🐱メキシコへの道:第3章:再び筋肉の記憶2023年08月13日 22:41

メキシコへの道:第3章:再び筋肉の記憶


<おことわり>ーーーーーーーーーー

 この記事では洞窟潜水(ケーブダイビング)に関する記述が出てきます。閉鎖環境(直接水面に浮上することができない環境)での潜水は非常に危険です。指導団体による正規のトレーニングを終了せずに行うことは命に係わります。
 浮沈子の個人的見解ですが、オープンウォーター(海洋など、直接水面に浮上できる場所)で行うダイビングに比べて100倍ヤバいです(オープンウォーターダイビングも十分危険なレジャーですが)。
 知る限りの指導団体では、講習は段階を踏んで行われます(実際の講習では連続して行われることもあるようです)。各段階ごとに侵入できるエリアには制限が設けられています。それを超えて洞窟の奥へ侵入することは禁じられています(講習終了した段階の制限を超えては進めません:リスク管理は厳格です)。
 一方、正規の訓練を受け、正しい態度や十分なスキルを身に着け、必要な器材を十分に使いこなすことができれば、そして、洞窟のさらに奥に何があるかについて、カリブ海のカラフルな熱帯魚の群れよりも興味があるなら、充実したダイビング体験ができることは請け合います。

では、死神の絵が描かれている看板の奥に行ってみましょう・・・。

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(メキシコへの道:第2章:筋肉の記憶)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2021/12/13/9447714

「(失われた仲間の移転)
https://nsscds.org/safety/relocatinglostbuddy/
・・・
ロストバディ・・・。
嫌な言葉だ。」

洞窟潜水では、この話をしないわけにはいかない。

この記事を書いた時には、浮沈子はまだカバーンダイバーだったから、ロストバディ(ロストダイバーとも言うようです)のスキルは知らない。

「この話は、浮沈子に恐怖と緊張と不安を与える。」

今日は、筋肉の記憶(muscle memory)ではなく、ロストバディの話をする。

引用されているNational Speleological Society-Cave Diving Section (NSS-CDS)の記事の最初には、ロストラインの話もちょろっと出ている。

「洞窟ダイバーがガイドラインを見失った場合、それは通常、認識不足が原因です。誰もが知っているように、洞窟ダイビングをしている間、意識は私たちの親友です。また、タスクの負荷が増加すると、意識が低下することもわかっています。」

だから、意識を高い水準に維持するために、筋肉の記憶を増強して、ルーチンである作業を意識の下に追いやり、肝心なことに意識が向くようにするという話につながる。

が、本日のメインの話は別。

ずばり、ロストバディそのものだ。

「行方不明の相棒を探すシナリオ:
あなたと相棒は洞窟の中を泳いでいます。リードダイバーとして、あなたは適切な光の認識を通じて、後ろにいる仲間の意識を維持します。15 ~ 20 秒ごとに、後ろにいる仲間があなたの視界に光線を通過させます。」

「これにより、リーダーが立ち止まって振り返る必要がなくなり、最小限の労力でチームの結束を保つことができます。友達の視界のどこに光を当てればよいのか、どうやって知るのでしょうか?」

「相手は自分のライトが当たっているところを見ているは​​ずなので、ライトを 15 秒または 20 秒ごとに適切に点滅させることで、相手にあなたの存在を認識させることが簡単になります。」

こうして、継続的にライトコンタクトを保っていれば、理屈の上では15秒または20秒以上のコミュニケーションの断絶は起こらないはずだ。

「私たちのシナリオでは、リーダーの認識不足がバディの分離につながります。この例では、前にいるダイバーは、自分のバディがもう後ろにいない、完全に視界から外れていることに気づきます。」

