魔物の正体:LE-9に設計変更を迫る事態2020年09月24日 16:47

魔物の正体:LE-9に設計変更を迫る事態
魔物の正体:LE-9に設計変更を迫る事態


(H3ロケット開発を襲った“魔物”とは?、エンジンに見つかった技術的課題)
https://news.mynavi.jp/article/20200924-1332582/2

「2021年度に打ち上げるということも、(今回起きた問題への対処などに)自信がなければ言わない」

大見え切った岡田プロマネ。

エンジン開発に伴う目に見えなかった魔物(開発に伴う想定外のトラブル)の正体が見えてきた段階で、闘志むき出しなのは結構だが、一方で厄介な課題を突き付けられている。

見えてきた2つの課題は、このエンジンの特性に関係し、性能と安全性のバランスを高度にとらなければならない核心部分だからな。

・燃焼室内壁の開口:
想定外の燃焼室内の温度上昇に伴う内壁表層部の溶損による板厚の減少と、それに伴う構造強度低下により開口

更には、冷却不足を改善しようとして、冷却溝内に送る液体水素の流量を増やしたり、フィルム冷却用の水素の量を増やせば、これらは燃焼に貢献しないため当然性能は下がる。

エンジンの堅牢性を維持しようとすれば、性能を下げるしかない。

燃焼室の内壁は、熱交換効率を上げるために限界まで薄く作られている(0.7mm)。

エキスパンダーブリードサイクルエンジンの本質的な限界を、製造技術で突破しようとしてきた開発の基本戦略が脅かされている。

うまくいったと思われている噴射器の設計まで弄ることになれば、手戻りは相当になるだろう。

異常燃焼(定常燃焼時の想定外の温度上昇など)は数値モデルでシミュレートしきれないことがハッキリしたわけで、高信頼性開発プロセスという泣く子も黙る宝刀の刃が欠けてしまったわけだ。

もっとも、今回のトラブルのデータを取り込んで、更に高度のシミュレーションが可能になり、グリグリするだけで異常燃焼パターンを再現できるように進化させることが出来るかもしれない。

ころんでもただでは起きない。

それは、再設計に踏み込み確定の水素ポンプも同じだ。

・液体水素ターボ・ポンプのタービンの疲労破面:
液体水素ターボ・ポンプの第2段動翼(タービンの一部)の、76枚中2枚に、疲労破面(ひびのようなもの)を確認

共振域を避けて、誤魔化し運転(!)で凌ごうとしていたわけだが、安全と思われた回転域でもヒビ入っちゃったから、仕切り直しで全回転域から共振域を排除するというトーゼンな対応となった。

やったろうじゃないの!。

日程優先で、見切り発車してテストフライト2で辻褄を合わせようという姑息な手段にダメを食らったようなもんだ。

開き直って、振出しから出直す(それが正解だな)。

今回の開発は、コスト削減を錦の御旗にして、そうとうアグレッシブに挑戦している。

3Dプリンターによる噴射器の製造、大容量電動バルブの採用、水素側ポンプの製造(LE-Xでは米国側開発)と一体成型。

世界初の大出力エキスパンダーブリードサイクルエンジンだが、それはとりもなおさず原理的に筋が悪く、誰も手を出さなかっただけの代物だ。

シミュレーションと部分的な開発実績、伝家の宝刀である高い製造技術でクリアできると見込んで始めたものの、いよいよ本番エンジンを回してみたらボロボロと問題が噴き出してきたというのが実態ではないのか。

それがエンジン開発という物だろう。

BE-4も、ULAにサンプル出荷したエンジンのターボポンプトラブルででスタックしているし、ラプターも長秒燃焼はクリアしていない様だ(飛行テストの度に、どっかから火が出てるしな)。

LE-9は産みの苦しみを味わっている。

浮沈子は、H2Aとの併用期間を置くもんだと認識していたんだがな。

現在は少なくとも、テスト飛行を2回やったら正式導入になるらしい。

そっちもついでに見直して、H2Aで保険かけといた方がいいような気がする。

それだけ自信があるということなんだろうが、魔物が本気で牙を剥くのはこれからかもしれない。

高効率のタービンを、なるべく少ない水素で回して燃費を稼ごうとすれば、必然的に燃焼室から熱回収する冷却水素を減らさなければならず、その分フィルム冷却に回す水素は増やさなければならない。

