ガス・ナルコシス2015年06月04日 18:23

ガス・ナルコシス


(narcosis:発音聞くと、ナクーセスにきこえる:空耳かあ?)
http://ejje.weblio.jp/content/narcosis

「【医学】 (麻(酔)薬による)昏睡(こんすい)(状態).」

「ガス昏睡」などという、聞いたこともない訳語を充てているPADIのオープンウォーターのマニュアルだが、エンサイクロペディアでは、従来からガス・ナルコシスという用語で記載されている。

(ダイブマスター/インストラクター開発コース用教材)
http://www.padi.co.jp/visitors/program/material/ma_22.asp

「エンサイクロペディア ¥13,000
「ザ・エンサイクロペディア・オブ・リクリエーショナル・ダイビング」が、日本で初めて発売されたのは1992年2月。現在、日本唯一のダイビング専門百科事典として多くのダイバーに愛読されています。ダイビングに関わる者ならば所有しておきたい必読書です。全ページフルカラーになり、エンリッチド・エアやテック・ダイビングの情報も加わりました。」

いい値段だが、読み応えのある内容で、浮沈子のは、表紙が外れてしまう程読み込んでいる(単に、扱いが荒いだけじゃね?)。

まあいい。

昨日買ってきたエンリッチド・エア・ダイバー・マニュアルでは、窒素酔いという表現が残っているが、酸素の割合を増やしても、酸素の麻酔作用が同等なので、ナイトロックスには窒素酔いを軽減する効果がないという内容が明確に書かれている。

エンサイクロペディアの方では、他の混合ガスの麻酔作用などにも触れていて、改めて読み直して参考になった。

それにしても、人によっては慣れれば酔わなくなるとはいえ、55mとか、それ以上でのエアの使用についての記述を読むと、浮沈子は、もうそれだけでドキドキしてしまう。

浮沈子的には、エアディリュエントで潜るのは、30mくらいまでにしたいもんだ。

で、ここで強調しておきたいのは、二酸化炭素の麻酔作用である。

エンサイクロペディアの5-21には、窒素の10倍とある。

ところが、調べていくと、とんでもない話があるようだ。

(CO2ナルコーシス(Carbon dioxide narcosis))
http://www13.plala.or.jp/thoraco/homework/homework25.html

「高炭酸ガス血症により意識障害を伴い、中枢神経症状を伴う病態をCO2ナルコーシスという。肺のガス交換器の処理能力を上回るCO2が生産されると、CO2が過剰に蓄積し、高炭酸血症を来たす。すると、CO2の血管拡張作用(頭蓋内圧亢進作用)によって頭痛が生じるとともに、中枢神経抑制作用を来たす。同時に呼吸中枢も抑制されるのでますますCO2が蓄積するという悪循環に陥る。」

まあ、ここはいいんだが、問題は、この記事の以下の部分だな。

「臨床上でもっとも注意しなければならない点は、慢性のII型呼吸不全に対して不用意に高濃度O2を投与すると、本症を誘発することである。つまり、II型呼吸不全が慢性的に持続すると、呼吸中枢は高濃度のCO2にすっかり馴れてしまい、もはや何の刺激も感じなくなる。この状況で呼吸中枢を刺激しているのは、O2の不足(PaO2の低下)のみである。したがって、突然体内に高濃度のO2が入ってくると、その刺激が奪われてしまい、自発呼吸が停止してしまう。すると治療のために投与したO2のせいでどんどんとCO2が蓄積し、CO2ナルコーシスに陥ってしまう。」

(慢性呼吸不全とは)
http://www.fukuoka-nh.jp/shinryou/shippei/mansei-kokyufuzen/index.html

「室内気吸入時の動脈血酸素分圧(Pao2)が60Torr以下となる呼吸障害でこのうち、動脈血炭酸ガス分圧(Paco2)が45Torr以下のものをⅠ型呼吸不全、45Torrを超えるものをⅡ型呼吸不全とする。
慢性呼吸不全とは呼吸不全の状態が1ヶ月以上持続するものをいう。」

呼吸を司っているのは、酸素の不足を感じる部分と、二酸化炭素の過剰を感じる部分に分かれているらしい。

(呼吸調節)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%BC%E5%90%B8%E8%AA%BF%E7%AF%80

「Paco₂に敏感に反応するのは、延髄にある中枢化学受容体である。ここからの信号が主に呼吸を調節している。」

「Pao₂に反応するのは、末梢化学受容体である。やや感度が低い、ある程度低酸素状態(Pao₂60mmHg以下)になった時はじめて反応する。」

「Paco₂が異常に高い状態が長期間継続するとPaco₂に対する中枢化学受容体の反応性が低下してしまうため、低酸素状態に対する末梢化学受容体からの信号が呼吸中枢を刺激する唯一の入力になる。この状態で、高濃度の酸素濃度を吸引させると、Pao₂が急激にあげると、末梢化学受容体からの信号が途絶え呼吸維持が困難になる。これを、CO₂ ナルコーシスという。」

うーん、この記事は、日本語としても問題があるな。

まあ、どうでもいいんですが。

二酸化炭素の過剰に、呼吸中枢が慣れるまでの時間は判らないが(臨床診断上は1か月?)、CCRを運用する立場としては、ちょっと気になる記述である。

先の引用中には、ハイパーカプニアの症状も明記されている。

「高炭酸血症では頭痛、振戦、痙攣、傾眠がおこる。特に発汗は著明で、体温に関係なく見られる。頭痛、振戦は早期症状として重要である。」

こんなのに、慣れるってあるんだろうか?。

慢性の呼吸疾患を持っている場合でもなければ、ダイビング時に気にしなくてもいいのかもしれない。

いずれにしても、二酸化炭素の管理は、その麻酔作用を考慮しても、極めて重要ということになる。

「CCR、SCRの化学吸収剤(スクラバー)の容量とセッティングについては、メーカーのガイドラインを守ること。」

エンサイクロペディアには、明記されている(赤字で!:5-24ページ)。

リブリーザーでは、吐いた二酸化炭素を化学的に除去して、その呼気を循環させて吸うわけだから、吐きっぱなしのオープンサーキットとはガス管理の方法が異なる。

まさに、呼吸ガス製造機なわけだ。

そんでもって、二酸化炭素が取り除けなくなるというのは、文字通り致命的な状況ということになる。

しかも、高分圧の酸素を吸っているわけで、二酸化炭素側の中枢神経が麻痺してしまったら、ダブルパンチで自発呼吸が止るってかあ?。

二酸化炭素の除去については、そのうちもっといい方法が出来ると期待しているんだが、当面は、怪しげな白い粉(水酸化カルシウムなど)に依存しなければなるまい。

水中でCO2ナルコシスになるということが、実際にあるのかどうかは知らない。

ハイパーカプニアの症状が出たら、CCRでは直ちにベイルアウトだ。

SCR運用も出来ない。

リブリーザーとしての機能を使用することは出来なくなる。

そのことしか、考えていなかったが、窒素の10倍の麻酔ガス(CO2)を吸うことになるわけで、しかも、高分圧の酸素が絡んでくるとなると、益々ヤバイな。

自発呼吸の停止かあ・・・。

イチコロだなあ・・・。

浮沈子が、何か誤解しているのかも知れないが、ダイビング関係で、この話を聞いたことはなかった。

事実上、気にしなくてもいいのかもしれないし、そもそも、重症の慢性呼吸器疾患の患者さんがダイビングを行うというのは考えづらい。

この件については、何かわかったら、また書く。