回:俺の屍を越えてゆけ - 欧州初の共同開発ロケット「ヨーロッパ」
・第7回:ドーピングには御用心 - 中型から背伸びした大型ロケット「デルタIII」
・第8回:空飛ぶ口紅 - 英国初の衛星打ち上げロケット「ブラック・アロウ」(前編)
・第9回:空飛ぶ口紅 - 英国初の衛星打ち上げロケット「ブラック・アロウ」(後編)

中でも、浮沈子は、第4回と第5回に連載されたデルタ・クリッパーの話が気に入ったな。

鳥嶋さんの記事の中では、能代の垂直離着陸機(RVT)話が出てこないのは残念だが、20年以上も前に米国で実現していた話とは知らなかった。

(DC-X)
https://ja.wikipedia.org/wiki/DC-X

「デルタクリッパー・エクスペリメンタルと称される単段式の無人再使用型ロケット実験機である。」

記事の中では、1995年7月7日の8回目の飛行について書かれている・・・。

「そして7月7日、8回目の飛行を迎えた。この飛行は壮観なものであったと記録されている。」

「DC-Xは離昇後、斜めに飛んだ後、機首を地面に対して10度、つまりほぼ横倒しの滑空飛行の姿勢を取りつつ飛行。そして180度反転させ、かつブレーキを掛けるように噴射して水平方向への速度を落とし、さらにその後機体を垂直に立て直し、着陸した。」

水平移動、機体の制御など、基礎的技術が確立していることをうかがわせる。

翌1996年、最後の打ち上げが行われる。

「そして7月31日、4回目の飛行が実施された。山岳標準時13時15分に離昇し、高度1250mに到達、降下を始めた。しかし、いざ着陸の段になって、4本の着陸脚のうち1本が出ないという問題が発生。そのまま着陸したことで機体はひっくり返り、内部の推進剤に引火し、爆発した。」

結局、改良後のDC-XAを含め、垂直離着陸機の実験は、打ち切りとなった。

単段式宇宙ロケットの夢は潰えた。

ブルーオリジンがニューシェパードで成功するまで、宇宙往還に成功したロケットはない。

ちなみに、ファルコン9の1段目は、高度100km未満だからな。

宇宙に行ったとは言えない・・・。

浮沈子がこの記事に注目したのは、当初の目的が軍事利用であったとはいえ、軌道高度まで打ち上げるのが目的だったということだ。

「デルタ・クリッパーは地球低軌道へ2人の乗員と10トンの貨物・乗客、あるいは極軌道へ2人の乗員と5トンの貨物・乗客を運べる計画だった。また打ち上げ後に軌道上で推進剤の補給を受けることで、月への飛行、着陸も可能とされた。打ち上げの頻度、つまり1回打ち上げられて着陸し、再び打ち上げられるまでの期間は約7日とされ、最短で1日での再打ち上げも可能と見込まれていた。」

壮大なもんだな・・・。

月まで行っちまうのか・・・。

月面着陸まで・・・。

しかも、毎日・・・。

構想段階とはいえ、単なる弾道軌道ロケットではなく、有人月ロケットまで見越していたというところに、稀有壮大さを感じる。

まあ、既に当時でさえ、その20年前に実現した有人月ロケットを意識しなければならなかったということはあるだろう。

イーロンマスクが、ジェフベゾスに対して、嫌みたらたらコメントするのも、同じような発想かも知れない。

目指すところが違うというわけだな。

まあ、今は、火星とか、惑星間飛行でないと、説得力がないけどな。

浮沈子は、そっちの方が説得力がないと思っているんだがな。

実際、月に人類を送り込んでいる米国だからこその発想ともいえる。

それを、単段式再使用ロケットでやっちまおうというところがスゴイ。

つーか、まあ、甘い考えなわけだ。

「運用に関わる人員や設備も簡素化され、打ち上げ時には3名の人員と、3台の民生用ワーク・ステーションだけを必要とし、推進剤タンクなどの設備もすべて可搬式で、固有の発射台を持たなかった。ただし後述するように、これらの簡素化は必ずしも成功とは言い難かった。」