どう転んでも、燃焼に寄与する水素を減らさなければ大出力エンジンが成立しない原理なわけだ。

工学的な限界がある中で、その最適解をピンポイントで取りに行く技術カルトなエンジン。

安全と高性能とコストダウンを同時に手にすることは困難を極める。

有人ロケットや再使用もターゲットとしていると言われるが、今はそれどころじゃないだろう。

正確な表現じゃないが、ターボポンプの羽根(2枚)にはヒビが入り、燃焼室には無数(14個)の穴が開いたわけだ。

やれやれ・・・。

ある意味では、最も困難と思われた領域で、案の定トラブったともいえる。

物理の神様は公平だ。

正しい対応をしなければ、合格は出さない。

合格ラインを下げての仮合格はさせてくれなかったわけだ。

ちゃんと勉強して来いと。

シミュレーションでカンニングしないで、ちゃんと壊して確認しろと(そうなのかあ?)。

タービンブレードのひずみセンサーの話は初耳だが、それが開発のコストと期間にどれ程の影響を与え、貢献するのかは分からない。

少なくとも、今回の延期の決断には貢献したわけだ(本番でぶっ壊れるよりはよほどマシだがな)。

そっちがボトルネックなのかどうかも分からない。

燃焼室の開口の方が、浮沈子には厄介な気がするんだがな。

また、2つのトラブルは、互いに独立の事象といわれているが、熱交換に使われる燃焼室冷却水素の流量が見直され、タービンを回す水素量が変われば、影響は避けられなくなる(燃焼室の冷却を、熱交換とフィルム冷却のどっちで対応するのかは不明)。

それらを上手く塩梅して、これで行けると自信を持って回してみたら、別の問題が出てきたりしてな(そ、そんなあ!)。

壊してみなけりゃわからんものは、やっぱ壊してみなくっちゃ・・・。

<以下追加>----------

記事で気になったのは、試験翌日には分かっていたトラブルの公表が、思った通りターボポンプのテスト後に設計変更しなけりゃムリポな状況が明らかになった後だってことだ。

「今年5月26日に8回目の試験を実施し、その翌日にエンジンの内部点検を行ったところ、新たに2つの技術的な問題が確認された。」

「翼振動計測試験を行い、タービンに起きた事象がクリアにわかったことで、『これはきちっと設計変更をする必要がある』と、(対策のため延期することに対して)腹をくくった」

それまでは、延期せずに何とかなると思っていたようだ。

うーん、ネガな情報はあんま公表したくないしな(そうなのかあ?)。

「予定どおりに打ち上げたかったというのが本音。」

「いろんな原因が考えらえるなかで、『なんとか2020年度中の試験機1号機の打ち上げができないか』という一縷の望みもあった。」

拙速に走らずに済んだのは、タービントラブルの原因を明確にしたリモートセンサー(ひずみゲージ)のおかげだな。

「おそらく世界でも前例がない試験で、少なくとも日本では初めて。IHIが航空機用の試験でこの技術をもっていたことから実現した。問題が起きたために行ったことなので胸を張れる話ではないが、技術的にものすごいことで、この試験の結果、かなり多くのことがわかった」

細かいトラブルの話はいくらでもあるだろう。

それらをすべてリアルタイムに明かす必要はない。

が、数か月塩漬けにされた燃焼室のトラブルは看過できない。

浮沈子は素人だからな、燃焼室に穴が開いた(14個も!!!!!!!!!!!!!!←14個)と聞いただけでビビる。

そっちが、簡単に解決できそうなら、そして、ターボポンプの故障が設計変更に至らずに済めば、公表はさらに遅れたかもしれず、下手したら明らかにされなかったかもしれない。

LE-9の開発は、世界のロケット工学の注目の的だからな。

情報戦略的にも、キッチリ管理されているに違いない。

今回、特別に記者説明会を開催したのだって、浮沈子みたいな怪しげなのが言いたい放題なのを牽制する効果も狙っているだろう(そうなのかあ?)。

そういうところで出てきた情報を鵜呑みにしていいものかどうか。

平和利用とは限らない我が国のロケット事情もある。

軍事衛星を打ち上げることもある基幹ロケットの開発事情は、高度な国家機密だ。

まっとうに開示されると思う程お人好しではないけど、気をもむ人の気にも配慮してもらいたいもんだな・・・。

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