技術的冒険 ― 2014年04月10日 16:43
技術的冒険
ESA(欧州宇宙機関)が開発している次期打ち上げロケットのアリアン6は、紆余曲折を経て、PPHといわれるタイプになった(画像参照)。
(ESA、欧州次期主力ロケット「アリアン6」の基本構成を発表)
http://response.jp/article/2013/07/10/201852.html
完全再利用型を目指した案は、悉く退けられ、最も保守性高くコストが圧縮できる個体燃料ロケットと上段の再着火可能な液体燃料ロケットという無難な線に落ち着いた。
昨年の7月のことである。
(新型ロケット「低価格が売り」 欧州大手のCEO)
http://www.asahi.com/articles/ASG495RPYG49ULFA01Z.html?iref=comtop_list_sci_n01
「開発を進めている新型ロケット「アリアン6」については「低価格が売りだ」と語り、手ごろな価格でライバルを突き放す戦略を明らかにした。」
(ESA、アリアン6ロケットの基本構成をまとめる)
http://www.sorae.jp/030806/4946.html
「中国やロシアはアリアン5と似た性能で低価格のロケットを保有しており、以前から激しい競争を強いられてきた。さらにスペースX社のファルコン9のような、民間企業による安価なロケットも登場したことで、より競争が熾烈になることが予想される。」
「アリアン6の第1段は固体ロケットを3基横に並べた構成で、さらに第2段にも固体ロケットが使用され、つまり固体ロケットが縦と横に線上に並べた形をしている。これら4基の固体ロケットは基本的に共通のものが使われ、大量生産による低コスト化と信頼性向上が図られる。」
「第3段には液体水素と液体酸素の組み合わせを使用するヴィンチと呼ばれるロケットエンジンが使用される。ヴィンチはアリアン5の改良型であるアリアン5 MEで実用化される見通しで、再点火能力を持ち、2機の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入することが可能となる。」
(アリアン6)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B36
「ペイロード1tあたりのコストはアリアン5ECAと比べて30%から40%減となる予定」
「アリアンECAは、2つのペイロード合わせて10000kgまで、もしくは単一のペイロードを10500kgまで、静止トランスファ軌道へ運ぶことができた。このバリエーションでは、第1段でバルカン2エンジンを、第2段ではHM7Bエンジンを使用した。この第2段は空虚質量が2100kgで、14000kgの推進剤を搭載できる。HM7Bは以前アリアン4の第3段のエンジンとして使用されていた。改良されたバルカン2エンジンはバルカンに比べてより長くなり、ノズルやフローサイクルが高効率になり、混合比が向上した。この混合比は、第一段階のタンクの長さを調整したことにより実現した。また、新しい溶接法により固体ブースターが軽くなった。」
(時論公論 「衛星打ち上げビジネスの課題」)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/120984.html
「「世界主要ロケットの打ち上げコスト:静止トランスファー軌道投入能力(2012年)
・日本 H2A 90億円:4トンから6トン
・米国 デルタ4 不明:4トンから13トン
・欧州 アリアン5 80億円:6トンから10トン
・ロシア プロトンM 68億円:6トン
・中国 長征3 56億円:5.5トン
・スペースX ファルコン9 50億円:4.5トン」
この辺については、このブログでも取り上げている。
(衛星打上ビジネス)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2013/12/21/7133812
地球周回軌道上に衛星を打ち上げるというのは、既にビジネスの世界になっていて、技術的なチャレンジはその範囲の中でリスクマネージメントされる。
しかし、仮に、80億円の40パーセントオフで打ち上げることが出来たとしても、48億円というわけで、ファルコン9と同程度だ。
突き放すというのは、難しいだろうな。
個体燃料ロケットというのは枯れた技術で、運用上も液体燃料ロケットに比べれば各段にラクだ。
なにより、安い。
使い捨てならば、低価格、低リスクの選択をするに限る。
ESAが商売優先で、低価格路線を選択したのは正解だ。
しかも、3段目はアリアン5改良型の再着火型液体燃料ロケットを流用できる。
確実にコスト削減を果たして、技術的な冒険をしない。
米国、ロシア、中国のように、有人運用を考えなくていいので、個体燃料で十分である。
我が国は、H3の開発に液体燃料ロケットをメインに置いて、あわよくば中国に続いて有人運用を行おうと考えているようだ。
色気が在り過ぎなのである。
地球周回軌道の衛星は、これから全電化衛星が主流になることが見込まれている。
静止軌道に乗せる商用衛星でも、3トンくらいのコンパクトなタイプが多くなるかも知れない。
液体燃料ロケットをメインに打ち上げる方法では、価格競争力を維持できないだろう。
再利用できないロケットでは、技術的なチャレンジも出来ない。
金をどぶに捨てることになるからだ。
その意味でも、ファルコン9の再利用ロケットには意味がある。
ESAは、ビジネスに徹する路線を選んだ。
3基の固体燃料を1段目、1基の個体燃料を2段目、再着火可能な液体燃料を3段目にした構成(PPH)は、最も保守的な案だ。
それはそれで、一つの現実的な解である。
H3の商機は、いよいよ遠のくことになったな。
(アリアンスペース イズラエルCEO「小型衛星の打ち上げ競争激化」:追加)
http://response.jp/article/2014/04/10/220967.html
(Vinci (ロケットエンジン):追加)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Vinci_(%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3)
