737MAX受注!?:そろそろ運航再開かも ― 2020年09月12日 09:04
737MAX受注!?:そろそろ運航再開かも
いろいろな意味で、新型コロナの影響を受けている話は多い。
そういえば、あれはどーなったシリーズ(そんなのあったかあ?)の一つである737MAXの記事が出ていた。
(米ボーイング、8月に今年初の737MAX受注 キャンセル継続)
https://jp.reuters.com/article/boeing-deliveries-idJPKBN25Z2WA
「発注したのはポーランドのエンターエアENTP.WAで、737─8型機を2機発注。契約には2機を追加するオプションも付いている。」
「この他、複数の不特定顧客が737MAX型機を3機発注した。」
「一方、同機の注文取り消しは17件で、年初からの取り消し総数は445件に拡大した。」
オプションを除けば、差し引きは今年だけでマイナス440件ということになる。
737MAXに関連しては、先日、MD-11の記事を読んだ。
(MD-11はやはり欠陥機か? (その1))
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-363.html
「MD-11はかなり危険な機体で、全損事故率が100万便あたり3.45回(2005年までのデータですので今回の事故は含みません)という非常に高い値になっています。これは第4世代機としてダントツNo.1で、2位となっているA310の2倍を超えます。」
「ハイテクに依存しながら熟成が足りなかった操縦システムが問題なのではないか」
この航空機の飛行特性は良好とは言えない(業界では有名なんだそうです)。
「MD-11はこうした水平尾翼のダウンフォースを減らし、空気抵抗を減らして燃費を向上させることに重きが置かれました。」
「MD-11は燃費を優先して空力的な安定性を犠牲にした機体」
それをカバーするために、いろいろ仕掛をしているのだ。
(MD-11はやはり欠陥機か? (その2))
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-364.html
「そこで、MD-11には重心をアクティブに移動できるシステムが採用されました。これは「CGコントロール」と呼ばれるもので、水平尾翼内にも燃料タンクを設置して主翼にあるメインの燃料タンクとパイプで繋ぎ、その一部を後方に移して重心を移動できるようにするというシステムです。」
注目するのはここからだな。
「このように下向きの力と揚力とのせめぎ合いを小さくするよう設計されたMD-11はピッチングが生じやすく、機体が不安定になりがちです。そこで、コンピュータによって補正を行い、安定を保つよう制御してやろうと考えられました。」
戦闘機メーカーが考えそうな話だ・・・。
「しかし、様々なセンサを用いて機体のバランスをモニタし、コンピュータが安定を保つように補正をかけると、そのセンシングから補正信号の出力までに若干のタイムラグが生じます。パイロットの操縦に対しても補正が入ると、そのタイムラグからパイロットはついついオーバーコントロールをしてしまいがちになる」
「つまり、パイロットが操縦桿を引いて機首上げを意図しても操縦システムのタイムラグですぐに機体は反応せず、必要以上に操縦桿を引き続けてしまうことで過剰な機首上げ動作となってしまい、それを抑えるために機首下げを行っても、同様のタイムラグで結果的に過剰な機首下げとなってしまい、これを繰り返す過修正のループに入ってしまった」
成田でのフェデックスの事故は、浮沈子も記憶にある。
(フェデックス80便着陸失敗事故)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B980%E4%BE%BF%E7%9D%80%E9%99%B8%E5%A4%B1%E6%95%97%E4%BA%8B%E6%95%85
「疲労に伴うパイロットエラー(フレア動作の遅れとその後の操作ミス)、及び主脚取り付け部の構造設定不適切による左主翼の破断」
事故調査報告書では、ウインドシアーは事故原因とはされていないようだ。
「“玉乗り”と呼ばれるほど、ほかの航空機と比べて安定性の悪い航空機。着陸時の軌道修正も困難だった」
「前身であるDC-10型機同様、第2エンジンが胴体上の垂直尾翼付け根に位置し、その結果、機体の重心が他機種よりも後寄り、かつ高めであり、空気抵抗を減らし燃費を良くするために水平尾翼の面積を減らしていることが挙げられている(MD-11型の水平尾翼の面積は、DC-10型機よりさらに3割ほど小さくなっている)。尾翼の小型化に起因する操縦性の悪化は、コンピュータ制御で克服する設計であった(マクドネル・ダグラス MD-11#LSASを参照)。」
ウィキでは、燃料の移動やPIO(パイロット誘導振動)についても触れられている。
LSASってなによ?。
(マクドネル・ダグラス MD-11:LSAS)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9_MD-11#LSAS
「ongitudinal Stability Augmentation Systemの略」
「縦安定増加装置」
うーん、どっかで聞いたような名前だな。
(フライトデッキおよびフライトコントロール)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0737MAX#%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AD%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB
「操縦特性向上システム (MCAS: Maneuvering Characteristics Augmentation System)」
MCASは、こういう流れの中で生まれた(たぶん)。
センサーを仕込んで電子制御によって操縦特性を改善する(誤魔化す?)手法が、戦闘機から旅客機に導入されてきた。
もちろん、エアバスは、その前からフライバイワイヤーで飛ばしている。
しかし、それで飛行特性を弄ったりはしていない(未確認)。
電子の帝国が航空機の世界にも君臨し、機械の王国を蹂躙している。
20世紀と21世紀の違いは、そこにあると浮沈子は見ている(まあ、誰が見ても明らかだがな)。
エンジンの燃焼から自動運転、ゆくゆくは交通システムの制御まで、自動車の世界は既に電子制御なしには語れなくなっている。
機械としての自動車が、車載コンピューターのデバイスに成り下がるのは時間の問題だ。
新型コロナで需要が低迷している現在、737MAXが運航再開しても世界が大きく変わることはない。
MCASは改善され、ついでに見つけたトラブルの種も徹底的に取り払われて、安心して乗れる飛行機になるに違いない(そうなのかあ?)。
こういう事例は、少なくとも今世紀中くらいは続くことになるんだろうな。
未成熟な技術が大衆化する時代には、技術の女神は人身御供を要求する。
大きな事故が起これば、社会の関心を集め、根本的な改善が施される。
その余地がなければ、その技術は消え去る。
(KLM、V字型次世代機「Flying-V」プロトタイプ初飛行)
https://www.aviationwire.jp/archives/210301
「2040年以降の実用化を目指す次世代旅客機「Flying-V(フライングV)」のプロトタイプが、8月に初飛行した」
プロトタイプと言えば、スターシップのような本番機サイズの巨大な航空機を想像するところだが、ダクト付きのファンをモーターで回して飛ばす、2m位のサイズの模型飛行機に過ぎない。
地上シーンでは、ランディングギアも引き込み出来そうな感じで動かしていたが、飛んでいる映像では降着装置は出っぱなしだ。
奇妙奇天烈なV字航空機が実際に導入されるとしても、人類が火星に到達して以降の話とされる(予定では、2030年代に行くことになっているからな)。
詳細は不明だが、どうみても静的安定性が確保されているようには見えない(テキトーです)。
構造的には、巨大な翼(胴体?)への応力が気になるところだが、まあ、複合素材への補強で何とかするんだろう(まさかステンレスじゃないだろうし)。
エンジンおろしたりする際に整備性が悪いとか、ストレッチしてバリエーション増やすのがむずいとかいう些末な問題はある(些末かあ?)。
「空気抵抗を軽減する設計と機体の軽量化により、現行の低燃費航空機と比べて約20%の燃料削減を実現できるとしている。」
全ては、燃費の改善ということに繋がっているんだそうだが、大陸間弾道旅客機がメタン燃料で宇宙から降ってくる時代に、空力改善による2割の燃費を節約するためにコンサバな設計から逸脱した航空機を運航するだろうか?。
少なくとも、電子制御については完璧にしておいてもらわんとな・・・。
いろいろな意味で、新型コロナの影響を受けている話は多い。
そういえば、あれはどーなったシリーズ(そんなのあったかあ?)の一つである737MAXの記事が出ていた。
(米ボーイング、8月に今年初の737MAX受注 キャンセル継続)
