衛星打上ビジネス2013年12月21日 18:47

衛星打上ビジネス
衛星打上ビジネス


我が国には、自衛隊が打ち上げたロケットというのはまだないが、大概の国が打ち上げている軍事衛星というのは、空軍などの軍隊に所属する衛星打上部門が統括している。

商用衛星(通信衛星や、気象衛星、測地衛星など)は、非軍事部門が上げることもあれば、そもそも、そんな部門はないので、他の国の非軍事部門に上げてもらうかするだけだったが、最近は、民間の衛星打上業者が出来てきて、従来の非軍事部門や、民間同士と競合する状況になっている。

こんな記事が出ている。

(格安・高軌道 衛星市場に転機 スペースX 商用打ち上げ成功 (3/3ページ))
http://www.sankeibiz.jp/express/news/131205/exh1312050016000-n3.htm

「日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も9月、新型ロケット「イプシロン」を打ち上げるなど市場参入を狙っている。だが、「打ち上げ価格の競争力なら世界最強だ。さらに、わが社の新技術によって同業他社は市場撤退を余儀なくされる」(マスクCEO)と豪語するスペースXが“台風の目”になるのは間違いなさそうだ。」

サンケイは、何か勘違いをしているんじゃないか?。

台風の目などではない、全世界の商用衛星の打ち上げを、スペースXが独占するといっているのだ。

三菱も、石播も、アリアンスペースも、ロシアも、中国も、ヴァージン・ギャラクティックも、ブルー・オリジンも、オービタル・サイエンシズも、ユナイテッド・ローンチ・アライアンスも、市場から消えてなくなるといっている。

殴りこみ、道場荒らし、凶器準備集合罪、何でもいいが、ハンパな宣戦布告ではない。

商用衛星を上げるという事は、軍事衛星も上がるし、観光宇宙船も上がるし、火星ロケットも上がるということである。

あらゆる科学衛星も、当然上がる。

世界から、スペースX社のファルコンロケット以外は消えてなくなるわけだ。

そんなことはないと、浮沈子も思うが、イーロン・マスクはそう主張している。

もちろん、「わが社の新技術」であるロケット再使用が可能になったらの話である。

再突入技術と、姿勢制御、整備コストさえ折り合えば、別にファルコンでなくても可能だろうから、それほど大騒ぎする必要はないが、商用ということに限れば、その影響は計り知れない。

現在、50から60億円といわれている同社の打ち上げコストは、15億円位になるかもしれないのだ!。

(Musk lays out plans for reusability of the Falcon 9 rocket)
http://www.nasaspaceflight.com/2013/10/musk-plans-reusability-falcon-9-rocket/

「Musk believes that the most revolutionary aspect of the new Falcon 9 is the potential reuse of the first stage “which is almost three-quarters of the cost of the rocket.”」

もちろん、従業員の人件費とか、会社の運営費も出さなければならないし、2段目の回収テストの費用も捻出しなければならないので、ここまで劇的に下がるかどうかは分からない。

しかし、仮にファルコンヘビーを使って、30億円で静止軌道に21トンとか上げられたら、あらゆる国家、企業は、指を咥えて見ているしかない。

(時論公論 「衛星打ち上げビジネスの課題」)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/120984.html

室山解説委員なので、余り期待しない方がいいかも・・・。

「世界主要ロケットの打ち上げコスト:静止トランスファー軌道投入能力(2012年)
・日本 H2A 90億円:4トンから6トン
・米国 デルタ4 不明:4トンから13トン
・欧州 アリアン5 80億円:6トンから10トン
・ロシア プロトンM 68億円:6トン
・中国 長征3 56億円:5.5トン
・スペースX ファルコン9 50億円:4.5トン」

ちなみに、浮沈子が調べた値段は、こうなる。

「世界主要ロケットの打ち上げコスト:静止トランスファー軌道投入能力(2014年予想)
・日本 H2B 150億円:8トン
・米国 デルタ4 不明:4トンから13トン
・欧州 アリアン5 80億円:6トンから10トン
・ロシア プロトンM 68億円:6トン
・中国 長征3 56億円:5.5トン
・スペースX ファルコンヘビー 30億円(?):21トン」

話にならんな。

ファルコンヘビーは、単独のウィキでは、19トンとなっているが、マーリンエンジンのバージョンアップで、軌道投入能力が増加したものと考えられる。

(ファルコン9:ファルコンヘビー:21.2トン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%B39#.E3.83.95.E3.82.A1.E3.83.AB.E3.82.B3.E3.83.B3.E3.83.98.E3.83.93.E3.83.BC

(ファルコンヘビー:19トン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%98%E3%83%93%E3%83%BC

