20億ドルの打ち上げコストは、果たして高いと言えるのか2019年12月05日 14:41

20億ドルの打ち上げコストは、果たして高いと言えるのか


ちょっと前に、こんな記事を書いた。

(200万ドルの打ち上げコストは、果たして安いと言えるのか)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2019/11/10/9174980

「競争原理が働きにくく、高コスト体質に塗れている宇宙開発。
再使用ロケットによる価格破壊を引っ提げて登場したスペースXに、業界は震撼した(たぶん)。」

ファルコン9によるCRS-19が、高空の強風と海況の悪化により延期された。

海上回収の理由を確認するために見ていた記事に、べらぼーな話が書いてあって驚く。

(SpaceXの驚きのFalcon 9ドローン船の着陸がCargo Dragonの発売前に説明されました:標題から自動翻訳のまま:以下同じ)
https://www.teslarati.com/spacex-surprise-falcon-9-drone-ship-landing-explained/

「NASAは、政治的な戦いの最中です現在、NASAのSLSロケットでの打ち上げが法的に義務付けられているヨーロッパクリッパー宇宙船の打ち上げ契約。」

「ロケットは打ち上げごとに20億ドル以上のコストがかかる可能性が高いため、Falcon HeavyまたはDelta IV Heavyを使用するだけで15億ドル以上節約できます。」

SLSにそれだけの価値があるのかどうかは知らない。

数年後、運用を開始される同程度の打ち上げ能力を持ったロケットの値段が、1000倍(!!!)違う理由を、米国議会とNASAは米国民に納得させなければならない。

しかも、SLSの打ち上げは、多く見積もっても年に3回程度。

その製造には、現在のところ4年程度が見込まれている。

(DeepSpace:NASAのEuropa ClipperがSLSに苦しみ、月面着陸船が資金を獲得し、ロシアが月の野望を語る)
https://www.teslarati.com/nasa-europa-clipper-moon-landers-and-russian-ambitions/

「NASAの役人からの過去の推定によると、機関はボーイングとエアロジェットRocketdyneが新しいSLSブースターを構築するために最低52カ月(4.3年)のリードタイムを必要とします。」

NASAは、10機分のSLSを纏めて発注した様だ。

(NASA、アルテミスムーンミッション向けにボーイングからSLSメガロケットをさらに発注)
https://www.space.com/nasa-orders-more-boeing-sls-rockets-for-moon.html

「水曜日(10月16日)に、NASAは、ボーイングの暫定追加資金調達とロケット製造用原材料の一括購入許可を発表しました。会社とNASAは、アルテミスとの完全な契約の交渉を続けています。代理店が来年確定する予定のより大きな契約は、スペース打ち上げシステム(SLS)ロケットの最大10のコアステージと、8つの探査アッパーステージ(EUS)をサポートする予定です。」

アッパーステージの数が合わない(2個足りない)のは、暫定的に使用されるアッパーステージが2個あるからだろう(アルテミス1用の1個(ICPS)は納品済み)。

エウロパクリッパーのアッパーステージに暫定極低温推進段階(ICPS)が使用されるかどうかは知らない。

「NASAは現在、フル契約でボーイングにどれだけの資金を提供するのか「わからない」が、その金額は2月に政府が次の予算要求を提出するときに開示される、と機関の広報担当者はSpace.comに語った。この追加のロケット製造は、ドナルドトランプ米国大統領の命令に応えて、5年間で月面に人間を着陸させるという機関の取り組みの一環です。」

以前、NASAの担当者は、SLSの値段を1機当たり5億ドルと言ってたような気がするけどな。

気のせいだったのかもな・・・。

(NASAの巨大な新しいロケットは打ち上げごとに5億ドルかかる)
https://www.space.com/17556-giant-nasa-rocket-space-launch-cost.html

「私たちは、およそ5億ドルの数値がフライトあたりの平均コストであると推定しました」

「SLSが5億ドルの目標を達成できれば、スペースシャトルよりも安く飛ぶことになります。シャトルプログラムは、その寿命全体で約2,090億ドル(2010ドル)で、合計135回のフライトを行い、打ち上げあたりの平均コストは15億ドルを超えました。」

20億ドルも掛かったら、スペースシャトルよりも高くなる。

しかし、スペースシャトルは地球低軌道までしか飛べなかった。

SLSは有人カプセルを月軌道に送り、7年掛かっていた木星圏への探査機を3年で送ることが可能だ。

比較の対象としては、アポロ計画に使用されたサターン5型ロケットが相応しいだろう。

(サターンV:コスト)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3V#%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88