https://jp.reuters.com/article/boeing-deliveries-idJPKBN25Z2WA
「発注したのはポーランドのエンターエアENTP.WAで、737─8型機を2機発注。契約には2機を追加するオプションも付いている。」
「この他、複数の不特定顧客が737MAX型機を3機発注した。」
「一方、同機の注文取り消しは17件で、年初からの取り消し総数は445件に拡大した。」
オプションを除けば、差し引きは今年だけでマイナス440件ということになる。
737MAXに関連しては、先日、MD-11の記事を読んだ。
(MD-11はやはり欠陥機か? (その1))
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-363.html
「MD-11はかなり危険な機体で、全損事故率が100万便あたり3.45回(2005年までのデータですので今回の事故は含みません)という非常に高い値になっています。これは第4世代機としてダントツNo.1で、2位となっているA310の2倍を超えます。」
「ハイテクに依存しながら熟成が足りなかった操縦システムが問題なのではないか」
この航空機の飛行特性は良好とは言えない(業界では有名なんだそうです)。
「MD-11はこうした水平尾翼のダウンフォースを減らし、空気抵抗を減らして燃費を向上させることに重きが置かれました。」
「MD-11は燃費を優先して空力的な安定性を犠牲にした機体」
それをカバーするために、いろいろ仕掛をしているのだ。
(MD-11はやはり欠陥機か? (その2))
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-364.html
「そこで、MD-11には重心をアクティブに移動できるシステムが採用されました。これは「CGコントロール」と呼ばれるもので、水平尾翼内にも燃料タンクを設置して主翼にあるメインの燃料タンクとパイプで繋ぎ、その一部を後方に移して重心を移動できるようにするというシステムです。」
注目するのはここからだな。
「このように下向きの力と揚力とのせめぎ合いを小さくするよう設計されたMD-11はピッチングが生じやすく、機体が不安定になりがちです。そこで、コンピュータによって補正を行い、安定を保つよう制御してやろうと考えられました。」
戦闘機メーカーが考えそうな話だ・・・。
「しかし、様々なセンサを用いて機体のバランスをモニタし、コンピュータが安定を保つように補正をかけると、そのセンシングから補正信号の出力までに若干のタイムラグが生じます。パイロットの操縦に対しても補正が入ると、そのタイムラグからパイロットはついついオーバーコントロールをしてしまいがちになる」
「つまり、パイロットが操縦桿を引いて機首上げを意図しても操縦システムのタイムラグですぐに機体は反応せず、必要以上に操縦桿を引き続けてしまうことで過剰な機首上げ動作となってしまい、それを抑えるために機首下げを行っても、同様のタイムラグで結果的に過剰な機首下げとなってしまい、これを繰り返す過修正のループに入ってしまった」
成田でのフェデックスの事故は、浮沈子も記憶にある。
(フェデックス80便着陸失敗事故)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B980%E4%BE%BF%E7%9D%80%E9%99%B8%E5%A4%B1%E6%95%97%E4%BA%8B%E6%95%85
「疲労に伴うパイロットエラー(フレア動作の遅れとその後の操作ミス)、及び主脚取り付け部の構造設定不適切による左主翼の破断」
事故調査報告書では、ウインドシアーは事故原因とはされていないようだ。
「“玉乗り”と呼ばれるほど、ほかの航空機と比べて安定性の悪い航空機。着陸時の軌道修正も困難だった」
「前身であるDC-10型機同様、第2エンジンが胴体上の垂直尾翼付け根に位置し、その結果、機体の重心が他機種よりも後寄り、かつ高めであり、空気抵抗を減らし燃費を良くするために水平尾翼の面積を減らしていることが挙げられている(MD-11型の水平尾翼の面積は、DC-10型機よりさらに3割ほど小さくなっている)。尾翼の小型化に起因する操縦性の悪化は、コンピュータ制御で克服する設計であった(マクドネル・ダグラス MD-11#LSASを参照)。」
ウィキでは、燃料の移動やPIO(パイロット誘導振動)についても触れられている。
LSASってなによ?。
(マクドネル・ダグラス MD-11:LSAS)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9_MD-11#LSAS
「ongitudinal Stability Augmentation Systemの略」
「縦安定増加装置」
うーん、どっかで聞いたような名前だな。
(フライトデッキおよびフライトコントロール)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0737MAX#%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AD%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB
「操縦特性向上システム (MCAS: Maneuvering Characteristics Augmentation System)」
MCASは、こういう流れの中で生まれた(たぶん)。
センサーを仕込んで電子制御によって操縦特性を改善する(誤魔化す?)手法が、戦闘機から旅客機に導入されてきた。
もちろん、エアバスは、その前からフライバイワイヤーで飛ばしている。
しかし、それで飛行特性を弄ったりはしていない(未確認)。
電子の帝国が航空機の世界にも君臨し、機械の王国を蹂躙している。
20世紀と21世紀の違いは、そこにあると浮沈子は見ている(まあ、誰が見ても明らかだがな)。
エンジンの燃焼から自動運転、ゆくゆくは交通システムの制御まで、自動車の世界は既に電子制御なしには語れなくなっている。
機械としての自動車が、車載コンピューターのデバイスに成り下がるのは時間の問題だ。
新型コロナで需要が低迷している現在、737MAXが運航再開しても世界が大きく変わることはない。
MCASは改善され、ついでに見つけたトラブルの種も徹底的に取り払われて、安心して乗れる飛行機になるに違いない(そうなのかあ?)。
こういう事例は、少なくとも今世紀中くらいは続くことになるんだろうな。
未成熟な技術が大衆化する時代には、技術の女神は人身御供を要求する。
大きな事故が起これば、社会の関心を集め、根本的な改善が施される。
その余地がなければ、その技術は消え去る。
(KLM、V字型次世代機「Flying-V」プロトタイプ初飛行)
https://www.aviationwire.jp/archives/210301
「2040年以降の実用化を目指す次世代旅客機「Flying-V(フライングV)」のプロトタイプが、8月に初飛行した」
プロトタイプと言えば、スターシップのような本番機サイズの巨大な航空機を想像するところだが、ダクト付きのファンをモーターで回して飛ばす、2m位のサイズの模型飛行機に過ぎない。
地上シーンでは、ランディングギアも引き込み出来そうな感じで動かしていたが、飛んでいる映像では降着装置は出っぱなしだ。
奇妙奇天烈なV字航空機が実際に導入されるとしても、人類が火星に到達して以降の話とされる(予定では、2030年代に行くことになっているからな)。
詳細は不明だが、どうみても静的安定性が確保されているようには見えない(テキトーです)。
構造的には、巨大な翼(胴体?)への応力が気になるところだが、まあ、複合素材への補強で何とかするんだろう(まさかステンレスじゃないだろうし)。
エンジンおろしたりする際に整備性が悪いとか、ストレッチしてバリエーション増やすのがむずいとかいう些末な問題はある(些末かあ?)。
「空気抵抗を軽減する設計と機体の軽量化により、現行の低燃費航空機と比べて約20%の燃料削減を実現できるとしている。」
全ては、燃費の改善ということに繋がっているんだそうだが、大陸間弾道旅客機がメタン燃料で宇宙から降ってくる時代に、空力改善による2割の燃費を節約するためにコンサバな設計から逸脱した航空機を運航するだろうか?。
少なくとも、電子制御については完璧にしておいてもらわんとな・・・。
H3開発延期:LE-9エンジンが穴だらけ:タービンブレードにも亀裂 ― 2020年09月12日 16:54
H3開発延期:LE-9エンジンが穴だらけ:タービンブレードにも亀裂
(H3ロケット初打ち上げ、来年度に延期 エンジンに亀裂)
https://www.asahi.com/articles/ASN9C5VLDN9CULBJ00G.html
「挑戦している部分で、経験を超えた未知のことが最後に出てきてしまった」
2月くらいまでは、快調に飛ばしてたんだがな。
(LE-9エンジン×3基の燃焼試験が初公開、H3ロケットのBFTは全て無事に完了!)
