🐼SLS現る:米国の米国による米国のための何か2022年03月20日 07:05

SLS現る:米国の米国による米国のための何か
SLS現る:米国の米国による米国のための何か


この2日間で2つの記事を没にしている。

一つは、ウクライナの軍事力の損耗について、英国国防省がコメントしたこと(うまく立ち回って、その多くを保持しているそうだ)。

もう一つは、入手した洞窟潜水のテキストの記述の話。

進歩の速いテクニカルダイビングの世界では、文字に書かれた情報は、その瞬間から過去の歴史となって葬られる運命にある。

もちろん、基本的な考え方は変わらない。

それを確認するために、TDIのオーバーヘッド環境ダイビングマニュアルを入手した。

これについては、現在読み込んでいるので、いつか必ず記事にしようと思っている(まあ、例によって当てにはなりませんが)。

それらのブログ記事を書きかけで放置し(ウクライナの話は消しちまいました:そんなあ!)、ほぼ1か月ぶりでフィットネスに行ってきた。

申し訳程度に筋トレして(既にこの時点で息切れ!)、300mの水泳を30分も掛けて休み休み泳いだ(ああ、めまいが・・・)。

やれやれ・・・。

帰りに冷たい雨の中を凍えながら自転車をこぎ(3回目のパンク修理はちゃんと直っていたようですな)、暖房全開にして暖を取りながらネットをチェックすると、エリックバーガーの思い入れたっぷりな記事が上がっていた。

(それは巨大で、高価で、何年も遅れていますが、SLSロケットがついに登場しました)
https://arstechnica.com/science/2022/03/its-huge-expensive-and-years-late-but-the-sls-rocket-is-finally-here/

「むしろ、それは終わりの始まりです。」

「SpaceXが今後数年間で最終的にスターシップの信頼できるバージョンをテストし、飛行し、生産するとき、それは世界の打ち上げ業界を混乱させるでしょう。」

NASAが開発する最後の打ち上げロケットであり、ほどなくスターシップに置き換えられていくという妄想を育んでいる。

ちょっと気になる記述もある。

「これは100%アメリカ製の大きくて頑丈なロケットです。」

浮沈子の記憶が確かならば、オリオン宇宙船にくっ付いているサービスモジュールは欧州宇宙機関が開発して提供している。

(欧州サービスモジュール)
https://en.wikipedia.org/wiki/European_Service_Module

「オリオン宇宙船のサービスモジュールコンポーネントであり、各ミッションの終了時に廃棄されるまで、その主要な動力および推進コンポーネントとして機能します。」

オリオン宇宙船は、有人宇宙飛行の際のSLSのペイロードに過ぎないから、狭義のSLS(せいぜい、2段目まで)の中には含まれていないと考えてもいいけど、記事に添えられている画像には、オリオンが乗っかっているからな(アルテミス1用の機体だし)。

「NASAは、欧州宇宙機関(ESA)がESAの自動輸送機(ATV)に基づいて、アルテミス1号のサービスモジュールを提供すると発表しました。」

「サービスモジュールは、再突入前の打ち上げから分離まで、乗組員モジュールをサポートします。これは、軌道移動、姿勢制御、および高高度上昇中止のための宇宙内推進機能を提供します。居住可能な環境に必要な水と酸素を供給し、電力を生成して貯蔵し、車両のシステムとコンポーネントの温度を維持します。このモジュールは、加圧されていない貨物や科学的なペイロードを輸送することもできます。」

オリオン宇宙船は、月軌道以遠のミッションにも対応できるとされている。

アルテミス1では、ドンガラでないオリオンの初のテストになる(有人飛行に必要なすべてのコンポーネントが装備されるのかどうかは知りません)。

通信とか、マニューバとか、そういうのはテストされる様だ。

アルテミス2では、初の有人飛行を行い、月を周って帰還する。

70年ぶりの月周回(フライバイ)。

SLSは、当面、有人飛行を支え続ける。

その先には、火星飛行とか、惑星探査とかも日程に上がってくるかもしれない。

2020年代は、アルテミスが忙しくて、探査機を飛ばすのは民間の仕事になるだろう。

地球低軌道以遠に人類を送り込むことが出来るオリオンと、それを打ち上げることが出来るSLSは、当面、米国だけが持つ絶対的なアドバンテージだ(中国が追い付いてこられるのは2030年代だからな)。

