電池の研究 ― 2013年02月17日 04:55
電池の研究
まずは、この記事から。
(<産業界の技術動向> 大形リチウムイオン電池の実用化の
現状)
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/108655/1/cue22_03.pdf
2009-09に京都大学電気関係教室技術情報誌 (2009), 22: 9-15に掲載されている。
株式会社ジーエス・ユアサ パワーサプライの田中俊秀氏の論文である。論文といっても、堅苦しいものではなく、浮沈子にも容易に理解できる平易な資料である。
産業の様々な分野で、リチウムイオン電池が活躍していることが分かる。
(航空機用大形リチウムイオン電池の開発)
http://www.gs-yuasa.com/us/technic/vol7/pdf/007_01_014.pdf
いきなり、本命の記事である。
充放電を繰り返すテストを行っているのだが、気になるのは低温環境での充電について、記事の中では触れられていないことだ。
低温環境下における、充電特性についての記述が見当たらない。
充放電テストを常温、高温でのみ行っている。
離陸時に満充電にしておく前提があるからなのだろうが、それだけでいいのか?。門外漢なので、素直に疑問を感じた。
(航空機向けリチウムイオンバッテリー用地上支援装置"BHDU3924 Type GSE" の開発)
http://www.gs-yuasa.com/us/technic/vol8/pdf/008_01_029.pdf
この記事を読むと、B787に供給されているのが「LVP65-8」というタイプであることが確認できる。
「(株)ジーエス・ユアサ テクノロジーは,当旅客機に用いられるメインバッテリーおよび APU(補助動力装置)バッテリーとして,リチウムイオン電池“LVP65-8”を供給している」と明記されている。メインも補助も、どちらも発火事故を起こした組電池である。
前の記事に出てくる「LVP10-7」は、どこに使われているのだろう?。こちらのタイプは発火事故を起こしていない。
この2つの電池は単体電池の容量が違うだけではなく、エネルギー密度も異なることが「Table 1 Specifications of LVP10 and LVP65 type lithium-ion cells.」を見るとわかる。
火を噴いた「LVP65」の方が単位重量当りでも、単位体積当りでも15パーセント位高い。これが、集積度の違いだけによるものなのか、内部の電極やセパレーター、電解液の仕様の違いによるものなのかは不明である。
しかし、電池単体のエネルギー密度が高いことは気になる。
(リチウムイオン二次電池を用いた再生可能エネルギーの系統連系円滑化システムの開発)
http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/483/483052.pdf
三菱重工は、自然エネルギー発電関係の出力平滑化を行うための電池としての研究を行っているようだ。電力網に不安定電源が接続されることによる弊害を防ぐためのものである。
家庭での発電では、電気自動車の電池を利用する案もあるらしいが、事業者が行う発電システムでは、何らかのバッファが必要だろう。
こういった、産業用蓄電システムにリチウムイオン電池の優れた特性が生かされることは、実に結構なことである。
制御システムも、安全装置も、必要な対策を十分に採り、安全で安定的な稼動を行ってもらいたい。
ユアサの記事では、何重にも安全装置が施されていることが明記されている。長いが、該当箇所を引用する。
「組電池内部にはLVP65電池に加えて,BMUとコンタクタとが備え付けられている.BMUは常に電池電圧および組電池内部温度を監視し,異常を検出した場合には,充電を停止するよう充電器に信号を出力する機能を備えている.また,常に電池電圧を均等化するためにバランサー機能を備えている.これらの機能に加えて,航空機用電池に要求される高い信頼性を実現するために下記に示すような機能を追加した.」
「(1) 組電池のいかなる故障も検知する自己診断機能
(2) 過充電などの異常モードに対する独立二重保護機能
(3) コンタクタを用いた組電池自身による異常充電遮断機能」
技術的な詳細は、浮沈子には皆目分からないが、BMU(バッテリー・マネージメント・ユニット)は、個々の電池の電圧と組電池全体の温度を監視している。
異常を感知すると信号を発して、充電を停止する(はずだ)。
しかし、気になる記述もある。