https://news.mynavi.jp/article/20200219-977534/
「日本はH-IIBロケットで2基クラスタの経験はあったものの、第1段の大型エンジンで3基クラスタというのはH3ロケットが初めて。未知の領域だったと言えるが、岡田プロマネは「案外スムーズにいった」と、安堵の表情を見せる。」
H2Bの開発の際、非回転対称3基クラスターに対する懸念が出され、途中で断念した(増強型(H2A212):液体燃料ブースターを付ける構想だったようだな)。
それをあっさりとクリアし、いよいよ種子島で認定エンジンの燃焼試験を始めた矢先のトラブルということになった。
好事魔多し・・・。
エキスパンダーブリードサイクルエンジンは、我が国のお家芸と言ってもいい。
(エキスパンダーブリードサイクル)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB#%E3%82%A8%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
「日本だけが実用化している高信頼性エンジンサイクルで、液体酸素/液体水素上段エンジンであるLE-5A/LE-5Bで採用」
高出力化に当たっては、燃焼室の拡大(縦長)や熱効率の改善(回収熱量の増加)、ターボポンプの改良(IHI)により達成することを見込んでいた。
その、根本のところでケチが付いたわけだ。
(初号機打ち上げ、21年度に延期 H3ロケット、エンジンに不具合―JAXA)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020091100799&g=soc
「エンジンの燃焼室内壁に最大で幅0.5ミリ、長さ1センチの穴が14カ所見つかった。また、燃焼室に液体水素を送り込むポンプのタービン羽根2枚にひびも見つかった。」
(次期基幹ロケット「H3」初号機打ち上げ、21年度に延期 主エンジン不具合)
https://mainichi.jp/articles/20200911/k00/00m/040/210000c
「タービンは振動に伴う金属疲労が、燃焼室の内壁は冷却機能が足りずに設計値より高温になったことがそれぞれ原因とみられる。」
燃料噴射器が、機械加工によるものと3Dプリンターによるものとで特性が異なり、後者では共振が発生することは既に分かっている。
「以前の燃焼試験において、ターボポンプで共振の問題が発生したことから、まず初号機で搭載するタイプ1では、共振領域を避けて運転することとし、先行して認定。噴射器は従来の機械加工のものを使い、手堅く進める。」
「続くタイプ2で抜本的な対策を行い、共振領域自体を無くす設計とする。噴射器も3Dプリンタ製のものを採用し、これでLE-9の開発が完了となる。タイプ2は2号機での適用を目指しているとのこと。」
今回の発表では、この2号機の延期も含まれていることから、噴射器の問題だけではないということは明らかだな。
(第8回 H3ロケット用LE-9認定型#1エンジン燃焼試験結果)
http://www.rocket.jaxa.jp/rocket/engine/le9/2020/200526.html
・試験日:2020年5月26日
・試験場所:宇宙航空研究開発機構 種子島宇宙センター(鹿児島県)
・試験目的:LE-9エンジン認定型の機能・性能の確認
・着火時刻:16時45分
・試験時間:225.5秒(243.0)
・メイン燃焼圧力:10.87MPa(10.65)
・液体水素ターボポンプ回転数:40,990rpm(40,582)
・液体酸素ターボポンプ回転数:17,261rpm(16,986)
・備考:液体水素ターボポンプの入口圧力が予め設定していた下限値に達したため、自動停止しました。」
この認定型のエンジンは、もっぱら種子島で試験され、徐々に燃焼時間を伸ばしてきた。
H3ロケット用LE-9認定型#1エンジン燃焼試験結果:
・第1回(2020年2月13日):101.4秒
・第2回(2020年2月21日):95.0秒
・第3回(2020年3月31日):100.0秒
・第4回(2020年4月7日):6.55秒(試験設備の異常により手動停止)
・第5回(2020年4月17日):210.0秒
・第6回(2020年4月25日):120.1秒(液体水素ターボポンプの入口圧力が予め設定していた下限値に達したため、自動停止:予定時間140秒)
・第7回(2020年4月30日):240.0秒
・第8回(2020年5月26日):225.5秒(液体水素ターボポンプの入口圧力が予め設定していた下限値に達したため、自動停止:予定時間243秒)
水素側ターボポンプの入口圧力の低下が、何か本質的な部分に関わるのかは知らない。
第8回目の燃焼試験が、通常より過酷な条件で行われたという報道もある。
(H3ロケットの打ち上げ1年延期 主エンジンに穴やひび:共同通信配信)
https://news.yahoo.co.jp/articles/5073b040d537763592cede2b1b70dec995c0d7dd
「通常運転よりも高い過酷な温度での燃焼に耐えられるかどうかの実験で、壁の温度は約千度まで上昇」
読売は、タービンの設計変更、燃焼室の冷却機能の強化に踏み込んで書いている。
(「H3」1号機打ち上げ、21年度に延期…燃焼試験後にタービンのひび見つかる)
https://www.yomiuri.co.jp/science/20200911-OYT1T50178/
「ひびが見つかったのは、タービンの動翼の一部。エンジンを運転中に振動が大きくなる「共振」が起き、強度が低下したとみられる。対策として、タービンを設計し直し、効果を検証する。」
「燃焼室の内壁からも、14か所の穴(最大幅0・5ミリ、長さ1センチ程度)が確認された。内壁が1000度近くまで高温になり、変形したとみられる。冷却機能を強化し、内壁の温度上昇の低減を図る。」
設計を変更し、制作、試験、検証を繰り返していく中で、新たな問題が発生しないとは限らない。
燃焼室をスケールアップした予備実験や、LE-Xの開発(水素側ターボポンプは米国開発)だけでは見えてこなかった問題が出てきたわけだ。
「エンジンの技術的な課題への対応は、万全を期すべきだと判断した」
再使用エンジンと銘打って開発したエンジンが、ホッピングテストで火を噴いても大成功と報じられるどっかのロケット開発とは、文化が違うと感じる。
まあ、どうでもいいんですが。
一発必中、目指すは100パーセントの成功だからな。
壊してみなきゃわからんことは、開発中に解決しておくことだ。
そこは、物理の法則が変わらない限り同じともいえる。
調べていく中で、こんな記事もあった。
(ロケット開発エンジニアが大学で挑む「燃焼メカニズム」の解明とは【帝京大学】)
https://univ-journal.jp/column/202032500/
「真子教授が着目したのは‶燃焼振動”という現象。燃焼室内で生じる熱と圧力が互いに変動を強め合うことで発生する共鳴現象であり、圧力変動が大きくなるとエンジンを破壊してしまうリスクも高まるという。」
「『LE-9』に採用される燃焼方式は、重大な故障が起こりにくいため信頼性が高く、パーツ数が少ない分だけコストダウンを図れるというメリットがあります。その一方で生じやすいのが燃焼振動であり、この現象の解明に注力しています」
「燃焼振動抑制デバイス‶レゾネータ”の開発を進めており、スピーカーから出る音によって共鳴現象を発生させ、狙った周波数帯の音を吸収する最適な構造や並べ方を検証している。」
どっかで聞いたような話だな。
サターン5型のFー1エンジンでも、燃焼の不安定性に起因する問題が発生している。
(F-1ロケットエンジン)
https://ja.wikipedia.org/wiki/F-1%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
