タイプR2014年08月03日 12:36

タイプR
タイプR


PADIの定めるタイプRというリブリーザーの器材は、フルスペックのインスピレーション(といっても、二酸化炭素センサーは付けてませんが)で潜っている浮沈子から見ると、中途半端というか、手を抜いているというか、なんであんなもんを作ったのか、と思う。

(PADI CCR Type R)
http://blue-immersion.org/wp-content/uploads/2010/12/PADI-CCR-Type-R3.pdf

いつまで見られるか分からないが、レクリエーショナル市場にリブリーザーを導入しようとしたPADIの、戦略の概要である。

(RF3.0 - CCR Communities - Recreational Diving:動画(静止画?)出ます)
https://www.youtube.com/watch?v=S05WnFvzVqw

2012年の5月に行われたリブリーザーフォーラムの発表だが、PADIがタイプRで、何を狙っているのかが分かる。

ダイバーが身に着けなければならないスキルを減らして、取っ付きを良くし、レクリエーショナルダイビングに風穴を開けようという、野心的な器材であることがわかる。

「Why are rebreathers important?

・ Some recreational divers want to use rebreathers in their operational envelope
・ The capabilities of the diver must be recognised and allowed for
・ Many units and environments are not appropriate」

「How and why rebreathers are utilised?

・ Typically no-deco diving to 30m/100'
・ Multiple dives in a day
・ May be extended periods between dive trips
・ Divers usually seeking extended time or silent operation」

「What specific training is undertaken?

・ Limiting envelop allows limiting of emergency options
・ Focus and reinforcement of vital skills
・Open circuit experience requirement
・ Limit the task loading on the diver」

「Are rebreather unit requirements needed?

・ As environment is less extreme units can have reduced endurance and reach capabilities
・ Unit needs to minimise task loading for diver
・ The"Type R" rebreather concept」

「Are SOPs suitable for wider rebreather community?

・ Less extensive support protocols than commercial operations
・ Protocols and philosophy suitable for less intense environments
・ Diver task loading is less」

PADIは、行き当たりばったりにタイプRを考えたわけではない。

過去のリブリーザーの事故、実際の使われ方、トレーニングに必要なスキル、そのための器材の要件を、厳密に洗い出して決めたわけだ。

とにかくベイルアウトさせるという運用や、酸素を手動で入れさせない構造、ADVやBOVの義務付け、プレパッキングや「プロ」パッキング(おやじギャグかよ!?)は、全てこういったエビデンスに基づくものだ。

オフボードシリンダーの携行を義務付けているアドバンスの設定にしても、18mをその境目とする合理的な理由があるに違いない(浮沈子は、全部持ってくのがいいと考えてますが)。

昨日気付いた、ディリュエント側のマニュアルインフレーターを残した仕様がなぜなのかは、そのうち確認してみたいものだ。

PADIは、既存のリブリーザーを、どう改造するかを決めたのではない。

こういう運用で、こういう教育内容で、レクリエーショナル市場に受け入れられる、こういう機能をもったリブリーザーというものを、新しく概念設計したわけだ。

メーカーは、それに合わせて改造しているに過ぎない。

その意味では、エクスプローラーは、PADIにとっては、おあつらえ向きの機種だったのかもしれない。

ダイバーがMODを守る限り、ハイパーオキシアというリブリーザーの忌むべきリスクを、原理的に排除できるからだ。

ガス持ちの良さと、MOD近辺での減圧不要限界の高さ、相対的に静粛なダイビングを享受できる。

従来のSCRと異なり、ガスの供給量はコンピューター殿が管理し、呼吸抵抗の問題もさほどない。

浮沈子から見れば、中途半端な器材にしか見えないが、PADIが構想した仮想マシンのイメージに、最も近いモデルではある。

ベイルアウトのときに、ナイトロックスを吸いながら浮上できるという点では、エアディリュエントのCCRよりも優れている(まあ、CCRだって、ディリュエントにナイトロックス入れればいいだけなんですが:普通、しません)。

