個人とルール ― 2015年11月14日 21:46
個人とルール
窒素酔い(PADI語では、「ガス昏睡」という。)について、須賀次郎氏の独特の語り口が続いている。
(1114 命綱 ⑤ 窒素酔い)
http://jsuga.exblog.jp/25088381/
いまから60年も前の潜水の話が、昨日のことのように生き生きと語られる。
素晴らしい・・・。
同時に、浮沈子のように、昨日今日始めたばかりのダイバーにとっては、足のすくむような話がゴロゴロ出てくる。
「命綱を付けていれば、窒素酔いは、問題にならない。フルフェースマスクを付けていれば、気絶しても大丈夫だ。引き上げてもらえる。」
こう書かれてしまうと、どうしようもないが、多幸感や息苦しさでフルフェイスマスクを脱いでしまったら元も子もない。
「水産大学に入ったばかりの頃の乗船実習で、絶対に船酔いしない奴が何人かいる。みんな山国育ちだ、漁師の子はすぐに船酔いになる。船酔いを知っているからだなどといっていたが、そういうことがあるのだろうか。これは医学的には絶対に説明がつかない。」
「窒素酔いでも船酔いでも、酒酔いでも、かなりの部分がメンタルなもの、気持ちの持ちようだといえるのではないか。」
「理由がわからない。もしかしたら、窒素酔いについてなにも知らなかったならば、窒素酔いにはならないのではないか。」
精神論を超えて、不可知論的考察を、こうも堂々と展開されると、かえって清々しい。
ガス昏睡は実在するし、意識に作用するとはいえ、身体的なプロセスを経ている。
個人差がある話を、その最も鈍い連中(失礼!)を基準に展開されても困るな。
ダイバーは、何百万人、何千万人もいる(PADIだけで、年間100万人近い新規の認定者がいる)。
須賀氏の直接知っているダイバーが何人かは知らないが、その中でもガス昏睡に掛かりやすい方もいたろうし、それに慣れることがない方もいらっしゃったはずだ。
そういうダイバーの話は、とんと出てこない。
エアで70mは当たり前とか、80m、90m行ったとか・・・。
昔のダイバーが優秀で、今の奴らは軟弱だといわんばかり・・・。
まあ、浮沈子は、軟弱ですが・・・。
「普通のレクリエーションダイバーについては、空気で40mを越すことは危険であり、幾つかの事故を知っている。深度制限が40mということは妥当であり、かなり定着している。このことから、プロのダイバーも40mと決められたのかもしれない。」
アマチュアダイバーは、40mで危険であり、プロダイバーは大丈夫というのは、少なくとも生理的には納得できないな。
レクリエーショナルの世界では、既に30mまでというのが定着しつつある。
テキストにもそう書かれているし、実践的にも推奨されている。
我が国の規制当局も、30mを超えたらヘリウムを混ぜてトライミックスとし、40m超えはヘリオックスとすることを推奨している。
40mというのは、絶対的に超えてはならない、罰則が適用される深度という意味であって、スタンダードではない。
もちろん、プロの話だ。
はっきり言ってしまおう。
空気潜水で70mとかは、時代遅れの無謀な潜水、恥ずべき行為だ。
現代では違法であり、使用者が労働者に強要すれば犯罪である(労働基準法違反)。
送気潜水で、フルフェイスマスクで、ヘリウムたっぷり混ぜて、しっかりと減圧停止して、時間掛けて、金掛けて潜るのが正しい。
ドライベルがあれば、なおいい。
眞野先生は、高圧則改定の時に、それをスタンダードにすべきだと主張されていたと記憶している。
貧しい国では、ドライベルの使用を最低基準とすることはできないということで、21世紀初頭の我が国のスタンダードにはならなかった。
そう、我が国は貧しいのだ・・・。
ダイビングというレジャー(もちろん、アマチュア)では、健康や安全に対するリスクは最小限にする必要がある。
潜らないのが一番いい!。
その次には、12m位まで、安全管理を人任せにして潜るというのがある(PADIの場合)。
普通は、18mまで。
まあ、これでも十分な深度ではある。
一生、この深度までしか潜れなくても、何の心配もない。
十分楽しいし、地上では得難いレクリエーションになる。
ダイビングの技量を上げて、30mまでのコースもある(最大40m)。
浮沈子の経験では、遊びの潜水で、こんなに深く潜らなければならない理由はない。
リスクは飛躍的に高まるし、トラブルになった場合には、重大な結果を招く(死んじゃったり・・・)。
できることなら、空気でなんて潜らないのがよろしい。