「技術者たちは最後の手段として、稼働中の燃焼室の中で小さな爆発(彼らは『爆弾』と呼び、RDX、C4または黒色火薬が使用された)を発生させる手法を編み出した。」
べらぼーめ・・・。
「不規則な燃焼に対応するための様々な形式の同心円状のインジェクター(燃料噴射機)を試験することが可能になった。これらの問題に1959年から1961年にかけて取り組んだ結果、最終的にエンジンの燃焼はきわめて安定するようになり、人為的に不安定を誘導した場合でも1/10秒以内で減衰するようになった。」
F-1エンジンの場合は、解決に2年掛かっている。
今回の延期が、十分な対策を取るための必要十分期間を満足しているかどうかは知らない。
パーツパーツで行われたり、予備開発で得たデータはあっても、組んでみて負荷を掛けて初めて現れる現象もあるということだな。
技術的な詳細については、浮沈子にはさっぱりだが、状況は楽観的とは程遠い。
メインエンジンの新規開発という、最大のチャレンジ項目でのつまずきだからな。
本来なら、この要素の技術的目途が立ってからロケット全体の開発が始まる。
重工は、要素技術とサブスケールの段階で見切り発車した。
コスト削減圧力、お家芸への過信、世代交代による技術伝承の分断、スケジュールありきの民間事業の特性などなど。
それぞれの要請には、それなりの正当性があるが、それらを統合した時に何が出るかは完全には予想できない。
たまたま、こんな記事が出ていて印象的だ。
(チャーリー・ボルデンは静かな部分を大声で言います:SLSロケットは消えます)
https://arstechnica.com/science/2020/09/former-nasa-administrator-says-sls-rocket-will-go-away/
2014年:
「正直にしましょう。市販の重量物運搬車はありません。Falcon 9 Heavyがいつか登場するかもしれません。それは今、設計図にあります。SLSは本物です。」
2016年:
「打ち上げロケットについて語るなら、国民に対する私たちの責任は、大型打ち上げロケットのように、一般の人々ができない、またはしたくないことを処理することだと信じています」
「私はまだ大型ロケットに商業投資をするのが好きではない。」
その後:
・2017年に打ち上げが予定されていたSLSロケットが2021年末まで延期(21年中には上がらない方に1票だな)
2018年2月:
・ファルコンヘビーの打ち上げ
2020年:
「SLSはなくなるでしょう。バイデン政権や次期トランプ政権の間になくなる可能性があります...ある時点で商業組織が追いつくためです。彼らは本当に、NASAがSLSよりもはるかに安い価格で飛ぶことができるSLSのような重量物打ち上げロケットを構築しようとしています。それがまさにそれが機能する方法です。」
まあ、記事を書いているエリックバーガーはSLSに懐疑的だからな。
SLSのライバルがスターシップ/スーパーヘビーだという指摘もある。
「NASAはSpaceXの次のロケットであるスーパーヘビーブースターと競合しています。SpaceXは、スーパーヘビーロケットの単一セグメントを構築していません。これは、SLSより大きく、より強力で、非常に安価で、再利用可能です。しかし、2021年に10年前のSLSの前に、車両が軌道に打ち上げられる可能性があります。」
浮沈子的には、その可能性はゼロだと確信しているけど、そして、テスト飛行で仮にサブオービタル(弾道軌道)飛行することがあったとしても、有人仕様の信頼性を担保された運用ベースのSLS(+オリオン宇宙船)とは、そもそも比較の対象にならない。
2020年代に、スターシップ/スーパーヘビーが無人貨物輸送システムとしての実績を積むことができるかどうかも怪しいと見ている(何機吹っ飛ぶことやら・・・)。
開発に掛かるコストが膨れ上がり(現在50億ドルと予想)、400億ドル(SLS+オリオン宇宙船)を超え、資金ショートで断念されるリスクも、依然としてゼロではない。
それでも、スターリンクなどの関連事業の収益をつぎ込んで、開発を続けるかもしれないけどな。
昨年のスターホッパーから、今年8月のSN5によるホッピング飛行の経緯を見ていると、こんなもんで10年以内に有人飛行が可能になると考える方が不自然な気がする(これまで何回吹っ飛んだことか、そして、これから何百回吹っ飛ぶことか・・・)。
まあいい。
つまり、ロケット開発は先が見えないバクチだということだ(吹っ飛ぶからって、バクチクではない!)。
賭けに勝てば英雄だし、負ければただのスクラップだ。
ソ連も、ロシアになってからも、米国だって、開発途上で消えていったロケットのリストは長い。
H3が、開発途上で消えていったGXロケットや、過剰コストが仇になって廃止に追い込まれたMーVロケットに連なるかどうかは未定だ。
ここまで来て廃止はないだろうと思うが、一寸先は闇だからな。
400億ドルかけたロケットと宇宙船のシステムも、競争に敗れれば惜しげもなく捨てられる。
一発打ち上げられるたびに、H3ロケットの開発費用(1900億円)より高くつくしな(20億ドル:約2200億円)。
70トンのペイロードを地球低軌道に上げるSLSと、数トン程度のH3(最大低軌道打ち上げ能力は未確認)を比較するのは間違っているし、開発済みのRS-25を使うのと、新規開発のLE-9とを同列に考えることはできない。
どちらも使い捨てロケットで、固体燃料ブースターを付けて飛ばすところくらいだな。
ブースターなしで上がるH3-30仕様が、どのくらいの割合になるかは分からない。
意外と多いのではないか。
その場合の1段目の推力は、LE-9頼りだ。
初の3基掛け、大型打ち上げロケットでは初の液体燃料エンジンのみでの打ち上げになる。
今回の燃焼障害の原因と対策が適切に講じられ、所定の延長期間内で試験が終了し、新たな日程で初打ち上げが行われるのを期待しよう。
ロケット開発がハイリスクなものだということを、改めて教えられた気がする。
廃物利用なSLSでさえ、その実現には10年以上の歳月を掛けている。
スターシップ/スーパーヘビーで2023年に月に行けるなんて、誰が信じるかよ・・・。
<以下追加>----------
(JAXA、「H3」ロケット打ち上げ延期の理由)
https://newswitch.jp/p/23778
「燃焼室内壁を高温作動条件で試験すると、設計値よりも燃焼室内壁が高温になることが分かった。」
「エンジンの燃焼室内の開口は、燃焼室を冷やす水素が通る冷却溝付近で14カ所見つかった。」
「定常時の局所的な熱の流入と、起動と停止過渡時の一時的な冷却不足が原因と推定された。冷却の強化や起動と停止パターンの見直し、燃焼室内壁の温度低減を試みる。」
具体的な対策については触れられていない。
「タービンの疲労破面は、外部からの振動でより内部の振動が強まり、金属疲労の蓄積が進行したと考えられる。タービンの設計を変え、翼振動試験を行う。」
技術系のメディアらしく、「エンジンが穴だらけ」→「エンジンの燃焼室内の開口」、「タービンブレードにも亀裂→タービンの疲労破面」など、それらしい言葉を使っているが、たとえば燃焼室内壁の高温化とブレードの振動の関係など、浮沈子が知りたいことは書いていない。
機動・停止時の過渡特性を問題にしているが、これも想定外なんだろうな。
穴が開いたのは、水素が通る冷却溝付近というのは、この記事で初めて知った。
(H3 ロケット1段用 LE-9 エンジンの燃焼安定性向上:参考記事)
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/534/534036.pdf
「図1:
燃焼室内筒:冷却効率を高めるため、板厚数mm程度の薄肉構造とする。」
「水素(-250℃)」(常圧では気体の温度だが、加圧されているのでたぶん液体(未確認):熱交換して気体になり、タービンを回す)