鳥嶋さんは、運用体制の貧弱さから、開発に支障をきたしたと評価しているが、イプシロンばりの打ち上げシステムを90年代に構築していたというのは特筆すべきだな。

エンジン4基を搭載し、装備重量20トン近いロケットを打ち上げるわけだ。

実験機とはいえ、完成度は高かったに違いない。

この構想は、もちろん、現代に引き継がれている。

宇宙往還機は、ロケット型であれ、プレーン型であれ、人類の夢のカタチなのだ。

もちろん、軍事用として計画された当初は、その高い運用性を求めたということはある。

実際に、使い物になったかどうかは分からない。

その後、米軍はX-37を開発している。

(X-37 (宇宙機))
https://ja.wikipedia.org/wiki/X-37_(%E5%AE%87%E5%AE%99%E6%A9%9F)

「アメリカ航空宇宙局の再使用型宇宙往還機離れに伴い、2004年以降は国防高等研究計画局主導のプロジェクトとなる。」

(謎に包まれた米空軍の宇宙往還機X-37B - その虚構と真実)
http://news.mynavi.jp/series/x_37b/001/

「ボーイングの精鋭チーム、ファントム・ワークスが手がけたX-37Bという「幻影」は、今後もしばらくは幻影のまま、地球の軌道上と、私たちの脳の中を疾り続けることだろう。」

怪しさの極致のような宇宙機だが、今後、どのように発展していくのかは分からない。

有人ミッションでない限り、宇宙から何かを持ち帰るという話は現実的ではないからな。

人間を地球低軌道から降ろすなら、カプセル型宇宙船で十分だろう。

現在、実機として飛んでいるのはXー37Bだけだが、これは、単段式ロケットでもなければ、惑星間飛行するような代物でもない。

打ち上げは、使い捨てロケットだしな。

こいつが、滑走路から宇宙空間に飛んで行って、軌道上でドンパチやって帰って来るとかいう話は、それこそ漫画の世界だ。

我々は、物理の法則を変えることは出来ない。

単段式再使用型ロケットの夢は、垂直型であれ、プレーン型であれ、未だに夢のままだ。

「DC-Xは、民間宇宙開発競争におけるスプートニクである」

使い捨てロケットから、再使用ロケットへ。

その先駆けとなる単段式垂直離着陸型ロケットは、米国と日本で形になり、とりあえず、ニューシェパードに引き継がれている(月までは行けないけどな)。

有人実験の話はまだ聞かないが、去年の6月には、4度目の再使用打ち上げが成功している。

(米ブルー・オリジン、ロケット再使用で4回目の打ち上げ・着陸に成功)
http://news.mynavi.jp/news/2016/06/20/088/

「同じ機体が昨年(2015年)11月と今年(2016年)1月、4月にも飛行しており、3回目の再使用による4回目の飛行成功となった。」

「この4回で使われた機体は基本的には同一だが、着陸の成功率を上げるための改良などが加えられている。」

「2年以内にも同ロケットを使った宇宙観光や宇宙実験をビジネスとして展開したい」

垂直離着陸機の系譜は、宇宙観光という新しい需要の中で途切れることなく継承されていくようだな。

一方の軌道打ち上げロケットの方は、使い捨てから再使用へという道筋をたどっている。

いつか、この流れが合流して、打ち上げたロケットに乗って帰還するという話になるんだろう(ニューシェパードは、カプセルが分離するので、雑味が残るしな)。

22世紀の人類は、宇宙空間への扉を開けて、軽やかに飛び立っていくに違いない。

それまでは、ファルコン9とかの1段目の回収で甘んじなければならない。

「多くの人から望まれるもさまざまな事情により実現しなかったもの。あるいはごく少数からしか望まれず、消えるべくして消えたもの……。」

夢破れたロケットの中では、幸せな未来を掴んだのかもしれないな・・・。

英国の選択2017年01月25日 15:45

英国の選択
英国の選択


一度は衛星打ち上げ能力を得た国家が、それを手離し、しかも、公式には有人宇宙飛行も否定し続けているという、にわかには信じられないような話がある。

(イギリスの宇宙開発)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%AE%87%E5%AE%99%E9%96%8B%E7%99%BA