まあ、30mを最大深度として、エンリッチド・エアで潜るのがいい。
昔のダイバーは、そんなもん使えなかったから、仕方なく「クウキ」などという潜水には不向きなガスを吸っていただけだ。
昔は昔、今は今。
一般のダイバーでも手に入る、最も合理的なダイビングは、レクリエーショナル向けのリブリーザーということになる。
この器材を、使いこなしてこそ、21世紀のダイバーであって、空気で70m以上行くなどという野蛮な世界とは無縁だ。
レクリエーションで楽しく潜るのに、ガス昏睡でレギュレーター外すリスクを選択するのは、アホである。
30mからは、しっかりとヘリウム混ぜて、トライミックスで潜るのがよろしい。
まあ、エアディリュエントで、30mまでのダイビングでも、十分楽しめる(3時間!!!)。
お仕事で潜るのは、大変なことだし、貧しい国でリスク背負って潜らなければならない職業ダイバーはキツイ仕事だ。
浮沈子は、須賀氏の記事が悪いといっているわけではない。
貴重な記録だし、そういう時代があったということを踏まえて、これからのダイビングを考えることは重要だ。
個人的には、ディープダイビングの技術に関心があって、その意味で何が問題になるのかを考えるうえでの、貴重な情報源である。
直接お会いしたことはないが、インスピレーションの使用については、兄弟弟子でもある。
が、昔のダイバーが偉くて、今がヘタレというニュアンスが気に入らんな。
もちろん、100年後のダイバーから見たら、今の最新のダイビングだって、目も当てられない状況に違いないのだ。
人間の体が、100年や200年で大きく変わることはない。
潜水に対しての適性(船酔いも含めて?)は、個人差の問題である。
もちろん、その個人差がなぜ起こるのか。
また、後天的に獲得できる適性があるのかについて、研究したり考察することは大切だ。
後天的な適応についても、個人差はあるだろうしな(未だに船酔いに慣れない浮沈子とか・・・)。
そういう奴は、ダイバーの資格がないから切って捨てるということでは、話が始まらない。
もちろん、禁忌の疾患を持っていたりすれば、職業ダイバーであれ、アマチュアであれ、潜ることはできない。
年齢制限だってある(もっとも、上限というのは聞いたことないんですがね)。
そうではない、一般の人々が潜るということになれば、生理的にはプロも、アマも関係はない。
潜水器材や運用が変わってくるだけだ。
管理責任ということになると、労働法上の問題が出てくるが、被雇用者にも、自己の健康を管理するという責任はある。
その部分は、プロもアマも同じだ。
自己責任というのは、何をやってもいいということではない。
何をやっていいか、自分で考え、自分で制限し、自分で実行しなければならないということだ。
体調が悪ければ、ダイビング自体を止めるとか、浅い深度に留めるとか、潜水時間を短くするなど、自己をコントロールする責任が生じるということだ。
それをダイバーが全面的に負うのがアマチュアで、一部を雇用者が負うのがプロというだけの話だ。
ガイドの管理責任については、ややっこしいので、ここでは取り上げない。
もちろん、PADIのスクーバダイバーについては、有資格者の管理の元でのダイビングになるので、念のため。
空気潜水の30mで窒素酔いの症状が明らかに出る浮沈子は、ある意味で80mとか90mとかに行くダイバーの話を読むと、ジェラシーを感じる。
御伽噺の世界である。
フィクションのようだ。
それが標準とされていた時代に、ダイバーでなかったことを幸いに思う。
いい時代にダイビングを始めたものだ。
「訓練と経験によって、多くのダイバーは確実に窒素麻酔に対する抵抗性を増強する。その適応は決して永久的なものではなく、維持するためには、一週間に一度、90mへ潜水することがすすめられる。これは加圧室などで行うことができ、わすか数分間、その深度に居れば良い。」
「これが自分の感覚・経験に一番あった説明であった。」
100人のダイバーがいれば、100の潜水理論があるというわけだな。
浮沈子は、とても付いていけない。
万人に適用可能な、保守的な理論が一つあればいい。
それに従って、あるいは、それをさらに保守的に運用して、足りないところは器材やシステムで補って潜ればいい。
個人的な経験則はともかく、エビデンスとしては、ガス昏睡への後天的な適応はない。
これが浮沈子の感覚・経験に一番あった説明である。
まあ、これも、やっぱ、一つの、自分にとって都合のいい話に過ぎないのかもしれないな・・・。