図2:エンジンサイクル図や図3:燃焼器単体試験の系統図を見ると、水素で燃焼室を冷やしたのち、ターボポンプ駆動後ノズル内部に排気しているような感じだ(フィルム冷却しているという記述もあるしな)。
「エキスパンダブリードサイクルでは,ターボポンプで昇圧された水素の一部を燃焼室の冷却に使用し,その際に獲得した熱エネルギーによりターボポンプを駆動する。ターボポンプ駆動により圧力の下がった水素は,その後ノズル内部に流れ,壁面近くを沿うように流れることでノズル壁面の冷却に使用される(フィルム冷却)。」(別記事を読むと、ポンプで昇圧された水素の一部をターボポンプの駆動に回し、大部分はそのまま燃焼室に送り込むことによって、燃焼室圧力を高くできるところがミソのようです。)
(フィルム冷却)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0%E5%86%B7%E5%8D%B4
「スリットや冷却孔から流体を噴射することで火炎が直接構造体に触れないように断熱層を形成することにより冷却空気膜を形成して翼表面を保護する方法。ロケットエンジンやガスタービン等に使用されている」
まあ、これはノズルの冷却だけだ。
ちなみに、この実験では、エンジンの始動・停止時の過渡特性をフルスケールで確認したことになっている(同じ条件ではないかもしれないが、データ取りはしている:表2:燃焼器系単体試験(フルスケール試験)の目的、図5:エンジン作動履歴を参照)。
燃料噴射器については、技術的隘路をクリアした感じだが、思わぬところに伏兵ありということか。
燃焼条件がタイトなエンジンということなのかもしれない。
タービンブレードの亀裂(疲労破面)問題は、固有振動数の問題とかあるから、形状を弄らないといけないだろう(テキトーです)。
穴が開いた(開口した)原因については、どこかの記事に燃焼室の変形によると書いてあった。
確かに薄い内壁(数mm)だから、そういうことかも知れない。
冷却溝付近という、構造的に弱いところで開口した可能性はある。
いずれにしても、起動時等の流量変更だけでなく、構造設計まで弄るということになれば、相当手間がかかりそうだし、影響も大きいかも知れない。
タービンブレードの外乱との関係も気になる。
それぞれ勝手に弄って、組んで動かしたら逆効果だったりしたらどーする?。
まあいい。
1年掛けて、きっちり直してもらわんとな・・・。
<さらに追加>----------
(第4章 ロケットの実際:P12参照)
http://lss.mes.titech.ac.jp/~matunaga/Rocket-Tomita-ch4.pdf
「(4)エキスパンダ・ブリード・サイクル(Expander Bleed Cycle)
エキスパンダ・サイクルは冷却に用いた水素すべてを,タービンを回すために用いているが,タービン側にまわす水素をごく一部にして,ほとんどを cooling jacket から直接エンジン燃焼室に送り込み,ターボ・ポンプを回した水素ガスは捨ててしまうのがエキスパンダ・ブリード・サイクルである」
「ターボ・ポンプを回した水素ガスは圧力が低下するので,エキスパンダ・サイクルではエンジン燃焼室圧力が低くなるが,エキスパンダ・ブリード・サイクルでは,エンジン燃焼室に行くガスは圧力が低下していないので,エンジン燃焼室圧力を高く取ることができる.」
「すなわち,エキスパンダ・ブリード・サイクルのほうがエキスパンダ・サイクルより性能が高く,水素ガスを捨ててしまっても,この方が効率がよい.」
「ただし,エキスパンダ・サイクルの場合もそうであるが,燃焼室の冷却との熱交換での水素ガスの温度上昇に限界があるため,水素ガス温度を高くできないので(400~600K)ターボ・ポンプ駆動馬力不足で,大推力のエンジンには適さない.」
「また,エキスパンダ・サイクルも同様であるが液体水素を燃料として用いるエンジンにしか適用できない」
大出力には本質的に向かず、使用燃料も限られるニッチな仕組みのエンジンだな。
このエンジンを、次世代エンジンとして選択したのは、ひとえに経済性の追求(安定性もあるか)だろうが、大推力を実現する必要から、燃焼室の熱交換効率を上げるために、筋の悪い開発をしたのかもしれない。
将来の発展性については、開発当初から意識しているようだ。
再着火性については、もともとLE-5シリーズで実績があるので、再使用の際にも問題はない。
(種子島のロケットエンジン燃焼試験設備が公開2)
https://news.mynavi.jp/article/le9-2/
「現在の使い捨てロケットだけでなく、将来の再使用型輸送機でも使えるようなエンジンを目指していた」
「「爆発しにくい」という特徴は、有人ロケットにも適していると言える。」
先を見据えた開発ではあったわけだ。
開発手法についても、慎重なアプローチをとっている。
(種子島のロケットエンジン燃焼試験設備が公開3)
https://news.mynavi.jp/article/le9-3/
「開発後期での手戻りを避けるために、要素試験やシミュレーション解析を駆使し、起こりそうな問題は事前に1つ1つ排除してきた。」
「高信頼性開発手法により、すでに魔物は退治したのかもしれない。しかしもしかすると、まだどこかに隠れているのかもしれない。今後、燃焼試験をさらに繰り返すことで、そのあたりが徐々に見えてくることになるだろう。」
3年近く前の記事だが、岡田プロマネには魔物の影が見えていたのかもしれないな・・・。
<さらにさらに追加>----------
(航空・宇宙「材料編」)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/83/2/83_117/_pdf
資料ページで38ページ末から、LE-7A(たぶん)の燃焼室材料と冷却系統についての記述がある。
「(2)燃焼室
燃焼室は燃焼ガス温度が3000℃をレベルに達するため、金属材料をそのまま適用することはできない。」
「そこで、燃焼室は熱伝導特性に優れたCu合金とし、燃料である液体水素を利用した強制冷却構造を用いている。」
うーん、やっぱ、液体水素なんだ・・・。
「また、Cu合金のみでは、燃焼室の高圧に耐えることが困難であるため、Inconel718製の外筒により保持し、耐圧構造として成立させている。」
(中略)
「Cu合金製内筒とInconel718製外筒及びマニホールド類は電子ビーム溶接で組み立てている。」
燃焼室に応力が掛かって変形し、この溶接が剥がれて強度的に弱い銅製の内筒がじわじわ開口したのか、溶接が健全で外筒の応力がじかに伝わり、一気に開口したのかが気になるところだ(14か所の開口の詳細は不明)。
電子顕微鏡とかで、開口面を見るんだろうな(未確認)。
燃焼室がトラブルのもとになると想定して、事前の要素テストを繰り返したり、可能な限りシミュレーションモデルでぐりぐりしたんだろうが、結果は事前テストやシミュレーションの予想を覆した。
(H3初号機 来年度に延期 主エンジン破損 JAXA)
https://373news.com/_news/?storyid=125617
「燃焼室では内部の壁に長さ1センチ、幅0.5ミリの割れ目が十数カ所発生した。設計通りに壁を冷却できず、局所的に約1000度の高温に達し破損したとみられる。」
「タービンは燃料を送るターボポンプ内にあり、長さ数センチの羽根76枚のうち、2枚にひびが見つかった。想定以上の共振が発生し、金属疲労が蓄積した可能性があるという。」
徐々に詳細が明らかになってくる感じだ。
新たに何か分かれば、別記事にて書く。
(H3ロケット初打ち上げ、来年度に延期 エンジンに亀裂)
https://www.asahi.com/articles/ASN9C5VLDN9CULBJ00G.html
「挑戦している部分で、経験を超えた未知のことが最後に出てきてしまった」
2月くらいまでは、快調に飛ばしてたんだがな。
(LE-9エンジン×3基の燃焼試験が初公開、H3ロケットのBFTは全て無事に完了!)
