大気圏再突入の際に発生する熱は「摩擦熱」と解説しているNASAのビデオに違和感2019年12月21日 21:45

大気圏再突入の際に発生する熱は「摩擦熱」と解説しているNASAのビデオに違和感
大気圏再突入の際に発生する熱は「摩擦熱」と解説しているNASAのビデオに違和感


(人類を再び月面に送る「アルテミス計画」の詳細をNASAがムービーで解説)
https://gigazine.net/news/20191220-artemis-how-go-moon/

アルテミス計画に冷淡な浮沈子。

どーせ、宣伝用の下らんビデオだとバカにして、英語字幕を日本語に自動翻訳で変換しながらぼーっと眺めていた。

思わず見返したのは、月軌道を回るゲートウェイが、有人ミッションの間に無人になるところと、オリオン宇宙船が地球大気圏に再突入する際に、「摩擦熱」が発生するという2か所だけ。

月軌道ゲートウェイが、殆どの期間、無人で運用されるだろうことは、想定の範囲内だ。

そこへ、有人宇宙船であるクッソ重いオリオンを飛ばすには、巨大なSLSロケットを作って使い捨てにするしかないしな。

20億ドル(2200億円)ものコストを、湯水の如く使いまくるわけにはいかない。

年に1回か、せいぜい2回くらいしか飛ばない。

1回のミッション期間が、仮に1か月くらいあったとしても、間の半年から1年近くは無人にならざるを得ない。

クルーが常駐するような運用には向かないからな。

オリオンにしても、2機体制が取れるかどうかはビミョーだ。

ISSと異なり、緊急避難用ポッドとして常駐させておくわけにはいかないだろう。

物資や燃料は無人で送ることはできるが、生身の人間を運んだり回収したりということになれば、長期間常駐すればする程リスクは高まる。

ゲートウェイの寿命も、ISSのような長期間は望めないしな。

メンテナンスコストが高くなるので、ある程度使ったら軌道離脱させて月面に落とすしかない。

特に、機械モジュールは、殆ど使い捨てになるだろうな。

燃料補給を数回(ひょっとしたら1回だけ)行って、数年で交換することになる(未確認)。

元々、静止衛星の汎用バスを使う予定なので、それでいいのかも知れない。

居住モジュールなどは、もう少し使い続けたいところだが、劣化具合によっては半分消耗品のような感じになるかもな。

何しろ、修理するのにいちいちSLSで人間を送る羽目になるわけだから、それだけで2200億円だ。

バッテリー交換くらいは、ロボットで出来るかもしれないけどな。

地球から、コマンド送って、デクスターみたいなのが良きに計らう。

(デクスター (ISS))
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC_(ISS)

「EVA(船外活動)の必要な仕事を代替できるように機能を拡張するためのものである。」

モジュール内部の修理交換などは、別途対策が必要だろう。

まあいい。

次に気になったのは、再突入の際の「摩擦熱」だ。

「クルーモジュールは時速2万5000マイル(約時速4万km)で地球の大気圏に突入。空気の摩擦によりクルーモジュールは減速します。この時、クルーモジュールの表面温度は5000度まで上昇すると予測されています。」

動画のキャプションの英文を見てみる。

「Enering Earth's atmosphere at 25,000 miles per hour, the friction of air slows Orion considerably, while also subjecting it to temperatures of 5,000 degrees.」(時速25,000マイルで地球の大気に入ると、空気の摩擦によりオリオンはかなり遅くなり、同時に5,000度の温度にさらされます。)

概ね同じだな。

浮沈子は、大気圏再突入の際には、「大気との」摩擦熱ではなく、宇宙船の進行方向にある大気が「断熱圧縮」されて高温になり、それが宇宙船を熱すると覚えていたんだがな。

(摩擦)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%91%A9%E6%93%A6#%E6%B5%81%E4%BD%93%E3%81%AE%E5%86%85%E9%83%A8%E6%91%A9%E6%93%A6

「固体表面が互いに接しているとき、それらの間に相対運動を妨げる力(摩擦力)がはたらく現象をいう。」

流体の摩擦についての言及はあるけど、気体分子の場合の具体的記述はない。

(断熱過程)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%AD%E7%86%B1%E9%81%8E%E7%A8%8B

「外部との熱のやりとり(熱接触)がない状況で、系をある状態から別の状態へと変化させる熱力学的な過程である。」(←ワケワカ)

「大気圏(再)突入で宇宙機が加熱されたり隕石などが燃え尽きる現象も周囲の空気の断熱圧縮による温度上昇の影響が大きく、しばしば用いられる空気との摩擦という説明は間違いである。」