エリックバーガーは、オリオンの落日を夢想しているようだが、どっこい、あと20年くらいは飛び続けるだろう。

少なくとも、スターシップが有人で飛び始めるのは2030年代半ば過ぎだ(断定的!)。

2011年にスペースシャトルが退役し、NASAが開発を始めた使い捨てロケットが、ついに姿を現す。

米国人にとっては、待ちに待った瞬間なわけだ。

ファルコンシリーズの登場とか、ニューシェパードとかバージンの弾道飛行機もあったけれど、いずれもノイズに過ぎない。

SLSこそが、宇宙開発における米国のメインロードであり、地球低軌道以遠ということなら、スペースシャトルとISSの時代を挟んで、アポロ計画を引き継ぐ正当な後継であるわけだ。

感無量だろう・・・。

米国の、米国による、米国のための、それは、一つの象徴だ。

記事にもある通り、公共事業としての一面もある。

効率を追求するよりも公平を追求し、墜落爆発炎上木っ端微塵になるよりも永遠に続くテストを繰り返して打ち上げに万全を期す。

41億ドル(以前は20億ドルくらいって聞いてたけどな)というべらぼーな打ち上げコストは、NASAの探査計画を圧迫するだろう。

しかし、そのコストは米国人が望んだことだし、その恩恵は米国人が受けている。

議会は、常にSLSの味方だった。

長らく待ち望まれていた打ち上げは、運が良ければ年内に行われる。

ウエットドレスリハーサルと呼ばれる発射台での燃料を注入してのカウントダウンテストで問題が起きなければ。

何かが起これば話は別だ。

開発の各ステージで必要なテストを繰り返し行ったとしても、全てのコンポーネントを統合して点火直前まで持って行くのは初めてだしな。

使い捨てロケットだから、飛ばして見て回収して調べることはできない。

一発勝負なわけだ。

しかも、有人飛行を前提としている。

念には念を入れて、最後のテストに臨む。

どんなトラブルが起こるんだろう?。

オリオンとの接続によるSLS側なのか、それともSLSに乗っけたことによるオリオン側のトラブルなのか。

電気的なテストは、すでに組み立て棟内で行われている。

膨大な燃料を入れ、圧力をかけ、温度条件を打ち上げと同じようにして、配管とバルブ、無数の電子機器とそれを繋ぐ配線が何一つ問題を起こさずに機能するかを見る。

巨大な複雑系のシステムは、技術屋にとっては悪夢だ。

細部に分割し、複数の段階で統合し、検証を繰り返してもバグは残る。

それは、ある特定の条件でしか発現せず、普段は隠れた瑕疵として内在する。

だから、テストは想定されるあらゆる条件で行われ、評価されるわけだが、想定外の事象は現実の世界ではいくらでも起こりうるのだ。

そもそも、固体燃料ブースターをくっ付けることだって、今回は初めてということになる。

機体に掛かる機械的負荷も、単体テストとは異なるからな。

地上での最終テストにパスしたとしても、打ち上げが上手くいく保証はない。

こればかりは、やってみなければ分からないのだ。

墜落爆発炎上木っ端微塵にならないとは限らない(なんだ、結局同じじゃん!?)。

現に、スペースシャトルはそうなったからな。

SLSが時代の流れに逆行して使い捨てロケットになったのだって、再使用宇宙機は時期尚早という当時の判断があったわけだ。

時代の流れは、その見通しに反し、ファルコンシリーズは順調に部分的再使用を繰り返しながら、打ち上げロケットの大幅なコスト削減に成功している。

乞食のように、フェアリングまで拾い集めながらな(もっとも、600万ドルだそうだから拾った乞食は億万長者だ)。

ともあれ、当面はテストのためとはいえ、完全に組み立てられたSLS(オリオン含む)が発射台に到着した。

米国にとっては、重要なマイルストーンだろうし、実に絵になる光景だ(3Dのイラストではありません)。

中国やインドは、未来の自国のロケットをそれに重ねて見ているかもしれない。

ロシアは、それどころじゃないだろうけど。

我が国は、永遠のパートナーとして(自分でやる気はさらさらないし・・・)、どうやったらあれに乗せてもらえるかだけを考えているだろう(そうなのかあ?)。

下請け根性丸出しだな。

アポロ計画が人類の月着陸という明確な目標を持って始められたのとは異なり、SLSには具体的な目標がない。

当面は、アルテミスだけど、まあ、それはいつか来た道なわけだ。

持続的な月へのアクセスを果たすために、月軌道ステーション(ゲートウェイ)の設置と運用が挙げられているし、そこをベースとした火星探査の基盤としての位置付けもあるけど、まだ、多少のブレが出てきそうな気もする。