https://news.mynavi.jp/article/20200219-977534/
「日本はH-IIBロケットで2基クラスタの経験はあったものの、第1段の大型エンジンで3基クラスタというのはH3ロケットが初めて。未知の領域だったと言えるが、岡田プロマネは「案外スムーズにいった」と、安堵の表情を見せる。」
H2Bの開発の際、非回転対称3基クラスターに対する懸念が出され、途中で断念した(増強型(H2A212):液体燃料ブースターを付ける構想だったようだな)。
それをあっさりとクリアし、いよいよ種子島で認定エンジンの燃焼試験を始めた矢先のトラブルということになった。
好事魔多し・・・。
エキスパンダーブリードサイクルエンジンは、我が国のお家芸と言ってもいい。
(エキスパンダーブリードサイクル)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB#%E3%82%A8%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB
「日本だけが実用化している高信頼性エンジンサイクルで、液体酸素/液体水素上段エンジンであるLE-5A/LE-5Bで採用」
高出力化に当たっては、燃焼室の拡大(縦長)や熱効率の改善(回収熱量の増加)、ターボポンプの改良(IHI)により達成することを見込んでいた。
その、根本のところでケチが付いたわけだ。
(初号機打ち上げ、21年度に延期 H3ロケット、エンジンに不具合―JAXA)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020091100799&g=soc
「エンジンの燃焼室内壁に最大で幅0.5ミリ、長さ1センチの穴が14カ所見つかった。また、燃焼室に液体水素を送り込むポンプのタービン羽根2枚にひびも見つかった。」
(次期基幹ロケット「H3」初号機打ち上げ、21年度に延期 主エンジン不具合)
https://mainichi.jp/articles/20200911/k00/00m/040/210000c
「タービンは振動に伴う金属疲労が、燃焼室の内壁は冷却機能が足りずに設計値より高温になったことがそれぞれ原因とみられる。」
燃料噴射器が、機械加工によるものと3Dプリンターによるものとで特性が異なり、後者では共振が発生することは既に分かっている。
「以前の燃焼試験において、ターボポンプで共振の問題が発生したことから、まず初号機で搭載するタイプ1では、共振領域を避けて運転することとし、先行して認定。噴射器は従来の機械加工のものを使い、手堅く進める。」
「続くタイプ2で抜本的な対策を行い、共振領域自体を無くす設計とする。噴射器も3Dプリンタ製のものを採用し、これでLE-9の開発が完了となる。タイプ2は2号機での適用を目指しているとのこと。」
今回の発表では、この2号機の延期も含まれていることから、噴射器の問題だけではないということは明らかだな。
(第8回 H3ロケット用LE-9認定型#1エンジン燃焼試験結果)
http://www.rocket.jaxa.jp/rocket/engine/le9/2020/200526.html
・試験日:2020年5月26日
・試験場所:宇宙航空研究開発機構 種子島宇宙センター(鹿児島県)
・試験目的:LE-9エンジン認定型の機能・性能の確認
・着火時刻:16時45分
・試験時間:225.5秒(243.0)
・メイン燃焼圧力:10.87MPa(10.65)
・液体水素ターボポンプ回転数:40,990rpm(40,582)
・液体酸素ターボポンプ回転数:17,261rpm(16,986)
・備考:液体水素ターボポンプの入口圧力が予め設定していた下限値に達したため、自動停止しました。」
この認定型のエンジンは、もっぱら種子島で試験され、徐々に燃焼時間を伸ばしてきた。
H3ロケット用LE-9認定型#1エンジン燃焼試験結果:
・第1回(2020年2月13日):101.4秒
・第2回(2020年2月21日):95.0秒
・第3回(2020年3月31日):100.0秒
・第4回(2020年4月7日):6.55秒(試験設備の異常により手動停止)
・第5回(2020年4月17日):210.0秒
・第6回(2020年4月25日):120.1秒(液体水素ターボポンプの入口圧力が予め設定していた下限値に達したため、自動停止:予定時間140秒)
・第7回(2020年4月30日):240.0秒
・第8回(2020年5月26日):225.5秒(液体水素ターボポンプの入口圧力が予め設定していた下限値に達したため、自動停止:予定時間243秒)
水素側ターボポンプの入口圧力の低下が、何か本質的な部分に関わるのかは知らない。
第8回目の燃焼試験が、通常より過酷な条件で行われたという報道もある。
(H3ロケットの打ち上げ1年延期 主エンジンに穴やひび:共同通信配信)
https://news.yahoo.co.jp/articles/5073b040d537763592cede2b1b70dec995c0d7dd
「通常運転よりも高い過酷な温度での燃焼に耐えられるかどうかの実験で、壁の温度は約千度まで上昇」
読売は、タービンの設計変更、燃焼室の冷却機能の強化に踏み込んで書いている。
(「H3」1号機打ち上げ、21年度に延期…燃焼試験後にタービンのひび見つかる)
https://www.yomiuri.co.jp/science/20200911-OYT1T50178/
「ひびが見つかったのは、タービンの動翼の一部。エンジンを運転中に振動が大きくなる「共振」が起き、強度が低下したとみられる。対策として、タービンを設計し直し、効果を検証する。」
「燃焼室の内壁からも、14か所の穴(最大幅0・5ミリ、長さ1センチ程度)が確認された。内壁が1000度近くまで高温になり、変形したとみられる。冷却機能を強化し、内壁の温度上昇の低減を図る。」
設計を変更し、制作、試験、検証を繰り返していく中で、新たな問題が発生しないとは限らない。
燃焼室をスケールアップした予備実験や、LE-Xの開発(水素側ターボポンプは米国開発)だけでは見えてこなかった問題が出てきたわけだ。
「エンジンの技術的な課題への対応は、万全を期すべきだと判断した」
再使用エンジンと銘打って開発したエンジンが、ホッピングテストで火を噴いても大成功と報じられるどっかのロケット開発とは、文化が違うと感じる。
まあ、どうでもいいんですが。
一発必中、目指すは100パーセントの成功だからな。
壊してみなきゃわからんことは、開発中に解決しておくことだ。
そこは、物理の法則が変わらない限り同じともいえる。
調べていく中で、こんな記事もあった。
(ロケット開発エンジニアが大学で挑む「燃焼メカニズム」の解明とは【帝京大学】)
https://univ-journal.jp/column/202032500/
「真子教授が着目したのは‶燃焼振動”という現象。燃焼室内で生じる熱と圧力が互いに変動を強め合うことで発生する共鳴現象であり、圧力変動が大きくなるとエンジンを破壊してしまうリスクも高まるという。」
「『LE-9』に採用される燃焼方式は、重大な故障が起こりにくいため信頼性が高く、パーツ数が少ない分だけコストダウンを図れるというメリットがあります。その一方で生じやすいのが燃焼振動であり、この現象の解明に注力しています」
「燃焼振動抑制デバイス‶レゾネータ”の開発を進めており、スピーカーから出る音によって共鳴現象を発生させ、狙った周波数帯の音を吸収する最適な構造や並べ方を検証している。」
どっかで聞いたような話だな。
サターン5型のFー1エンジンでも、燃焼の不安定性に起因する問題が発生している。
(F-1ロケットエンジン)
https://ja.wikipedia.org/wiki/F-1%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