気を付けなければならないことは、NASAのアニメの解説では、空気「との」摩擦とは一言も言っていない点だな。

「the friction of air」(空気の摩擦)という表現になっている。

空気は流体で、理想気体では粘性がない。

実在気体では粘性を生じ、摩擦を生むが、断熱圧縮の場合は若干様相が異なるのかも知れない。

(大気圏再突入モジュールが高温になるのは摩擦熱?)
https://togetter.com/li/745180

「小規模で見れば、摩擦熱自体が断熱圧縮ですよ。摩擦するとき、ものの粒子の間の空間が圧縮され、電磁斥力が熱となった。断熱圧縮で熱が上がったのも同じような現象ですよ。」

「断熱圧縮のとき、空間が縮み、粒子間の電磁斥力によって、粒子のエネルギーが増えた。その増えたエネルギーの一部は熱という形態で観測されます。この現象自体は摩擦熱です。」

それを、摩擦熱と呼んでいいかどうかは、物理の問題というより国語の問題だろう。

圧縮によって生じた熱という意味では、その生成過程が物体と物体とが接触して生じる摩擦熱とは異なる。

電磁斥力とやらが、空気分子(仮想的な)の運動エネルギーに変換されるということでは、圧縮という行為の先にあるミクロな現象としては同じと言えるのかもしれない。

しかし、それを物体がこすれ合うことを意味する「摩擦」という概念で説明するのは、やはり無理があるような気がする。

もちろん、「再突入体と空気分子」との摩擦でないことは自明だ。

NASAの説明では、もっとポピュラーなイメージで、「宇宙船が再突入する時に、空気と物理的に作用して熱を生じる現象」を、「空気の摩擦」と言い換えているだけのような気がする。

一般の誤解を逆手にとって、やんわりといなしている感じだ。

それでいいのではないかとも思う。

断熱過程とか言っても、一般には理解できないし、専門外の人々にはどうでもいい話だ。

しかしなあ、我が国の宇宙機関は、そういういい加減なことは認めないらしい・・・。

((10) 地球の大気圏(たいきけん)に突入した宇宙船は高温になりますが、この熱はどうして発生するのですか)
http://iss.jaxa.jp/kids/faq/kidsfaq10.html

「地球帰還(きかん)時に超高速で大気圏に突入する宇宙船は、すごい勢いで前方の空気を押しつぶします。」

「その押しつぶされた空気中の分子同士が、激しくぶつかり合って熱が発生します。」

「つまり宇宙船と空気との摩擦(まさつ)による発熱ではありません。」

バシッ!。

身も蓋もないなあ・・・。

(大気圏再突入)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B0%97%E5%9C%8F%E5%86%8D%E7%AA%81%E5%85%A5

「大気圏再突入は地上から打ち上げた宇宙機や物体の帰還に限って言う。」

隕石は、通常、一方通行だからな。

「再」じゃない。

「「角度が浅いと大気に弾かれる」というのは間違った解釈である。」

へえーっ、そうだったんだあ・・・。

再突入のシーンで印象的なのは、なんといってもアポロ13号の帰還の際の6分間の沈黙だろう。

(アポロ13号:再突入とスプラッシュダウン)
https://en.wikipedia.org/wiki/Apollo_13#Reentry_and_splashdown

「再突入時にコマンドモジュールの周囲の空気をイオン化すると、通常、4分間の通信が途絶えます。アポロ13号の浅い再突入経路はこれを6分に延長し、予想よりも長くなりました。CMの熱シールドが壊れたのではないかとの恐れから、大きな緊張がありました。」(CM:コマンドモジュール(司令船)の略)

まあ、どうでもいいんですが。

宇宙開発は困難に満ちている。

失敗はつきものだし、人的損耗は想定内だ。

そこは、生身の人間にとっては死の世界だし、地球からの支援がなければ生きてはいけない。

政府機関であれ、民間企業であれ、そこに関わるということはミスの許されないシビアなミッションを意味する。

儲からないからといって、おいそれと撤退することはできない。

月軌道に宇宙飛行士を置き去りにしたり、兵糧攻めにあわせるわけにはいかないだろう?。

アルテミス計画は、おそらく中止、または変更、若しくは撤退の憂き目に会う。

その頃までISSが運用されていたら、キューポラの観測窓から、月周回ゲートウエイから地球に戻ってきて再突入するオリオンを眺められるかもしれない。

(キューポラ (ISS))
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%A9_(ISS)

「直径は約2m、高さは約1.5mである。横窓が6枚と天窓があり、それぞれの窓には流星塵やスペースデブリによる損傷を防ぐための開閉式のシャッターが取り付けられている。」

無事の帰還を祈ろう・・・。

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