つまりだな、先頭を泳いでいるダイバーがぼーっとして(浮沈子のことかあ?)、後ろのダイバーからのライトコンタクトの断絶に気付かなかったわけだ。

喝ーっ!。

が、まあ、そういうシナリオなんだから仕方ない。

「彼/彼女は今何をすべきでしょうか?」

具体な手順に映る前に、現状を確認する。

「たとえば、3,000 psi でダイビングを開始し、2,200 psi で仲間がいなくなったことに気づきました。さらに 200 psi を使用して 2,000 psi まで下げ、さらに 300 psi を使用すると、新しい回転圧力は 1,700 psi になります。」

3,000 psi:206 bar
2,200 psi:151 bar
200 psi:13 bar
300 psi:21 bar
1,700 psi:117 bar

浮沈子には、この計算の根拠が分からないんだがな。

そもそも、ロストバディで捜索に入ることができるのは、原則として往路に限られる(流れなどがない往復の場合:帰路では、ガスの余裕はないはず:3分の1ルールの場合)。

セオリーとしては、エキジットに必要なガスの少なくとも2倍以上を残して捜索を終了させなければならないわけだから、既に使用した800psi(55bar)の2倍(1600psi:110bar)以上を残しているわけで、辻褄は合っている。

「ステップ 1:ライトを覆い、行方不明の友達のライトを探します。」

「ライトを隠したときに、ラインを上下に数フィート泳いだ後、どこにもそれらが見えない場合。次に、「Lost Buddy」モードに入る必要があります。」

この段階で、既にガスを消費しているわけだからな。

が、まあ、そういう運用なら仕方ない(ライトを隠したりした段階では、まだ捜索モードじゃかったので、どれ程のガスを使って捜索するかはこの時点で決める)。

このケースでは、ガスの余裕は十分あるしな。

「ステップ 2:出口の方向を示す線の上に、自分の名前またはイニシャルを書いた線の矢印を置きます。」(ディレクションマーカーの設置:捜索活動に入る前に行う。)

「ステップ 3:ガス供給を確認して、検索に使用できるガスの量を決定します。」

「ステップ 4:移動していた路線の上下の捜索を終えたら、その路線から外れた場所を捜索します。」

「相棒が移動した方向の証拠を見つけたら、安全リールを永久ガイドラインに結び付けて探しに行きます。証拠には、シルト跡や排気泡からの浸透の可能性が含まれる可能性があります。頻繁にライトを覆い、彼らの光を探してください。」

「ステップ 5:仲間を見つけたら、その仲間を自分の前に置き、コースを反転して永続的なガイドラインに戻ります。」

このシナリオでは、幸運なことにロストしたバディを見つけることに成功している。

「十分なガスがあり、感情がコントロールされていることを確認してください。」

設置したリールの回収にもガスを使うからな。

その時間(=ガス)が十分にあるかどうかを確認する必要がある。

「相棒を見つけた場所にリールを置いておく必要がある場合は、リールを放置して別の日に取りに戻るか、誰かに回収してもらいます。」

出口方向の確認のためにディレクションマーカーを設置するタイミングは、上方(または下方)に移動する前である必要がある。

上下方向の移動では、身体が回転してしまう恐れがあるからな。

どっちが出口か分からなくなる可能性がある。

また、パーマネントラインから離れて捜索する際は、上下方向であれ前後左右方向であれ、セーフティラインを、パーマネントラインに設置したディレクションマーカーに結び付けて行う必要もある(このシナリオは、その点がやや甘い)。

捜索のノウハウはいろいろあるようだが、基本的には泡やシルトの痕跡を探すことになる。

光は特に重要だ。

探しているダイバーのライトを見つけるために自分のライトを隠して、はぐれたダイバーの光を探すこと(シールドライトサーチ)は、頻繁に行う。

細かい手順は他にもいろいろあるが、この記事にある程度のことは必要最低限だ。

シナリオでは見つけられたことになっているけど、決められたガス量を消費する前に見つけられなければ、セーフティリールの端を岩などに固定して残して捜索を打ち切らなければならない(パーマネントライン上のディレクションマーカーも:バックアップライトを残していく手順もあるようです:指導団体によるのかも)。