「技術者たちは最後の手段として、稼働中の燃焼室の中で小さな爆発(彼らは『爆弾』と呼び、RDX、C4または黒色火薬が使用された)を発生させる手法を編み出した。」
べらぼーめ・・・。
「不規則な燃焼に対応するための様々な形式の同心円状のインジェクター(燃料噴射機)を試験することが可能になった。これらの問題に1959年から1961年にかけて取り組んだ結果、最終的にエンジンの燃焼はきわめて安定するようになり、人為的に不安定を誘導した場合でも1/10秒以内で減衰するようになった。」
F-1エンジンの場合は、解決に2年掛かっている。
今回の延期が、十分な対策を取るための必要十分期間を満足しているかどうかは知らない。
パーツパーツで行われたり、予備開発で得たデータはあっても、組んでみて負荷を掛けて初めて現れる現象もあるということだな。
技術的な詳細については、浮沈子にはさっぱりだが、状況は楽観的とは程遠い。
メインエンジンの新規開発という、最大のチャレンジ項目でのつまずきだからな。
本来なら、この要素の技術的目途が立ってからロケット全体の開発が始まる。
重工は、要素技術とサブスケールの段階で見切り発車した。
コスト削減圧力、お家芸への過信、世代交代による技術伝承の分断、スケジュールありきの民間事業の特性などなど。
それぞれの要請には、それなりの正当性があるが、それらを統合した時に何が出るかは完全には予想できない。
たまたま、こんな記事が出ていて印象的だ。
(チャーリー・ボルデンは静かな部分を大声で言います:SLSロケットは消えます)
https://arstechnica.com/science/2020/09/former-nasa-administrator-says-sls-rocket-will-go-away/
2014年:
「正直にしましょう。市販の重量物運搬車はありません。Falcon 9 Heavyがいつか登場するかもしれません。それは今、設計図にあります。SLSは本物です。」
2016年:
「打ち上げロケットについて語るなら、国民に対する私たちの責任は、大型打ち上げロケットのように、一般の人々ができない、またはしたくないことを処理することだと信じています」
「私はまだ大型ロケットに商業投資をするのが好きではない。」
その後:
・2017年に打ち上げが予定されていたSLSロケットが2021年末まで延期(21年中には上がらない方に1票だな)
2018年2月:
・ファルコンヘビーの打ち上げ
2020年:
「SLSはなくなるでしょう。バイデン政権や次期トランプ政権の間になくなる可能性があります...ある時点で商業組織が追いつくためです。彼らは本当に、NASAがSLSよりもはるかに安い価格で飛ぶことができるSLSのような重量物打ち上げロケットを構築しようとしています。それがまさにそれが機能する方法です。」
まあ、記事を書いているエリックバーガーはSLSに懐疑的だからな。
SLSのライバルがスターシップ/スーパーヘビーだという指摘もある。
「NASAはSpaceXの次のロケットであるスーパーヘビーブースターと競合しています。SpaceXは、スーパーヘビーロケットの単一セグメントを構築していません。これは、SLSより大きく、より強力で、非常に安価で、再利用可能です。しかし、2021年に10年前のSLSの前に、車両が軌道に打ち上げられる可能性があります。」
浮沈子的には、その可能性はゼロだと確信しているけど、そして、テスト飛行で仮にサブオービタル(弾道軌道)飛行することがあったとしても、有人仕様の信頼性を担保された運用ベースのSLS(+オリオン宇宙船)とは、そもそも比較の対象にならない。
2020年代に、スターシップ/スーパーヘビーが無人貨物輸送システムとしての実績を積むことができるかどうかも怪しいと見ている(何機吹っ飛ぶことやら・・・)。
開発に掛かるコストが膨れ上がり(現在50億ドルと予想)、400億ドル(SLS+オリオン宇宙船)を超え、資金ショートで断念されるリスクも、依然としてゼロではない。
それでも、スターリンクなどの関連事業の収益をつぎ込んで、開発を続けるかもしれないけどな。
昨年のスターホッパーから、今年8月のSN5によるホッピング飛行の経緯を見ていると、こんなもんで10年以内に有人飛行が可能になると考える方が不自然な気がする(これまで何回吹っ飛んだことか、そして、これから何百回吹っ飛ぶことか・・・)。
まあいい。
つまり、ロケット開発は先が見えないバクチだということだ(吹っ飛ぶからって、バクチクではない!)。
賭けに勝てば英雄だし、負ければただのスクラップだ。
ソ連も、ロシアになってからも、米国だって、開発途上で消えていったロケットのリストは長い。
H3が、開発途上で消えていったGXロケットや、過剰コストが仇になって廃止に追い込まれたMーVロケットに連なるかどうかは未定だ。
ここまで来て廃止はないだろうと思うが、一寸先は闇だからな。
400億ドルかけたロケットと宇宙船のシステムも、競争に敗れれば惜しげもなく捨てられる。
一発打ち上げられるたびに、H3ロケットの開発費用(1900億円)より高くつくしな(20億ドル:約2200億円)。
70トンのペイロードを地球低軌道に上げるSLSと、数トン程度のH3(最大低軌道打ち上げ能力は未確認)を比較するのは間違っているし、開発済みのRS-25を使うのと、新規開発のLE-9とを同列に考えることはできない。
どちらも使い捨てロケットで、固体燃料ブースターを付けて飛ばすところくらいだな。
ブースターなしで上がるH3-30仕様が、どのくらいの割合になるかは分からない。
意外と多いのではないか。
その場合の1段目の推力は、LE-9頼りだ。
初の3基掛け、大型打ち上げロケットでは初の液体燃料エンジンのみでの打ち上げになる。
今回の燃焼障害の原因と対策が適切に講じられ、所定の延長期間内で試験が終了し、新たな日程で初打ち上げが行われるのを期待しよう。
ロケット開発がハイリスクなものだということを、改めて教えられた気がする。
廃物利用なSLSでさえ、その実現には10年以上の歳月を掛けている。
スターシップ/スーパーヘビーで2023年に月に行けるなんて、誰が信じるかよ・・・。
<以下追加>----------
(JAXA、「H3」ロケット打ち上げ延期の理由)
https://newswitch.jp/p/23778
「燃焼室内壁を高温作動条件で試験すると、設計値よりも燃焼室内壁が高温になることが分かった。」
「エンジンの燃焼室内の開口は、燃焼室を冷やす水素が通る冷却溝付近で14カ所見つかった。」
「定常時の局所的な熱の流入と、起動と停止過渡時の一時的な冷却不足が原因と推定された。冷却の強化や起動と停止パターンの見直し、燃焼室内壁の温度低減を試みる。」
具体的な対策については触れられていない。
「タービンの疲労破面は、外部からの振動でより内部の振動が強まり、金属疲労の蓄積が進行したと考えられる。タービンの設計を変え、翼振動試験を行う。」
技術系のメディアらしく、「エンジンが穴だらけ」→「エンジンの燃焼室内の開口」、「タービンブレードにも亀裂→タービンの疲労破面」など、それらしい言葉を使っているが、たとえば燃焼室内壁の高温化とブレードの振動の関係など、浮沈子が知りたいことは書いていない。
機動・停止時の過渡特性を問題にしているが、これも想定外なんだろうな。
穴が開いたのは、水素が通る冷却溝付近というのは、この記事で初めて知った。
(H3 ロケット1段用 LE-9 エンジンの燃焼安定性向上:参考記事)
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/534/534036.pdf
「図1:
燃焼室内筒:冷却効率を高めるため、板厚数mm程度の薄肉構造とする。」
