真空専用エンジンの再使用:人類未踏の領域へ:そもそも本番機はステンなのかあ?2020年09月08日 08:35

真空専用エンジンの再使用:人類未踏の領域へ:そもそも本番機はステンなのかあ?


厳密には、そうとは言えないのかも知れない。

スペースシャトルやXー37Bでは、真空中のみで作動するエンジン(OMSとか)が再使用されているし、シャトルのメインエンジンは、専用ではないかもしれないが真空中で作動している。

しかし、まあ、打ち上げロケットの2段目以降に使われる真空中作動に特化したメインエンジンが回収されて再使用されるという話は、たぶん、史上初になるに違いない。

(SpaceXは、Starship用のRaptor真空エンジンバリアントの最初のコピーのテストを開始します)
https://www.elonx.cz/spacex-zacina-testovat-prvni-exemplar-vakuove-varianty-motoru-raptor-pro-lod-starship/

それがどーしたということなんだが、品質管理や設計の最適化という観点から、浮沈子的には注目している。

回収して現物をつぶさに調べ、過剰品質や逆に破損しやすい部分を特定したり、それらを改善して最適化することができるからな。

更には、そのプロセスを繰り返して、耐久性、信頼性の向上につなげることもできる。

通常の工業製品は、そうして生産管理されているわけで、別に目新しい話じゃない。

従来、使い捨てにしていたロケットを、再使用することによって、当たり前の生産プロセスに持ち込むだけの話なわけだ。

失敗すれば損失が大きい打ち上げロケット(概ねロケットの値段より高いペイロードを積んでたりするしな)の場合、どうしても過剰品質になりがちなわけで、それが使い捨てと相まってコストの増加につながっている。

いや、使い捨てにするから、耐久性を抑えてコスト削減になっているということもあるかも知れない。

いずれにしても、使い捨てにせずに、再使用できるものならそれに越したことはないのだ。

従来は、回収手段が限られていて、再使用するためのコストもかさんでしまい、耐久性の向上自体もマイナスにしか作用しなかったかもしれない。

じゃあ、何回くらい再使用すれば適性なのかという話もある。

材料特性や応力との関係、熱や振動による脆化、化学的変化などなど、考慮すべき点は多い。

部品のコストと、再使用に当たっての検査やメンテナンスコストも考慮する必要がある。

メンテするなら、換えちまった方が安いということなら、その方が早い。

ベンツのプロペラシャフトに噛ませてあったコンパニオンプレートの話を思い出すな。

わざと壊れやすい部品を入れて、そこが集中的に壊れるようにして、劣化を見て交換し、システム全体の長寿命化を図る。

もちろん、それだけが対応方法ではないだろうけど、機械の王国時代の発想としては秀逸と感じる。

全部がちがちに作ってしまって、壊れる時は何の前ぶれもなく、壊滅的に壊れるというのはマズい。

最悪、壊れても、安全側に壊れてくれた方がいい。

タイヤのパンクとかは、操縦可能なレベルで空気が抜けて、事故に繋がらないように起こるのがいい。

301ステンレス鋼から、304Lステンレス鋼に変えようとしているスターシップは、その辺りを狙っているのかも知れない(ド派手な爆発を見られなくなるのは寂しいけどな)。

神ならぬ人の作りしものは、必ず壊れる。

それは、おそらく真理だ。

自然の在り様に手を加え、身勝手に神の造形を弄れば、それは禍となって自らに降りかかるのだ。

人間の知恵が未熟であるだけではなく、自然に手を加えるということの本質に係ることだからな。

遺伝子を弄り、放射線耐性や無重力耐性を上げようとかしても、そう上手くはいかないだろう。

どこかで、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

壊れるということを前提として、それを管理しながら運用し、適切にメンテナンスを行ったり部品を交換しながら延命させ、ある時点で見切りをつけて全とっかえするというのは耐久消費財として健全な姿だ。

使い捨てが悪いわけではない。

適性なメンテナンスコストの方が、製造にかかる費用に対して極端に高い場合は使い捨てでもやむを得ない。

使い捨てにすることによるコスト削減や、品質向上が期待される場合もあるからな。

一概には言えない。

最近は、使い捨てにしてリサイクルする際のコストも織り込んで評価しなければならないし、環境負荷を資源レベルやエネルギーレベルで見なければならなくなってきている。

打ち上げロケットだって、そのうち省エネとか言いだすに決まってるのだ(そうなのかあ?)。

環境負荷が低いのは水素酸素燃料だが、エネルギー密度の観点からは最適とは言えないしな(炭化水素系の燃料では、エンジンの耐熱性の問題から酸素リッチで燃やせなかったために、仕方なく水素にした経緯もある)。

その兼ね合いが難しい。

時代時代で、適用できる技術は異なるし、それは常に変化し続けている。

再使用ロケットが志向されたのは、スペースシャトルからだが、様々な理由でとん挫した。

安全性、経済性、実効性。

そう、実効性が乏しかったことが、最大の理由かもしれない。

それは、地球低軌道までしか行けなかったし、打ち上げ能力にも限界があった。

ISSを建造するというアプリケーションに特化したロケットだったといってもいい。

ロシアモジュールが、それぞれ独立した宇宙機として操縦でき、自分でドッキングして宇宙ステーションをつぎはぎで作って行っているのに対して、米国その他のモジュールは、運んでもらって人手でくっつけなければならないドンガラに過ぎない(そんなあ!)。