浮沈子は、この手順をぶっつけ本番で行った(当日、陸上でのシミュレーションと、現場でのインストラクターのデモンストレーションはありましたが)。

講習では、特にストレスが掛かる状況は作らなかった(洞窟の中でこのスキルをやること自体がストレスですが)。

他の同行のダイバーは、浮沈子が捜索している時もライトオンだったしな(ホントは、消しておくか身体に押し当てていた方がいいのかもしれない)。

手順を理解して実践させるのが目的ということなら、そこまでシビアな状況を演出することはないのかも。

安全管理上の問題もある。

まあいい。

ロストバディで問題になるのは、決められたガス量を超えて探し続けてしまうことだろう。

また、探しているうちに夢中になって、自分自身が出口を見失う恐れもある。

ディレクションマーカーの適切なタイミングでの設置や、セーフティリールの展開は必須だ。

ミイラ取りがミイラになっちまう話は、実際にあるようだしな。

が、リードダイバーを追いてきぼりにして、Uターンして出口に向かうことがあるだろうか(往路だから、それはあり得る話だ)。

何か、やんごとなき事情(プライマリーライトの故障など)が重なって、適切なタイミングで明確な合図を送れなくなり、リードダイバーがそれを認識できなくなる可能性がないとは言えない。

その場合は、さっさと捜索を切り上げて、出口に向かうのが正しい。

復路(帰路)で追い抜かれることはまず考えられないし、その場合に捜索に使えるガスが残っているかどうかはビミョーだ。

洞窟内の流れ(ダウンストリームかアップストリームか)にもよるし、深度変化で使えるガス量も変わってくるからな。

実際の話としては、ケースバイケースということになるかもしれないけどな。

が、原則としては帰路(復路)での捜索はない(ライン上で暫く待つ程度か)。

NSS-CDSの記事にあるように、ロストバディの際にはストレスが掛かってくる(スプールの扱い程度の基本スキルは、筋肉の記憶に押しやっておく必要がある所以だ)。

捜索時だけではなく、捜索を打ち切って一人で(チームが2人のダイビングの場合)帰路に就く際も、ガスの消費量が上がってしまう可能性がある。

心臓バクバクしながら、走馬灯のように頭の中を駆け巡る妄想にさいなまれながら、しかし、必要な注意を払いつつ、ソロダイビング(これもストレスですが)で戻らなければならない。

それは、場合にもよるけど1時間に及ぶこともある・・・。

ひょっとしたら、もうちょっとで合流できたかもしれないバディを、みすみす置いてきちまったかもしれない。

今頃、向こうでもこっちを探しているんじゃないだろうか。

今からでも、もう一度戻って探し直した方がいいんじゃないか(ヤバいな・・・)。

このまま戻って、バディがいなかったらどーしよー(ヤバ過ぎ!)。

ロストライン(ロストガイドライン)、ロストバディ(ロストダイバー)は、イントロケーブのスキルの双璧だ。

シチュエーションとしても、最悪の事態を想定している。

目隠ししてラインを辿りながら泳ぐとか、その際にエアシェアしているとかは、まあ、それなりにストレスはあるとしても、器材やスキルは確立しているので、それをマスターするだけの話になる。

それを言ったら、ロストラインやロストバディも、スキルとして難しいところはないし、講習では淡々とこなせばいいだけの話だ。

浮沈子も、これらは、事前講習では惨憺たる状況だったが、本番ではあっさりクリアした(ロストラインは、大瀬の特訓では2度とも失敗したけどな)。

が、この2つのスキルは特別だ。

実際に発生すれば、命に係わる。

こういう事態を起こさないことの重要性を、身に染みて叩き込むためのスキルなんだろう。

ロストラインも、ロストバディも、本来あってはならないインシデントだからな。

自分自身がガス切れになるリスクを冒して、バディを探すことはしない。

オープンウォーターのレスキューコースでも、その基本はしっかりと習う。

そりゃあ、理屈ではそうだし、頭では分かっている。

じゃあ、それを躊躇わずに実行できるかと言われれば、その場になってみなければ分からないとしか言えない(ああっ、Cカード返上だな・・・)。

確認しておこう。

「彼/彼女は今何をすべきでしょうか?」(再掲)

