スターリンク衛星はファルコンヘビーで打ち上げられるのか:フェアリングの拡大に伴うメリットを考察する2020年08月15日 19:11

スターリンク衛星はファルコンヘビーで打ち上げられるのか:フェアリングの拡大に伴うメリットを考察する


クサいネーミング以外は、なかなか参考になる記事を提供してくれるので、定期的に見ているイーロンX(チェコ語はさっぱりなので、自動翻訳が頼り)。

(SpaceXとULAが長期陸軍契約、Blue Origin、Northrop Grumman Sharpenに勝利)
https://www.elonx.cz/spolecnosti-spacex-a-ula-ziskaly-dlouhodoby-armadni-kontrakt-blue-origin-a-northrop-grumman-ostrouhaly/

「社内開発の利点は、SpaceXがエンクロージャーを最適化して、Falcon Heavyを使用して複数のStarlink衛星を一度に打ち上げることができ、エンクロージャーを救出して再利用するシステムを組み込むことができることです。」

米国の偵察衛星を打ち上げる要件の中で、今後、スペースX側が対応しなければならないのは、①光学系の制約から垂直統合しないといけない衛星を搭載する垂直組み立て棟の設置と、②ドデカいスパイ衛星を収納する大型フェアリングの開発だな。

民間企業が開発するなら、衛星を水平統合できるように改善するとか、コンパクトな既存のフェアリングに収まるように小型化するんだろうが、軍事衛星はそんなことはお構いなしだ。

やれやれ・・・。

で、ライターのペトルメレチンは、引用したように、ULAやアリアンに売っている既製品を使うのではなく、自社開発すれば再使用も出来るし近い将来スターリンク衛星を打ち上げる際にも活用できると書いている。

再使用については、回収船のキャッチネットに収まるかどうかという問題と、回収用の仕掛けを施して行う程のメリット(繰り返して使用される回数次第?)を検討しなければならないだろう。

スターリンクに使用することができれば、再使用回数は向上するが、果たしてそこにメリットはあるのか。

ファルコンヘビーでもファルコン9でも、ロケットの2段目は使い捨てになる。

ヘビーの場合、コアの再使用実績はないけど(回収には成功したものの、海が荒れておっこどしちゃったからな)、サイドブースターとコアが回収されれば、9と比較してそれ程コスト増にならずに運用できるのかも知れない(未確認)。

フェアリングのサイズは、せいぜい1.5倍程度だから、現行の60機の打ち上げが90機になる程度だろう。

その1.5倍のキャパシティを得るために、9の代わりにヘビーで打ち上げるのかどうかが問題なわけだ。

逆に、大型フェアリングを、そのまま9に付けて打ち上げるという可能性もある。

この場合のネックは、9の打ち上げ能力(低軌道で22.8トン)になる(スターリンク衛星は1機260kgなので90機だと23.4トンで重量オーバー)。

打ち上げ能力をフルに使うという点では、選択肢に入らないとは言えないかもな(浮沈子的には、有り得ると考えている:軽めで嵩のある相乗り衛星との組み合わせで、メリットを最大化できるかも)。

ヘビーのコアとサイドブースターを完全再使用できたとしても、5割増し程度の増強で大型フェアリング付けて飛ばすかどうかはビミョーな気がする。

ヘビーで5割増しの打ち上げを行うなら、多少一度に打ち上げられる機数は少なくても、大型フェアリングを付けた9の打ち上げ回数を増やして回した方がいい。

ヘビーと大型フェアリングの組み合わせということなら、アリアンが行っているような2機同時打上げの方が稼げる気がするしな。

こっちの方が現実的だ。

もちろん、スターシップが怪しげな予定通り開発に成功すれば、一度に400機の打ち上げが可能になるわけだから、ヘビーでスターリンク衛星という選択肢は消える。

つーか、初期段階ではヤバ過ぎて客が付かないだろうからな(ドカーン!)。

自前の衛星を何度か打ち上げて実績積むのにちょうどいいだろう。

その時期は、開発が順調に行ってさえ少なくとも5年は先の話だ(そうなのかあ?)。

それまでの繋ぎとして、軍事衛星用に開発したフェアリングを使うなら、ヘビーでは静止衛星の2機同時打上げ、9では軽い相乗り衛星と組み合わせた若干のスターリンク衛星の基数増加(80機位?)がいいところだ。