ESA(欧州宇宙機関)が開発している次期打ち上げロケットのアリアン6は、紆余曲折を経て、PPHといわれるタイプになった(画像参照)。
(ESA、欧州次期主力ロケット「アリアン6」の基本構成を発表)
http://response.jp/article/2013/07/10/201852.html
完全再利用型を目指した案は、悉く退けられ、最も保守性高くコストが圧縮できる個体燃料ロケットと上段の再着火可能な液体燃料ロケットという無難な線に落ち着いた。
昨年の7月のことである。
(新型ロケット「低価格が売り」 欧州大手のCEO)
http://www.asahi.com/articles/ASG495RPYG49ULFA01Z.html?iref=comtop_list_sci_n01
「開発を進めている新型ロケット「アリアン6」については「低価格が売りだ」と語り、手ごろな価格でライバルを突き放す戦略を明らかにした。」
(ESA、アリアン6ロケットの基本構成をまとめる)
http://www.sorae.jp/030806/4946.html
「中国やロシアはアリアン5と似た性能で低価格のロケットを保有しており、以前から激しい競争を強いられてきた。さらにスペースX社のファルコン9のような、民間企業による安価なロケットも登場したことで、より競争が熾烈になることが予想される。」
「アリアン6の第1段は固体ロケットを3基横に並べた構成で、さらに第2段にも固体ロケットが使用され、つまり固体ロケットが縦と横に線上に並べた形をしている。これら4基の固体ロケットは基本的に共通のものが使われ、大量生産による低コスト化と信頼性向上が図られる。」
「第3段には液体水素と液体酸素の組み合わせを使用するヴィンチと呼ばれるロケットエンジンが使用される。ヴィンチはアリアン5の改良型であるアリアン5 MEで実用化される見通しで、再点火能力を持ち、2機の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入することが可能となる。」
(アリアン6)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B36
「ペイロード1tあたりのコストはアリアン5ECAと比べて30%から40%減となる予定」
「アリアンECAは、2つのペイロード合わせて10000kgまで、もしくは単一のペイロードを10500kgまで、静止トランスファ軌道へ運ぶことができた。このバリエーションでは、第1段でバルカン2エンジンを、第2段ではHM7Bエンジンを使用した。この第2段は空虚質量が2100kgで、14000kgの推進剤を搭載できる。HM7Bは以前アリアン4の第3段のエンジンとして使用されていた。改良されたバルカン2エンジンはバルカンに比べてより長くなり、ノズルやフローサイクルが高効率になり、混合比が向上した。この混合比は、第一段階のタンクの長さを調整したことにより実現した。また、新しい溶接法により固体ブースターが軽くなった。」
(時論公論 「衛星打ち上げビジネスの課題」)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/120984.html
「「世界主要ロケットの打ち上げコスト:静止トランスファー軌道投入能力(2012年)
・日本 H2A 90億円:4トンから6トン
・米国 デルタ4 不明:4トンから13トン
・欧州 アリアン5 80億円:6トンから10トン
・ロシア プロトンM 68億円:6トン
・中国 長征3 56億円:5.5トン
・スペースX ファルコン9 50億円:4.5トン」
この辺については、このブログでも取り上げている。
(衛星打上ビジネス)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2013/12/21/7133812
地球周回軌道上に衛星を打ち上げるというのは、既にビジネスの世界になっていて、技術的なチャレンジはその範囲の中でリスクマネージメントされる。
しかし、仮に、80億円の40パーセントオフで打ち上げることが出来たとしても、48億円というわけで、ファルコン9と同程度だ。
突き放すというのは、難しいだろうな。
個体燃料ロケットというのは枯れた技術で、運用上も液体燃料ロケットに比べれば各段にラクだ。
なにより、安い。
使い捨てならば、低価格、低リスクの選択をするに限る。
ESAが商売優先で、低価格路線を選択したのは正解だ。
しかも、3段目はアリアン5改良型の再着火型液体燃料ロケットを流用できる。
確実にコスト削減を果たして、技術的な冒険をしない。
米国、ロシア、中国のように、有人運用を考えなくていいので、個体燃料で十分である。
我が国は、H3の開発に液体燃料ロケットをメインに置いて、あわよくば中国に続いて有人運用を行おうと考えているようだ。
色気が在り過ぎなのである。
地球周回軌道の衛星は、これから全電化衛星が主流になることが見込まれている。
静止軌道に乗せる商用衛星でも、3トンくらいのコンパクトなタイプが多くなるかも知れない。
液体燃料ロケットをメインに打ち上げる方法では、価格競争力を維持できないだろう。
再利用できないロケットでは、技術的なチャレンジも出来ない。
金をどぶに捨てることになるからだ。
その意味でも、ファルコン9の再利用ロケットには意味がある。
ESAは、ビジネスに徹する路線を選んだ。
3基の固体燃料を1段目、1基の個体燃料を2段目、再着火可能な液体燃料を3段目にした構成(PPH)は、最も保守的な案だ。
それはそれで、一つの現実的な解である。
H3の商機は、いよいよ遠のくことになったな。
(アリアンスペース イズラエルCEO「小型衛星の打ち上げ競争激化」:追加)
http://response.jp/article/2014/04/10/220967.html
(Vinci (ロケットエンジン):追加)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Vinci_(%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3)
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