・捜索に使えるガスがなければ捜索しないで、出口に向かう。
・捜索に使えるガスがなくなる前に捜索を打ち切って、出口に向かう。

捜索のために何をどうするという詳細には、ここでは触れない(講習で習ってください)。

自らを危険に晒ことなく、正しいタイミングで(保守的な運用も大切です)、躊躇わずに出口に向かうというのがロストバディの鉄則だ。

俺様(彼/彼女)に、そんな真似は出来ないというなら、選択肢は一つしかない。

ケーブダイビング(イントロケーブエリアであっても)をすることは出来ない。

やめる、諦める、断念する、アバンダン!。

そこに、他の選択の余地はない。

もちろん、バディもそのことは承知している(自分がロストされたときも同じだからな)。

冷徹なケーブダイビングの掟を受け入れることができる者のみが、死神の看板の奥へと進むことができるのだ。

カバーンエリアでやっているのは、あれは、まあ、カバーンダイビングの体験ダイビングだからな(そういう位置づけのようです)。

ガイドさんが、人数制限して、全員が最奥から戻ってこられるガスを携行して実施している(ったって、セカンドステージの数は足りませんが)。

時間も距離も短いし、リストリクションもなければ、もちろん、ジャンプもギャップもない。

それにしたって、直上浮上できない閉鎖環境には違いないし、リスクはオープンウォーターの比ではない。

救いがあるとすれば、波はないし、水温は暖かいし、水中危険生物は他のダイバーだけということくらいか。

まあ、どうでもいいんですが。

ケーブラインが引かれている死神看板の先(ケーブエリア)は、ハッキリ言って別の世界だ。

文字通り、一寸先は闇だからな。

この地球上で最も暗い。

小さなライトを携行し、たった1本のナイロン製の紐を頼りに、その洞窟の奥へと突き進んでいく。

知識と装備とスキルと態度、それらに裏付けられて経験を積めば、それなりの安全は手に入るかもしれない。

が、洞窟という絶対的な存在が内包する危険を、ゼロにすることは決してできないのだ。

その洞窟潜水だって、週末に楽しむふつーのレジャーに過ぎない。

探検家ばかりが潜っているわけじゃない。

家族も恋人もいる、ふつーの人々が嗜む遊びだ。

ダイビングが終われば、それぞれが家に帰っていく。

きっときっと、必ず、帰っていかなければならない・・・。

ロストライン、ロストバディは、あなたが、或いは、あなたの相棒が、二度と家路につくことができないかもしれない状況なわけだ。

幸運にも、インシデントで済んで、見失ったラインに辿り着けたり相棒を見つけられたりした場合は、その原因を徹底的に追及して(もちろん、エキジットした後ですが)、二度とそのようなことが起こらない対策を立てることが必要だ。

そうでなければ、いつか必ず、インシデントがアクシデントに発展する。

洞窟潜水を侮ってはならない。

無視したり、省略したり、なくても構わない器材やスキル、手順はない。

死神は、それを待っている。

人間の怠慢、傲慢、思い込み、勘違い、その他もろもろの、まあ、言ってみれば人間の本性がむき出しになるタイミングをな。

錆び付いたスキルや薄れかけた知識をそのままにして、ブランクが空いたままで洞窟に入るのだってヤバい話だ。

テクニカルな部分はキッチリとリカバリーして、身体的にも機能を維持して、基本スキルを筋肉の記憶にしておく必要があるな。

洞窟に潜む死神に、こいつは俺の獲物じゃないと思わせなければならない。

人間は、洞窟で生きることはできない。

我々が住む世界は、光が溢れ、木々の葉が風にそよぎ、鳥たちの声が聞こえてくるこの地上だ。

モノトーンに沈む洞窟の中じゃない。

洞窟に潜る度に、そのことを確認することになる。

死神に愛され、永遠にその世界に留まることのないようにしないとな・・・。

<この項、終わり>