もちろん、CCRの場合は、減圧ダイビングを想定したタイプTを用意している(まあ、普通のeCCRですが)。

40m(エア)、60m(ノーモキシックトライミックス)、100m(ハイポキシックトライミックス)と、ディリュエントガスに対応したコースを用意している。

浮沈子は、PADIのテクニカルコースのことはよく知らないが、オープンサーキットとは異なるトレーニングのプログラムだ。

(テクニカル・ダイビングに挑戦!)
http://www.padi.co.jp/visitors/program/tc_index.asp

40、45、50、65(トライミックス)、トライミックスとなっている。

エアベースのコースは、ステップを刻むことで、スキルの習得を確実なものにするということなのかもしれない。

CCRは、概ねコンピューター殿がよきにに計らってくれるので、40mの軽い減圧込みのコースは、一発で終わりにしている。

この辺は、おいおい研究してみよう。

まあ、CCRでレクリエーショナルレベルをやっていれば、テックレックでも受け入れられるという形は出来たわけだ(どれほどの需要があるかは不明)。

ここで注意しなければならないのは、テック40CCRは、別にレクリエーショナルレベルのリブリーザーダイバーであることを前提にしていないということである。

普通のディープコース(とナイトロックス)をこなしたオープンウォーターダイバーなら、いきなり受講することも可能だ。

IANTDの場合は、オープンウォーターダイバーである必要もない(!)。

(受講資格)
http://www.tdcjapan.net/course-ccr.html

「IANTD Advanced EANxダイバー又は同等資格を有すること(リブリーザーダイバープログラムと共に行うことができる)」

あのー、ダイビング、初めてなんですけど・・・。

オープンサーキットとCCRとどっちで始めますかあ?。

PADIは、そうはいかない。

オープンウォーターダイバーのスキルを前提としたプログラムだから。

レクリエーショナルレベルでも同じだ。

スクーバダイビングという行為の前提は、そっちでやっといてくれ、というわけだな。

ナイトロックスのスキルも同じだ。

既存のプログラムでやってくれ、と。

そのかわり、他の団体のコースよりは、短い期間で取得できることになっている。

まあ、実際にそううまくいくはずはないと、浮沈子は確信しているが。

理由は簡単だ。

オープンサーキットダイバーを前提にしているから。

浮力のコントロールを、呼吸に頼ることを前提とした器材で経験を積めば積むほど、リブリーザーでのそれは困難になる。

初めからリブリーザーを使い、浮力調整とはこういうものだと身体が覚えてしまえば、まあ、それはそれで時間は掛かるが、切り替えるよりはスムーズだろう。

その代わり、浮沈子のように、オープンサーキットで苦労することになる。

PADIのコースでは、オープンサーキットを前提としていることによる、別のメリットもある。

プレダイブチェックを通過しない、調子の悪いリブリーザーの使用を回避する効果だ。

オープンサーキットの器材一式を持っていけば、そっちで潜ることができるので、事故の防止に繋がるというメリットがあるわけだな(まあ、リブリーザーを2台持ってくという手もある:ビデオでは、そう言っているし)。

転んでも、タダでは起きないPADIの面目躍如である。

CCRの場合、タイプRというのは、操作に制限を加えた出来損ないに見える。

まあ、確かにその見方は、フルスペックの器材を運用するトレーニングを前提とすれば、正しいには違いない。

何かあったら、とにかくベイルアウトというのも、芸がないといえば、そのとおりだ。

事故の温床であるスクラバーのパッキングを、絶対にダイバーにやらせないとか、ちょっと神経質過ぎるような気もするが、背景にはちゃんとしたエビデンスがあるのだろう。

ADVやBOVの設置も、運用リスクの軽減に繋がっている。

浮沈子は、もう慣れてしまったので、故障に繋がるADVはないほうがいいような気もする(実際に、動きが渋くなって、開きっぱなしになったことがあります)。

潜行する時などは、手動でディリュエントを継ぎ足せばいいだけだ。

しかし、あればあったで、楽が出来る。

BOVについては、マウスピースが1つしかなくなってしまうので、ここの故障が起こるとヤバイかなとは思うが、回路内への浸水を抑制するという点では、確かに優れている。

アウトボードのベイルアウト用シリンダーがあれば、それだけでもいいかもしれないが、浮沈子は、オンボードのディリュエントからのセカンドを、別途付けている。

この辺りは、リスク管理の考え方によるだろう。

スキルでカバーして、故障の原因になるものは、極力排除しようとする方向か、役に立つものは多いほうがいいという浮沈子のような発想か。

ベストなコンフィギュレーションは、ダイバーのスキルやダイビングの環境によっても変わっていく。

そのダイバーにとって、そのダイビングに適したコンフィギュレーションは、おそらく唯一つであるが、それは、動的に変わり得るものだ。

それが、何であるかを見極めて、自分に合ったコンフィギュレーションを作り上げることが重要なわけだな(と、まあ、理屈では分かっているつもりなんだが・・・)。

タイプRは、既存のレクリエーショナルダイビングに、大変革をもたらそうとするPADIが、練りに練ったリブリーザーだ。

出来損ないのCCRというわけではない。

まあ、理屈では、分かっているつもりなんだが・・・。