ヘビーでスターリンクを上げて活用するということなら、最低でも200機位(現在の3倍以上)を打ち上げられるような巨大フェアリングを開発しないとな。

打ち上げ重量は、使い捨て時の打ち上げ能力をベースに換算しているので、1段目(ヘビーではコアとサイドブースター)を再使用した場合の低軌道への打ち上げ能力は不明だ。

(ファルコンヘビー:機能)
https://en.wikipedia.org/wiki/Falcon_Heavy#Capabilities

「射場にすべての3つのブースターを返すのではなくドローン船にそれらを着陸はLEOへのペイロードの約30トンをもたらすであろう。」

まあ、どうでもいいんですが。

30トンじゃあ、スターリンク衛星は、せいぜい2倍弱しか上げられない。

ヘビーのお出ましは、ますます遠のくばかりだな。

スターリンクの打ち上げは、コストとの戦いだ。

第一段目やブースターの完全回収は大前提だからな。

スターシップにダイレクトに移行することになるのか、新規開発した大型フェアリングを使って9で増量するのか、打ち上げ実績重視でヘビーを噛ませるのか。

単純に考えれば、大型フェアリング+ヘビー+スターリンク衛星という選択肢はないような気がする。

ドローン船に3本とも回収するには、船が足りないしな。

その状態でも、重量的には2倍以下、容量的には1.5倍しか積めない。

打上げ回数を目一杯回して、スターリンク衛星の数を稼がなければならない事態にでもなれば、話は別かも知れない。

第二段の製造を加速して、9で飛ばすのとどっちが得かという話だろう。

うーん、どう考えても9で飛ばすのが正解だろうな。

打ち上げ回数を増加させる手立てを、何か考えておかなければならないだろう。

1万2千機のコンステレーションを維持するには、ランニング時で年間2400機を上げる必要がある(スターリンク衛星の寿命は5年)。

展開時には、その2倍の打ち上げが必要だ(たぶん)。

年間4800機。

現在の60機の打ち上げでは、年間80回もの打ち上げということになる。

べらぼーめ・・・。

大型フェアリング+9で80機に増量しても、60回。

毎週1回の打ち上げでは追い付かない。

しかも、自社事業だから、収益が入らなければ全て持ち出しになるし、通常の打ち上げ商売もこなしていかなければならない。

とても現実的な話とは思えないな。

スターリンク事業の成否を左右する打ち上げ機数の増加問題が、大型フェアリングでは解決できないことが見えてくる。

スターリンクとスターシップ/スーパーヘビーが一心同体であることは明らかだ。

一度の打ち上げで400機上げることができれば、年間12回の打ち上げで4800機を賄うことが可能だし、定常運用になれば年間6回で済む。

これが現実的な打ち上げ回数というものだろう。

スターシップ/スーパーヘビーの運用初期の実績作りにもなるしな。

なんとしても、開発を成功させなければならない。

それができなければ、スターリンク事業自体を危機にさらすことになりかねない。

懸念されるのは、技術的困難さだけではなく、資金ショートもある。

ワンウェブがいい例だな。

衛星間通信を使わないで地上局とのやり取りだけするという、外連味のない無難な仕掛けだったが、資金ショートでとん挫した(現在再建中)。

スターリンクは、低レイテンシを実現する仕掛けとして、宇宙空間における光通信による衛星間通信を目論んでいる。

現在のバージョン1には装備されていないし、いつの時点で展開が始まるのかも定かではない。

Kaバンドによる衛星間通信試験は、ひょっとしたら行われているかもしれないが、公表はされていないようだしな。

当面は、ワンウェブと同じく、地上局とのやり取りだけになるんだろう(未確認)。

低軌道衛星コンステレーションによる高速インターネット通信網は、成功すれば人類史上初めての展開になる。

20世紀に構想されたものの、衛星打ち上げの高コストなどがネックになり、事業は次々に頓挫した。

死屍累々だな。

打ち上げ手段を自前で持ち、部分的再使用による低コスト化、高頻度化にアドバンテージを有するスペースXが着手したことでにわかに現実味を帯びてきたが、一寸先は闇だ(宇宙空間だしな・・・)。

何が起こってもおかしくない。

見て来たように、現行のファルコンシリーズでは、所期の結果を得ることは困難だ(ひょっとすると、計画を縮小するかもしれないし)。

完全な目標達成は、スターシップ/スーパーヘビー事業と表裏一体の関係にある。

火星移民や月面着陸がどうなろうと知ったことではないが、スターリンクの成否は現実の今そこにある問題だからな。

確認しておこう。

スターリンク衛星が大型フェアリングを使ってファルコンヘビーで打ち上げられる公算は小さい。

あるとしたら、ファルコン9と大型フェアリングの組み合わせで、若干の機数増加を狙う程度か。

いずれにしても、スターリンク事業の展開には焼け石に水だ。

スターシップ/スーパーヘビー事業の失敗や大幅な遅延は、スターリンク事業の縮小や事業撤退に繋がりかねない。

目の離せない状況は、しばらく続きそうだな・・・。