「このロケットの打ち上げ能力は、アポロ計画で使われたサターン Vロケットの半分に丁度足りないくらいである。」

まあ、サターンVが、とんでもない能力を持っていたことは認めよう。

現在のところ、デルタ4ヘビーというのが、13トンクラスの静止トランスファー軌道投入能力を持っている。

ユナイテッド・ローンチ・アライアンスという、ボーイングと、ロッキードマーチンの合弁会社が運用している。

(デルタ IV)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%BF_IV

(ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B9

この会社は、ボーイングの産業スパイ事件をもみ消すために誕生したという、とんでもない会社である。

(発展型使い捨てロケット:産業スパイ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BA%E5%B1%95%E5%9E%8B%E4%BD%BF%E3%81%84%E6%8D%A8%E3%81%A6%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88#.E7.94.A3.E6.A5.AD.E3.82.B9.E3.83.91.E3.82.A4

「ボーイング社は、ロッキードマーティン社が作成し、特許で保護された文書を所有していることが発覚した。裁判での係争を終わらせるため、双方の会社は協業しあって、合弁企業であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社を設立することに合意した。ボーイング、ロッキードマーティン、それぞれの会社はULAに対して50パーセントずつ半々の共同経営権をもっている。」

前の引用には、こんな記述もある。

「ファルコン9ロケットでの事業参入を狙っていたスペースX社は、2005年10月23日に打上げサービスの独占による反トラスト法違反として提訴したが、2006年1月7日にアメリカ国防総省はユナイテッド・ローンチ・アライアンスに対して予備承認を与えた。」

「2006年9月、国防総省はULAに対する支援を延長し、さらに連邦取引委員会への支援も表明した。2006年10月3日、連邦取引委員会は反トラストの宣言を行い、合弁会社は2006年12月1日に操業を開始した。」

いくら価格が安くなっても、スペースXの打ち上げロケットだけになることはないと、浮沈子が考える理由の一つがこれだな。

まあ、三菱も石播も、JAXAにべったり張り付いていれば、美味しい仕事はもらえるだろう。

米国の場合、軍事衛星の打ち上げ需要の方が多いのかもしれない。

低軌道で周回し、イミントを行う衛星の場合、大気との摩擦による軌道低下が大きく、軌道修正用の燃料がなくなれば、墜ちてくるわけだし、回数を多くして、補うしかないのだ。

我が国の情報収集衛星も、電波と可視光が1機ずつセットになって構成されており、数年毎に入れ替えを行っていて、交代需要はある。

ひまわりなどの静止衛星や、最近流行りの順天頂衛星なども、寿命があって、入れ替えは必要だが、低軌道衛星ほどではない。

軌道修正用の燃料を多く積めば、それだけ、軌道上に長く留まれるわけで、商用衛星の重量は増すばかりである。

金にならない研究用とか、教育用のミニ衛星の需要もあるが、イプシロン辺りがちょうどいいかもしれないな。

リチャード・ブランソン卿も、衛星打上ビジネスを考えているようだ。

(LauncherOne)
http://www.virgingalactic.com/launcherone

(英ヴァージンが衛星打ち上げ事業参入、「価格は他社の3分の1」)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE86B01N20120712

「重さ約225キロまでの衛星を運ぶことができ、1回の打ち上げ費用は1000万ドル(約8億円)以下になる見込み。ブランソン氏はロイターに対し、「他社の約3分の1の価格で打ち上げ可能だ」と話した。」

低軌道のちっこい衛星なら、これで十分だし、価格も手頃、打ち上げの制約も少ない。

何せ、射場は雲の上なのだから、天候に左右されずに打ち上げができるわけだな。

ちなみに、「ひさき」の重量は335kgだから、ちょっと重かったな。

打ち上げロケットを改造すれば、もう少しマシになる可能性もある(切り離し式の、補助ブースター付けるとか)。

10億円で衛星が上がれば、イプシロンの出る幕は、完全に消えるな。

(イプシロンロケット)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88

太陽同期軌道に、450kg投入可能だ(ローンチャーワンは、100kg)。

目標価格が30億円だから、価格重量比は、決して悪くない。

しかし、小さな衛星を、好きな時に、好きな軌道で上げたいという需要には適さない。

イプシロンは、現在のところ、次回の打ち上げも未定(決定ではない!)で、ひょっとしたら、1回だけになってしまうかもしれないのだ!。

打ち上げロケットの再利用とか、雲の上の射場から打ち上げるロケットとか、従来想像の世界でしかなかった、パラダイム転換の進む衛星打ち上げビジネスで、日本が生き残る可能性は、今のところ全く無い。

競争相手は、10周くらい先を走っていて、並んでいるように見えて、実力の差は計り知れないのだ。

国威発揚のプログラム開発を放棄して、マーケットに委ねたからには、負ければ敗退するしかない。

我が国の衛星打ち上げビジネスに、将来はないと、浮沈子が考える所以である。

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