「1回の発射にかかる費用は、24 - 35億ドル(2007年度換算)」

米国民は、より優れた性能を持つロケットを、50年の歳月を経て「割安で」手に入れることになるのだ。

SLSを完全に代替する性能を持つロケットは、開発中のBFR程度しかなく、有人飛行が行われるのは早くても2023年以降であり、その超楽観的なスケジュールを信じる者など誰もいない(ああ、一人いるかもな・・・)。

米国民は、高い買い物をしたろうが、当分の間、他国に追いつかれる心配のないツールを手にするわけだ。

ハッキリ言って、SLSとBFRを比較するのは間違っている。

ファルコン9は快挙だが、そのコストは不透明であり、今のところ有人飛行での実績もない。

ファルコンヘビーに至っては、センターコアの再使用はただの一度も行われていない(海上のドローン船への着陸には1回成功したが、帰途海上で失われ、回収には失敗している)。

1億ドル程度での打ち上げを目指しているようだが、現状では持ち出しになるだろうな。

影も形もないニューグレンやバルカンロケットについては、何もコメントできない。

現行機種の代替として開発されているので、コスト低減は図られるかもしれないが、全ては未知数だ。

打ち上げロケットは、定期的な更新を行い、開発体制を維持しなければ人的な要素(開発のパフォーマンス)を失い、開発力は低下する。

開発だけではなく、生産能力や運用能力も疲弊していく。

ロシアの低迷を見るまでもなく、そのことは明らかだ。

米国には、既にその兆候が現れているのではないか。

SLSはコンピューターでゴテゴテと飾られたサターン5型に過ぎない。

良く言っても、スペースシャトルの廃品活用だしな。

それを曲がりなりにも飛ばせるようにした技術力は大したもんだが、それ以上ではない。

人類の選択として、このロケットを世に送り出すことが正解だったかどうかは分からない。

少なくとも、半世紀は様子を見なければなるまい。

BFRや、それに続く再使用ロケットが登場し、その存在意義を失わせることになるかどうかは分からない。

巷には、このブログを初め、有象無象の情報が溢れているが、業界の言うことを鵜呑みにした安易な二次情報の垂れ流しには気を付けないとな(お前に言われたくない!)。

有人宇宙飛行を可能とする重量級ロケットの開発は、現在、SLSだけで行われている。

その他の有人ロケット(ファルコン9とアトラスV)は、せいぜい地球低軌道止まり。

SLSだって、月より遠くには直接有人宇宙船を送り込むことは出来ない。

200万ドルで100人が宇宙旅行出来るBFRなど、誰かさんの頭の中と浮沈子のブログの中にしか存在しない。

2023年に月周回軌道に人類を送り込むことが出来るとか言っているのは、人心を惑わすケシカラン連中だけだ。

チタンが高濃度の酸化剤と反応することにさえ考えが及ばないメーカーの宇宙船なんかに、誰が乗るかよ・・・。

まあ、どうでもいいんですが。

1発20億ドルのロケットが高いかどうか。

それは考えようによるというのが浮沈子的答えだ。

代替手段のないミッションに、そのコストを払っている米国民がゴーを出せば、それでいいのではないか(そのツケを、防衛費負担の増額という形で我が国に押し付けてくる態度は考え物だがな)。

今のところ、月への有人飛行を行い、他国との競争に負けないための木星圏などへの高速アクセスを実現できるのは、SLSしかないからな。

しかし、それも予定通り開発が進んで、BFRなどより早く運用を開始できた時の話だ。

浮沈子は、アルテミス計画がオンスケジュールで実行可能であると考えるほどお人よしじゃあない。

控えめに言っても数年、下手をすれば10年程度ずれ込むことはあり得る。

月周回軌道や月面に物資を届けること自体は、米国にとってそれほど困難な事業じゃない。

現行のロケットでも、十分可能だろう。

そこに人間が乗っているかどうかは、SLS次第だし、代替手段はない。

博打だな。

NASA長官が言うように、技術的障壁より、政治的障壁の方が高いだろうし。

もたもたしてると、地球低軌道はBFRが打ち上げるスターリンク衛星群で一杯になって、SLSの打ち上げが制限されるかもしれないしな(そうなのかあ?)。

400機の衛星を纏めて上げる訳だしな。

100発も打ち上げれば、4万機の計画もあっという間だ。

それでも、SLS1発打ち上げる10分の1のコストだけどな・・・。

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