「LVP10-7 電池」の方は、「電池電圧とと電池温度とを出力するために,「各電池」には電圧検出リードとサーミスターとが取り付けられている.」とあるが、「LVP65-8」は、「各電池」に温度計はない。
また、BMUが内蔵されているので、それ自体が熱で壊れてしまった場合は、充電停止の信号を送ることができない設計になっている。「LVP10-7 電池」の方は、BMUが外部にあるため、損傷のリスクは少ない。
まあ、いろいろ問題があるとはいえ、B787の発火は、これらの全ての防御機能を突破した。
なぜか?。
今日、これらの資料を読み込む中で、バッテリー自体の発熱(熱暴走)が起きた時には、防ぐ術がないのだということが分かってきた。
過充電を防止したり、外部の短絡を遮断したりすることはできるだろうが、一度バッテリーが「自発的に」熱暴走を始めた時には、それを止めることはできない。
そのトリガーは一体何なのか。やっぱ、デンドライトなのか。
「内部抵抗の270日目における増加率は,25oCで4%,45oCで17% であり」という記述も気になる。
組電池の筐体に冷却機能が全く無いというのも、ちょっと驚く。
対流による自然冷却で、十分なのだろうか。
「これらの電池のケースは,いずれもステンレス製の角形形状とした.角形のケースは,表面積が大きく放熱性にすぐれており,大電流放電時においても電池温度が上昇しにくい特長がある.さらに,角形形状であることにより,電池を密に配置することができるために,体積効率の高い組電池設計が可能となる.」とあるが、片や冷却に優れ、片や高密度実装による放熱阻害要因となっている。
いったい、どっちなんだあ!?。
MITの怪しげな研究者が指摘していたが、軽量化のために冷却ファンなどを付けなかったのだろう。仮に付けたとしても、内部の熱暴走の抑制に対しては、文字通り焼け石に水かもしれない。
念のため、この電池に水をかけて消火するなんてことは、断じて行ってはならない。本当に爆発する!。燃えるに任せるしかないのだ。ドライアイスでもぶちまけるより他に手はない。
エアバスがA350へのリチウムイオン電池の搭載を断念したというが、開発は続けるという。高性能だが、厄介なこのシロモノを、人間の知恵と工夫で、なんとか手懐けて、使い物になるようにしたいものだ。
でも、やはり当分は乗りたくないような気がする。
まずは、この記事から。
(<産業界の技術動向> 大形リチウムイオン電池の実用化の
現状)
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/108655/1/cue22_03.pdf
2009-09に京都大学電気関係教室技術情報誌 (2009), 22: 9-15に掲載されている。
株式会社ジーエス・ユアサ パワーサプライの田中俊秀氏の論文である。論文といっても、堅苦しいものではなく、浮沈子にも容易に理解できる平易な資料である。
産業の様々な分野で、リチウムイオン電池が活躍していることが分かる。
(航空機用大形リチウムイオン電池の開発)
http://www.gs-yuasa.com/us/technic/vol7/pdf/007_01_014.pdf
いきなり、本命の記事である。
充放電を繰り返すテストを行っているのだが、気になるのは低温環境での充電について、記事の中では触れられていないことだ。
低温環境下における、充電特性についての記述が見当たらない。
充放電テストを常温、高温でのみ行っている。
離陸時に満充電にしておく前提があるからなのだろうが、それだけでいいのか?。門外漢なので、素直に疑問を感じた。
(航空機向けリチウムイオンバッテリー用地上支援装置"BHDU3924 Type GSE" の開発)
http://www.gs-yuasa.com/us/technic/vol8/pdf/008_01_029.pdf
この記事を読むと、B787に供給されているのが「LVP65-8」というタイプであることが確認できる。
「(株)ジーエス・ユアサ テクノロジーは,当旅客機に用いられるメインバッテリーおよび APU(補助動力装置)バッテリーとして,リチウムイオン電池“LVP65-8”を供給している」と明記されている。メインも補助も、どちらも発火事故を起こした組電池である。
前の記事に出てくる「LVP10-7」は、どこに使われているのだろう?。こちらのタイプは発火事故を起こしていない。
この2つの電池は単体電池の容量が違うだけではなく、エネルギー密度も異なることが「Table 1 Specifications of LVP10 and LVP65 type lithium-ion cells.」を見るとわかる。