「英国は軍事・科学両面から独自ロケットを開発し、独自に衛星を打ち上げることに成功し、世界で6番目の衛星打ち上げ国となった。」

「しかし、その後は科学者の米国への流出や、戦後植民地を失い資金が大きく減ったことなどから独自開発の道は諦めざるを得なくなり、アメリカ、ロシア、欧州宇宙機関などとの協力によって宇宙開発を行うようになった。」

「英国は有人宇宙飛行計画の開発に至ったことがなく、欧州宇宙機関の有人宇宙飛行計画に資金を拠出したこともないため、独自資金で有人飛行を行っていない。」

昨日読んだ鳥嶋さんの記事にも、英国の宇宙開発の話が出てくる。

(宇宙開発秘録 - 夢敗れたロケットや衛星たち 3 火星探検へ旅立ったダーウィン - 英国の火星探査機「ビーグル2」)
http://news.mynavi.jp/series/spacetechnology/003/

「ビーグル2は直径1cmの円盤状をしており・・・」

まあ、明らかに1mの間違いだな。

(宇宙開発秘録 - 夢敗れたロケットや衛星たち 6 俺の屍を越えてゆけ - 欧州初の共同開発ロケット「ヨーロッパ」)
http://news.mynavi.jp/series/spacetechnology/006/

(宇宙開発秘録 - 夢敗れたロケットや衛星たち 8 空飛ぶ口紅 - 英国初の衛星打ち上げロケット「ブラック・アロウ」(前編))
http://news.mynavi.jp/series/spacetechnology/008/

(宇宙開発秘録 - 夢敗れたロケットや衛星たち
9 空飛ぶ口紅 - 英国初の衛星打ち上げロケット「ブラック・アロウ」(後編)
http://news.mynavi.jp/series/spacetechnology/009/

初期の宇宙ロケットの開発には、紆余曲折があり、結局、英国は独自の打ち上げロケットから撤退する。

さらに、ESAにおいても、主導的役割を離れ、民間の宇宙開発に補助金を出すに留まっている。

初めに書いたように、有人飛行には否定的だ。

もちろん、英国ゆかりの人々が、数人宇宙に行っているが、国家主導で参加したわけではない。

変わった国だと、浮沈子は思うけど、英国にはそれなりの事情があるんだろう。

「1971年春、英国議会では英国の宇宙開発の将来に関する両院特別委員会が立ち上がり審議が始まった。打ち上げの失敗、開発の遅れと、さらに米国が安価で安定したロケットを運用していることで、何も独自のロケットにこだわらなくては良いのではという声が強くなったのである。」(第9回:以下、同じ)

「その結果が出る前の1971年7月29日、フレデリック・コーフィールド航空宇宙担当大臣は庶民院において、ブラック・アロウ計画を中止すると報告した。」

「米国から良い条件(コストや入手性など)でロケットを入手するための取引材料としてブラック・アロウの開発や打ち上げは続行すべきであるものの、それは最低限にとどめ、米国から良い回答が得られ次第、即座に中止すべきである、といった内容の提言をしている」

現在、世界の衛星打ち上げの半数を占めるESAの中核をなし、欧州のロケット開発をけん引しているフランスとの違いが際立つ。

「シンフォニー事件:
フランスと西ドイツは「シンフォニー」と呼ばれる通信衛星を開発し、打ち上げをNASAに依頼した。」(第6回:以下、同じ)

「ところがNASAは、打ち上げを引き受ける条件として「シンフォニーを商業目的で使わないこと」という要求を出した。」

「シンフォニーは技術試験を目的にした衛星ではあったものの、試験完了後は商業目的で使うことを考えていたため、仏独はこの要求に大いに面食らったという。」

「この背景には、当時の衛星通信事業を国際電気通信衛星機構(インテルサット)が独占していたことがあった。」

「米国はインテルサット以外の衛星通信システムを構築しようとする国からの衛星開発支援や打ち上げ依頼は拒否する」

「最終的に欧州はこの条件を飲み、1974年と1975年に1機ずつ、2機のシンフォニーが米国のロケットによって打ち上げられた。」

この事と関係すると思しき書簡が、ネットに上がっている。

(フランス―ドイツのシンフォニー通信衛星の打上げについての国家航空宇宙局による援助の提供のための条件に関する交換公文(1974年6月21日及び24日にワシントンで調印))
http://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_2/2-2-2-12_j.html