今回の発射台への移送は、船舶で言えば進水式のようなもんだ。

水に浮かべ、音楽が鳴り、シャンパンボトルを割って見せるが、仕上げはこれからということになる。

ロケットの場合は、多少違うけどな。

宇宙船であるオリオンのテストは、とにかく宇宙空間に出ないことには始まらない。

その意味では、まだ、何も始まっていない。

エリックバーガーは、これは終わりの始まりだというが、そんなことはない。

まあ、始まる前から終わっているという認識も、あながち的外れとは言えない。

しかし、それは、台頭しているスペースXのスターシップが成功した暁の話だ。

浮沈子は、貨物ベースの打ち上げが軌道に乗るのに10年掛かると見ている(2段目を使い捨てにするなら、確かに数年以内に可能かも)。

2段目の完全回収に、安定的に成功しなければ、とても人間は乗せられない。

次善の策としては、ペイロードにオリオンカプセル(クルードラゴンでもいいんですが)だけ入れて、宇宙空間で放り出して、そいつで帰還するという手はある(ナンセンス!)。

が、まあ、不可能じゃない(たぶん)。

これなら、万が一2段目が着陸に失敗しても、安全に有人宇宙飛行を行うことは可能だからな。

2段目の回収が安定して行われ、実績が認められて無条件で人間が乗れるようになるのは2030年代半ば以降だろう。

SLS(とオリオン)は安泰だ。

少なくとも、向こう10年間は、直接のライバルが登場する気遣いはない。

墜落爆発炎上木っ端微塵なスターシップなんかより、中国の次期巨大打ち上げロケット(もちろん、使い捨て)の方が、現実的な脅威になるかも知れないしな。

急速に追い上げてきているインドの動向も気になる。

SLSの多難な船出は、ライバルの出現の時間を与えてしまった。

アポロ計画から70年。

21世紀のサターンロケットが登場した。

米国の、米国による、米国のための何か。

それが何であるかを見極めるには、もう少し時間が必要なようだ・・・。

<以下追加>ーーーーーーーーーー

(打ち上げに向けて準備着々、NASAの巨大ロケット「SLS」にかかる期待とリスク)
https://wired.jp/article/nasa-finally-rolls-out-its-massive-sls-rocket-with-much-at-stake/

「アルテミス計画のパートナーである欧州宇宙機関(ESA)は、エアバスと契約してオリオンのサービスモジュールを製造している。」

ちゃんと言及があるワイアードのコンサバな記事。

「運用には必ずしも想定通りではないことが起きるのが常です。それでもドレス・リハーサルをしっかりやっておけば、問題が起きそうなところを特定し、素早く対処する方法を計画できますから」

「1ミッションあたりのコストは当初の見積もりだった約20億ドル(約2,400億円)よりはるかに高くなる」

「最初の4つのミッションは、それぞれ1回の打ち上げに41億ドル(約4,900億円)かかることが判明しました。これは維持コストのように思われます」

計画ではアルテミスは、年に1度程度しか飛ばない。

直接費用だけではなく、その間の関係者の給料、関連施設の維持管理費とかも払わなければならないからな。

「SLSが国家経済に利益をもたらす理由を訴え、ロケットシステムはすべてのNASA研究センターの科学者と技術者、そして全50州にわたって存在する3,800のサプライヤーからもたらされた」

「国家にとって価値あるものだと考えています。強力な国家的投資なのです」

再使用についても、問題提起している。

「わたしは使い捨てロケットを断じて受け入れることができません。いまの時代、リサイクルと再利用を重視すべきです。発射台に戻ってこれるロケットをつくれることはスペースXが実証していますし、このやり方を採用すべきであることは明らかです」

ちなみに、ファルコンシリーズで「発射台」に直接戻ったロケットは1機もない(LZ-1とか、ドローン船とかはあるけどな)。

まあ、どうでもいいんですが。

ワイアードの記事は、特に新たな視点を与えるなどということはないが、米国がこのロケットをどう見ているかというアウトラインを網羅している気がする。

問題はあるけど、おおむね歓迎というところか。

「NASAが手がけるこうしたことは、対立を乗り越え日々の単調な仕事を克服し、よりよい世界とよりよい場所をつくろうとする試みです。そのようなビジョンをもつ機関と国家に恵まれていることに感謝しています」

「よりよい世界とよりよい場所」か・・・。

クレムリンに一発お見舞いした方が、余程効果がある気がするんだがな・・・。