窒素酔い(PADI語では、「ガス昏睡」という。)について、須賀次郎氏の独特の語り口が続いている。
(1114 命綱 ⑤ 窒素酔い)
http://jsuga.exblog.jp/25088381/
いまから60年も前の潜水の話が、昨日のことのように生き生きと語られる。
素晴らしい・・・。
同時に、浮沈子のように、昨日今日始めたばかりのダイバーにとっては、足のすくむような話がゴロゴロ出てくる。
「命綱を付けていれば、窒素酔いは、問題にならない。フルフェースマスクを付けていれば、気絶しても大丈夫だ。引き上げてもらえる。」
こう書かれてしまうと、どうしようもないが、多幸感や息苦しさでフルフェイスマスクを脱いでしまったら元も子もない。
「水産大学に入ったばかりの頃の乗船実習で、絶対に船酔いしない奴が何人かいる。みんな山国育ちだ、漁師の子はすぐに船酔いになる。船酔いを知っているからだなどといっていたが、そういうことがあるのだろうか。これは医学的には絶対に説明がつかない。」
「窒素酔いでも船酔いでも、酒酔いでも、かなりの部分がメンタルなもの、気持ちの持ちようだといえるのではないか。」
「理由がわからない。もしかしたら、窒素酔いについてなにも知らなかったならば、窒素酔いにはならないのではないか。」
精神論を超えて、不可知論的考察を、こうも堂々と展開されると、かえって清々しい。
ガス昏睡は実在するし、意識に作用するとはいえ、身体的なプロセスを経ている。
個人差がある話を、その最も鈍い連中(失礼!)を基準に展開されても困るな。
ダイバーは、何百万人、何千万人もいる(PADIだけで、年間100万人近い新規の認定者がいる)。
須賀氏の直接知っているダイバーが何人かは知らないが、その中でもガス昏睡に掛かりやすい方もいたろうし、それに慣れることがない方もいらっしゃったはずだ。
そういうダイバーの話は、とんと出てこない。
エアで70mは当たり前とか、80m、90m行ったとか・・・。
昔のダイバーが優秀で、今の奴らは軟弱だといわんばかり・・・。
まあ、浮沈子は、軟弱ですが・・・。
「普通のレクリエーションダイバーについては、空気で40mを越すことは危険であり、幾つかの事故を知っている。深度制限が40mということは妥当であり、かなり定着している。このことから、プロのダイバーも40mと決められたのかもしれない。」
アマチュアダイバーは、40mで危険であり、プロダイバーは大丈夫というのは、少なくとも生理的には納得できないな。
レクリエーショナルの世界では、既に30mまでというのが定着しつつある。
テキストにもそう書かれているし、実践的にも推奨されている。
我が国の規制当局も、30mを超えたらヘリウムを混ぜてトライミックスとし、40m超えはヘリオックスとすることを推奨している。
40mというのは、絶対的に超えてはならない、罰則が適用される深度という意味であって、スタンダードではない。
もちろん、プロの話だ。
はっきり言ってしまおう。
空気潜水で70mとかは、時代遅れの無謀な潜水、恥ずべき行為だ。
現代では違法であり、使用者が労働者に強要すれば犯罪である(労働基準法違反)。
送気潜水で、フルフェイスマスクで、ヘリウムたっぷり混ぜて、しっかりと減圧停止して、時間掛けて、金掛けて潜るのが正しい。
ドライベルがあれば、なおいい。
眞野先生は、高圧則改定の時に、それをスタンダードにすべきだと主張されていたと記憶している。
貧しい国では、ドライベルの使用を最低基準とすることはできないということで、21世紀初頭の我が国のスタンダードにはならなかった。
そう、我が国は貧しいのだ・・・。
ダイビングというレジャー(もちろん、アマチュア)では、健康や安全に対するリスクは最小限にする必要がある。
潜らないのが一番いい!。
その次には、12m位まで、安全管理を人任せにして潜るというのがある(PADIの場合)。
普通は、18mまで。
まあ、これでも十分な深度ではある。
一生、この深度までしか潜れなくても、何の心配もない。
十分楽しいし、地上では得難いレクリエーションになる。
ダイビングの技量を上げて、30mまでのコースもある(最大40m)。
浮沈子の経験では、遊びの潜水で、こんなに深く潜らなければならない理由はない。
リスクは飛躍的に高まるし、トラブルになった場合には、重大な結果を招く(死んじゃったり・・・)。
できることなら、空気でなんて潜らないのがよろしい。
まあ、30mを最大深度として、エンリッチド・エアで潜るのがいい。