そういうことができたのは、シャトルの広大なカーゴベイのおかげだ。

もちろん、サターンVを片っ端から打ち上げれば、ISSは建造できたかもしれないが、べらぼーなコストになったかもな。

使い捨てか、再使用かは、2者択一ではない。

常に流動的で、組み合わせ可能で、最適化を追求されるべきだ。

SLS(コアモジュール、固体燃料ブースター、第2段目)は使い捨てだが、ペイロードであるオリオン宇宙船の一部(CM)は再使用されるしな。

ファルコン9だって、2段目や衛星分離機構などは使い捨てだ。

フェアリングは、今のところグレーゾーン。

スターシップが、完全再使用を目指していることは画期的だし、実現すれば大した話だ。

真空専用エンジンの最適化だけではなく、スペースシャトルの夢を継ぐことになる。

開発過程についても、特徴的と感じる。

使い捨てロケットは、SLSの開発に見るように、地上で徹底的にテストして、完成品として世に送り出す(送り出すと、使い捨てされるだけ!)。

何度も飛ばして、ぶっ壊しながら作るわけではない。

ファルコン9だって、徹底した地上試験を行い、性能を確認して開発された使い捨てロケットが出自となっている。

使い捨てロケット→再使用ロケットなわけで、初めから再使用を目論んだ開発を行ったわけではない(ケストレルやマーリンエンジンは、当初から再使用を前提とした開発だったらしい)。

そうはいっても、再使用指向はファルコン1の開発当初からあったわけだから、何らかの特徴的な開発プロセスがあるかもしれない(未確認)。

まあいい。

スターシップは、最初から完全再使用を目指しているから、プロトタイプはホッピングからスタートしている。

従来の使い捨てロケットの開発から見れば、異様な風景だ(SLSは、ホッピングできないしな:着陸脚ないし)。

別の観点から見れば、スターシップという宇宙船(本番機)の開発は、まだ、始まってすらいないかもしれない。

現在は、プロトタイプを開発しているというだけの話だ。

しかし、完全再使用の場合、どこまでがプロトタイプで、どこからが本番機かというのは区別し難いかもしれない。

材料がフィックスし、機体構造に連続的な改良を続けていくのであれば、一連の開発ということになる。

エンジンは、くっつければいいだけのユニットだからな。

少なくとも、エンジンの数がころころ変わっていくのを見ると、そう感じざるを得ない。

実際に、プロトタイプから本番機に連続的に移行するかどうかは分からない。

機体構造から模索しているところを見ると、そう考えるのが順当だろうが、ステンレス鋼を加工して作っているのは、仮の姿という可能性もある。

つまり、あれはプロトタイプだけの材料・構造というわけだ。

当初指向していた複合材料は、プロトタイプ用としては確かに高価だからな。

浮沈子は、どこかのタイミングで、全く異なる材料と構造から本番機が作られる可能性は、否定できないと考えている。

だって、あのカッコのままのロケットが離陸するシーンは、想像し難いからな。

まあ、どうでもいいんですが。

現在のプロトタイプの延長線上に、本番機が来るとすれば、ロケット開発の手法自体を変えることになる。

再使用されたスペースシャトルの場合、確かにエンタープライズというプロトタイプはあった。

(スペースシャトル・エンタープライズ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%BA

「このエンタープライズは滑空実験機であり、ファン達の望んだ「宇宙船エンタープライズ号」の誕生とはならなかった。」

実は、爆発して飛び散ってしまったチャレンジャーも、実験機だった。

(スペースシャトル・チャレンジャー)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC

「滑空試験機エンタープライズと同時に製造された地上試験機を改造している」

しかし、まあ、機体構造はそのままで、改造で本番機に出来たようだし、エンタープライズも本番機に改造しようかという話もあったり、一部、部品取りに使われたということだから、いってみれば、逆に本番機を試験に使っていたようなものだろう。

爆発を繰り返しながら、材料を変えたり構造開発を詰めていっているスターシップとは発想が異なる気がするな。

静的に不安定なスペースシャトルを実現する時に、最大の懸念はおそらく滑空して着陸できるかということだったに違いない(耐熱タイルもヤバかったろうけどな)。

そこの部分は、徹底的にテストするぞ、と。

幸いなことに、滑空でトラブルを起こしたという話は聞かない(ドリームチェイサーは、車輪出なかったけどな)。

開発済みの本番機をテストに回して確認するという、スターシップとは逆の発想だと思うけどな。

先日調べたHAL/Sで書かれた制御プログラムの確認は、エンタープライズで行われたということだ。

真空エンジンの記事に刺激されて書き始めたんだが、話が逸れまくった。

(SpaceXの2番目の飛行実証済みのスターシップは、次の「テストタンク」に道を開きます)
https://www.teslarati.com/spacex-second-flight-proven-starship-next-test-tank/

「現在、SpaceXは本日と明日(9月8日)にCDT午前8時から午後8時まで予定されています。明日はSN7.1テストを開始する最も早い機会です。」

304Lステンレス鋼のタンクの2度目の試験が、単にプロトタイプ専用として行われているのか、本番機までを想定した開発として行われているのかについては分からない。

ラプターエンジン制作との兼ね合いで、プロトタイプでは、スターシップには3機しか積まず、スーパーヘビーも最大20機程度までと言われている。

それをそのまま素直に取れば、本番機は構造からして異なると考えることもできる。

最大1000回使いまわすというスーパーヘビーが、ステンレス鋼の溶接構造で作られると本気で考える方が不自然かも知れない。

プロトタイプだけではないのか。

耐熱について、それ程考慮しなくて済むスーパーヘビーこそ、ステンレス鋼にする意味は薄い。

本番機は、従来通りアルミ合金か複合材料にした方がいいような気がする。

スターシップは、多くても100回程度の再使用回数だし、耐熱性を考慮しなければならないからどうなるかは分からない。

S社は、何を考え、どうしようとしているのか。

浮沈子は、明日、本番機はステンじゃないって発表があっても、全然驚かないけどな・・・。

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