「水素(-250℃)」(常圧では気体の温度だが、加圧されているのでたぶん液体(未確認):熱交換して気体になり、タービンを回す)
図2:エンジンサイクル図や図3:燃焼器単体試験の系統図を見ると、水素で燃焼室を冷やしたのち、ターボポンプ駆動後ノズル内部に排気しているような感じだ(フィルム冷却しているという記述もあるしな)。
「エキスパンダブリードサイクルでは,ターボポンプで昇圧された水素の一部を燃焼室の冷却に使用し,その際に獲得した熱エネルギーによりターボポンプを駆動する。ターボポンプ駆動により圧力の下がった水素は,その後ノズル内部に流れ,壁面近くを沿うように流れることでノズル壁面の冷却に使用される(フィルム冷却)。」(別記事を読むと、ポンプで昇圧された水素の一部をターボポンプの駆動に回し、大部分はそのまま燃焼室に送り込むことによって、燃焼室圧力を高くできるところがミソのようです。)
(フィルム冷却)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0%E5%86%B7%E5%8D%B4
「スリットや冷却孔から流体を噴射することで火炎が直接構造体に触れないように断熱層を形成することにより冷却空気膜を形成して翼表面を保護する方法。ロケットエンジンやガスタービン等に使用されている」
まあ、これはノズルの冷却だけだ。
ちなみに、この実験では、エンジンの始動・停止時の過渡特性をフルスケールで確認したことになっている(同じ条件ではないかもしれないが、データ取りはしている:表2:燃焼器系単体試験(フルスケール試験)の目的、図5:エンジン作動履歴を参照)。
燃料噴射器については、技術的隘路をクリアした感じだが、思わぬところに伏兵ありということか。
燃焼条件がタイトなエンジンということなのかもしれない。
タービンブレードの亀裂(疲労破面)問題は、固有振動数の問題とかあるから、形状を弄らないといけないだろう(テキトーです)。
穴が開いた(開口した)原因については、どこかの記事に燃焼室の変形によると書いてあった。
確かに薄い内壁(数mm)だから、そういうことかも知れない。
冷却溝付近という、構造的に弱いところで開口した可能性はある。
いずれにしても、起動時等の流量変更だけでなく、構造設計まで弄るということになれば、相当手間がかかりそうだし、影響も大きいかも知れない。
タービンブレードの外乱との関係も気になる。
それぞれ勝手に弄って、組んで動かしたら逆効果だったりしたらどーする?。
まあいい。
1年掛けて、きっちり直してもらわんとな・・・。
<さらに追加>----------
(第4章 ロケットの実際:P12参照)
http://lss.mes.titech.ac.jp/~matunaga/Rocket-Tomita-ch4.pdf
「(4)エキスパンダ・ブリード・サイクル(Expander Bleed Cycle)
エキスパンダ・サイクルは冷却に用いた水素すべてを,タービンを回すために用いているが,タービン側にまわす水素をごく一部にして,ほとんどを cooling jacket から直接エンジン燃焼室に送り込み,ターボ・ポンプを回した水素ガスは捨ててしまうのがエキスパンダ・ブリード・サイクルである」
「ターボ・ポンプを回した水素ガスは圧力が低下するので,エキスパンダ・サイクルではエンジン燃焼室圧力が低くなるが,エキスパンダ・ブリード・サイクルでは,エンジン燃焼室に行くガスは圧力が低下していないので,エンジン燃焼室圧力を高く取ることができる.」
「すなわち,エキスパンダ・ブリード・サイクルのほうがエキスパンダ・サイクルより性能が高く,水素ガスを捨ててしまっても,この方が効率がよい.」
「ただし,エキスパンダ・サイクルの場合もそうであるが,燃焼室の冷却との熱交換での水素ガスの温度上昇に限界があるため,水素ガス温度を高くできないので(400~600K)ターボ・ポンプ駆動馬力不足で,大推力のエンジンには適さない.」
「また,エキスパンダ・サイクルも同様であるが液体水素を燃料として用いるエンジンにしか適用できない」
大出力には本質的に向かず、使用燃料も限られるニッチな仕組みのエンジンだな。
このエンジンを、次世代エンジンとして選択したのは、ひとえに経済性の追求(安定性もあるか)だろうが、大推力を実現する必要から、燃焼室の熱交換効率を上げるために、筋の悪い開発をしたのかもしれない。
将来の発展性については、開発当初から意識しているようだ。
再着火性については、もともとLE-5シリーズで実績があるので、再使用の際にも問題はない。
(種子島のロケットエンジン燃焼試験設備が公開2)
https://news.mynavi.jp/article/le9-2/
「現在の使い捨てロケットだけでなく、将来の再使用型輸送機でも使えるようなエンジンを目指していた」
「「爆発しにくい」という特徴は、有人ロケットにも適していると言える。」
先を見据えた開発ではあったわけだ。
開発手法についても、慎重なアプローチをとっている。
(種子島のロケットエンジン燃焼試験設備が公開3)
https://news.mynavi.jp/article/le9-3/
「開発後期での手戻りを避けるために、要素試験やシミュレーション解析を駆使し、起こりそうな問題は事前に1つ1つ排除してきた。」
「高信頼性開発手法により、すでに魔物は退治したのかもしれない。しかしもしかすると、まだどこかに隠れているのかもしれない。今後、燃焼試験をさらに繰り返すことで、そのあたりが徐々に見えてくることになるだろう。」
3年近く前の記事だが、岡田プロマネには魔物の影が見えていたのかもしれないな・・・。
<さらにさらに追加>----------
(航空・宇宙「材料編」)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/83/2/83_117/_pdf
資料ページで38ページ末から、LE-7A(たぶん)の燃焼室材料と冷却系統についての記述がある。
「(2)燃焼室
燃焼室は燃焼ガス温度が3000℃をレベルに達するため、金属材料をそのまま適用することはできない。」
「そこで、燃焼室は熱伝導特性に優れたCu合金とし、燃料である液体水素を利用した強制冷却構造を用いている。」
うーん、やっぱ、液体水素なんだ・・・。
「また、Cu合金のみでは、燃焼室の高圧に耐えることが困難であるため、Inconel718製の外筒により保持し、耐圧構造として成立させている。」
(中略)
「Cu合金製内筒とInconel718製外筒及びマニホールド類は電子ビーム溶接で組み立てている。」
燃焼室に応力が掛かって変形し、この溶接が剥がれて強度的に弱い銅製の内筒がじわじわ開口したのか、溶接が健全で外筒の応力がじかに伝わり、一気に開口したのかが気になるところだ(14か所の開口の詳細は不明)。
電子顕微鏡とかで、開口面を見るんだろうな(未確認)。
燃焼室がトラブルのもとになると想定して、事前の要素テストを繰り返したり、可能な限りシミュレーションモデルでぐりぐりしたんだろうが、結果は事前テストやシミュレーションの予想を覆した。
(H3初号機 来年度に延期 主エンジン破損 JAXA)
https://373news.com/_news/?storyid=125617
「燃焼室では内部の壁に長さ1センチ、幅0.5ミリの割れ目が十数カ所発生した。設計通りに壁を冷却できず、局所的に約1000度の高温に達し破損したとみられる。」
「タービンは燃料を送るターボポンプ内にあり、長さ数センチの羽根76枚のうち、2枚にひびが見つかった。想定以上の共振が発生し、金属疲労が蓄積した可能性があるという。」
徐々に詳細が明らかになってくる感じだ。
新たに何か分かれば、別記事にて書く。
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