昔のダイバーは、そんなもん使えなかったから、仕方なく「クウキ」などという潜水には不向きなガスを吸っていただけだ。
昔は昔、今は今。
一般のダイバーでも手に入る、最も合理的なダイビングは、レクリエーショナル向けのリブリーザーということになる。
この器材を、使いこなしてこそ、21世紀のダイバーであって、空気で70m以上行くなどという野蛮な世界とは無縁だ。
レクリエーションで楽しく潜るのに、ガス昏睡でレギュレーター外すリスクを選択するのは、アホである。
30mからは、しっかりとヘリウム混ぜて、トライミックスで潜るのがよろしい。
まあ、エアディリュエントで、30mまでのダイビングでも、十分楽しめる(3時間!!!)。
お仕事で潜るのは、大変なことだし、貧しい国でリスク背負って潜らなければならない職業ダイバーはキツイ仕事だ。
浮沈子は、須賀氏の記事が悪いといっているわけではない。
貴重な記録だし、そういう時代があったということを踏まえて、これからのダイビングを考えることは重要だ。
個人的には、ディープダイビングの技術に関心があって、その意味で何が問題になるのかを考えるうえでの、貴重な情報源である。
直接お会いしたことはないが、インスピレーションの使用については、兄弟弟子でもある。
が、昔のダイバーが偉くて、今がヘタレというニュアンスが気に入らんな。
もちろん、100年後のダイバーから見たら、今の最新のダイビングだって、目も当てられない状況に違いないのだ。
人間の体が、100年や200年で大きく変わることはない。
潜水に対しての適性(船酔いも含めて?)は、個人差の問題である。
もちろん、その個人差がなぜ起こるのか。
また、後天的に獲得できる適性があるのかについて、研究したり考察することは大切だ。
後天的な適応についても、個人差はあるだろうしな(未だに船酔いに慣れない浮沈子とか・・・)。
そういう奴は、ダイバーの資格がないから切って捨てるということでは、話が始まらない。
もちろん、禁忌の疾患を持っていたりすれば、職業ダイバーであれ、アマチュアであれ、潜ることはできない。
年齢制限だってある(もっとも、上限というのは聞いたことないんですがね)。
そうではない、一般の人々が潜るということになれば、生理的にはプロも、アマも関係はない。
潜水器材や運用が変わってくるだけだ。
管理責任ということになると、労働法上の問題が出てくるが、被雇用者にも、自己の健康を管理するという責任はある。
その部分は、プロもアマも同じだ。
自己責任というのは、何をやってもいいということではない。
何をやっていいか、自分で考え、自分で制限し、自分で実行しなければならないということだ。
体調が悪ければ、ダイビング自体を止めるとか、浅い深度に留めるとか、潜水時間を短くするなど、自己をコントロールする責任が生じるということだ。
それをダイバーが全面的に負うのがアマチュアで、一部を雇用者が負うのがプロというだけの話だ。
ガイドの管理責任については、ややっこしいので、ここでは取り上げない。
もちろん、PADIのスクーバダイバーについては、有資格者の管理の元でのダイビングになるので、念のため。
空気潜水の30mで窒素酔いの症状が明らかに出る浮沈子は、ある意味で80mとか90mとかに行くダイバーの話を読むと、ジェラシーを感じる。
御伽噺の世界である。
フィクションのようだ。
それが標準とされていた時代に、ダイバーでなかったことを幸いに思う。
いい時代にダイビングを始めたものだ。
「訓練と経験によって、多くのダイバーは確実に窒素麻酔に対する抵抗性を増強する。その適応は決して永久的なものではなく、維持するためには、一週間に一度、90mへ潜水することがすすめられる。これは加圧室などで行うことができ、わすか数分間、その深度に居れば良い。」
「これが自分の感覚・経験に一番あった説明であった。」
100人のダイバーがいれば、100の潜水理論があるというわけだな。
浮沈子は、とても付いていけない。
万人に適用可能な、保守的な理論が一つあればいい。
それに従って、あるいは、それをさらに保守的に運用して、足りないところは器材やシステムで補って潜ればいい。
個人的な経験則はともかく、エビデンスとしては、ガス昏睡への後天的な適応はない。
これが浮沈子の感覚・経験に一番あった説明である。
まあ、これも、やっぱ、一つの、自分にとって都合のいい話に過ぎないのかもしれないな・・・。
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