ワケワカの外交文書で、字面を追っただけでは分からない。

「この米国への遺恨と、ヨーロッパ・ロケットへの後悔は、欧州にとって「シンフォニー事件」として深く刻み込まれることになった。」(第6回)

英国は、米国と手を組んで打ち上げを有利に進め、仏独を突き放したわけだ(そうなのかあ?)。

ブレグジットの背景には、こんな話が隠れているのかもしれないな。

ヨーロッパであって、ヨーロッパではない、英国のビミョーな立ち位置を感じさせる。

しかし、有人飛行に否定的な英国は、ISSへの拠出はしていない。

この辺りも、ちょっと変わっている。

ついでだけど、第6回には、アリアンロケットの命名の話も出てくる。

「アリアンとはギリシア神話に登場する「アリアドネー」のことである」

(アリアドネー)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%8D%E3%83%BC

「テーセウスがクレータ島の迷宮より脱出する手助けをしたことで知られる。」

「アリアドネーは工人ダイダロスの助言を受けて、迷宮(ラビュリントス)に入った後、無事に脱出するための方法として糸玉を彼にわたし、迷宮の入り口扉に糸を結び、糸玉を繰りつつ迷宮へと入って行くことを教えた。」

まあ、何というか、テクニカルダイビングのラインワークのはしりだな(そうなのかあ?)。

まあ、どうでもいいんですが。

「この物語は「アリアドネーの糸」という言葉となり、混迷から抜け出したり、難問を解決したりするため鍵という意味」(第6回)

フランス人らしい、エスプリということにしておこうか。

英国は、現在でも独自の打ち上げロケットを持たない方針を続けている。

アランボンドのスカイロンには金を出しているようだが、この怪しげな軌道投入用単段宇宙機がものになるかどうかはわからない。

(スカイロン)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%B3

「イギリスの企業リアクション・エンジンズ(REL) により設計されたスペースプレーンである。」

もちろん、リチャードブランソンは、ナイトの称号を持つ英国市民だ。

(リチャード・ブランソン)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3

「サー・リチャード・チャールズ・ニコラス・ブランソン」

サーを付けなきゃならんのかあ?。

「2004年には「ヴァージン・ギャラクティック」を立ち上げ、宇宙旅行事業にも参入を開始した。」

英国人は、国家の意思とは直接関係なく、宇宙への志向を持ち続けているようだな。

米国もそうだが、国家が主導して宇宙開発に鎬を削るというのは、冷戦時代ならともかく、現在では余り意味がなくなったといえよう。

軍事利用の点では、現在でも競争が続いているが、平和利用については民間主導に代わってきている。

そこに利益があれば、金は集まって来るのだ。

国家は、軍事利用と、宇宙探査などの金にならない無駄飯食いの事業(!)だけに手を出すことになるんだろう。

それでいいではないか。

政府の金の尽きた英国は、早々に宇宙開発から手を引いた。

潜水艦発射核ミサイルシステム(トライデント・システム)も、米国から買ったわけだしな。

我が国は、初期には固体燃料ロケットの独自開発を行っていたが、米国からの技術導入に切り替え、事実上撤退した(そうなのかあ?)。

英国のように、その技術を手放すことはしなかったが、官需に支えられて細々と続けているだけだ。

英国が取った独自の道は、単に金詰りになったからだけなのかもしれない。

熟慮に熟慮を重ねた結果ではなく、やむを得ずそうなっただけかも。

ちょっと悲しい。

まあいい。

女王陛下のロケットが飛ぶことは、おそらく二度とないだろう。

007の世界だけで、ガマンすっかあ・・・。