火を噴いた「LVP65」の方が単位重量当りでも、単位体積当りでも15パーセント位高い。これが、集積度の違いだけによるものなのか、内部の電極やセパレーター、電解液の仕様の違いによるものなのかは不明である。
しかし、電池単体のエネルギー密度が高いことは気になる。
(リチウムイオン二次電池を用いた再生可能エネルギーの系統連系円滑化システムの開発)
http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/483/483052.pdf
三菱重工は、自然エネルギー発電関係の出力平滑化を行うための電池としての研究を行っているようだ。電力網に不安定電源が接続されることによる弊害を防ぐためのものである。
家庭での発電では、電気自動車の電池を利用する案もあるらしいが、事業者が行う発電システムでは、何らかのバッファが必要だろう。
こういった、産業用蓄電システムにリチウムイオン電池の優れた特性が生かされることは、実に結構なことである。
制御システムも、安全装置も、必要な対策を十分に採り、安全で安定的な稼動を行ってもらいたい。
ユアサの記事では、何重にも安全装置が施されていることが明記されている。長いが、該当箇所を引用する。
「組電池内部にはLVP65電池に加えて,BMUとコンタクタとが備え付けられている.BMUは常に電池電圧および組電池内部温度を監視し,異常を検出した場合には,充電を停止するよう充電器に信号を出力する機能を備えている.また,常に電池電圧を均等化するためにバランサー機能を備えている.これらの機能に加えて,航空機用電池に要求される高い信頼性を実現するために下記に示すような機能を追加した.」
「(1) 組電池のいかなる故障も検知する自己診断機能
(2) 過充電などの異常モードに対する独立二重保護機能
(3) コンタクタを用いた組電池自身による異常充電遮断機能」
技術的な詳細は、浮沈子には皆目分からないが、BMU(バッテリー・マネージメント・ユニット)は、個々の電池の電圧と組電池全体の温度を監視している。
異常を感知すると信号を発して、充電を停止する(はずだ)。
しかし、気になる記述もある。
「LVP10-7 電池」の方は、「電池電圧とと電池温度とを出力するために,「各電池」には電圧検出リードとサーミスターとが取り付けられている.」とあるが、「LVP65-8」は、「各電池」に温度計はない。
また、BMUが内蔵されているので、それ自体が熱で壊れてしまった場合は、充電停止の信号を送ることができない設計になっている。「LVP10-7 電池」の方は、BMUが外部にあるため、損傷のリスクは少ない。
まあ、いろいろ問題があるとはいえ、B787の発火は、これらの全ての防御機能を突破した。
なぜか?。
今日、これらの資料を読み込む中で、バッテリー自体の発熱(熱暴走)が起きた時には、防ぐ術がないのだということが分かってきた。
過充電を防止したり、外部の短絡を遮断したりすることはできるだろうが、一度バッテリーが「自発的に」熱暴走を始めた時には、それを止めることはできない。
そのトリガーは一体何なのか。やっぱ、デンドライトなのか。
「内部抵抗の270日目における増加率は,25oCで4%,45oCで17% であり」という記述も気になる。
組電池の筐体に冷却機能が全く無いというのも、ちょっと驚く。
対流による自然冷却で、十分なのだろうか。
「これらの電池のケースは,いずれもステンレス製の角形形状とした.角形のケースは,表面積が大きく放熱性にすぐれており,大電流放電時においても電池温度が上昇しにくい特長がある.さらに,角形形状であることにより,電池を密に配置することができるために,体積効率の高い組電池設計が可能となる.」とあるが、片や冷却に優れ、片や高密度実装による放熱阻害要因となっている。
いったい、どっちなんだあ!?。
MITの怪しげな研究者が指摘していたが、軽量化のために冷却ファンなどを付けなかったのだろう。仮に付けたとしても、内部の熱暴走の抑制に対しては、文字通り焼け石に水かもしれない。
念のため、この電池に水をかけて消火するなんてことは、断じて行ってはならない。本当に爆発する!。燃えるに任せるしかないのだ。ドライアイスでもぶちまけるより他に手はない。
エアバスがA350へのリチウムイオン電池の搭載を断念したというが、開発は続けるという。高性能だが、厄介なこのシロモノを、人間の知恵と工夫で、なんとか手懐けて、使い物になるようにしたいものだ。
でも、やはり当分は乗りたくないような気がする。
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