🐼スターリンク:再使用時代の打ち上げは回収が最優先2022年01月08日 21:25

スターリンク:再使用時代の打ち上げは回収が最優先


(SpaceXは、2022年の最初の打ち上げでさらに49のスターリンク衛星を配備します)
https://spaceflightnow.com/2022/01/06/spacex-deploys-49-more-starlink-satellites-in-first-launch-of-2022/

「49のスターリンク衛星の分離に成功」

スターリンク衛星バージョン1.5の打ち上げは、最大で53機だから、今回はずいぶん少ないことになる。

「同様の軌道に向かう以前のSpaceXミッションは、フロリダの海岸線から北東にトレッキングしましたが、南東への軌道は同じ軌道に到達する可能性があります。ランチャーは通常、人口密集地域の上空を飛行したり、ロケットの性能を節約して島を操縦したりすることを避けるために、カナベラル岬から南東に移動していません。」

「北東から南東への軌道の変更は、冬季の良好なブースターとフェアリングの回復条件の確率を高めることを目的としている」

今回は、毎度変わり映えのしないスターリンクの打ち上げの中では画期的と言える。

もちろん、打ち上げ方向以外、目新しいものは何もない。

スターレーザー(書く度にクサいネーミングだと呆れる:レーザーリンクとも)を搭載した、1.5世代の衛星は何度も飛んでいるし、過去に使用実績がある1段目のドローン船(ASOG)への着陸(着艦?)、フェアリングの回収もお馴染みになっていて、それらについては既にニュース価値はない。

(スターリンクミッション4-5)
https://www.elonx.cz/mise-starlink-4-5/

「新しいv1.5は300kgに近くなっています。」

ほほう、バージョン1.5の重量のデータは初めて見たな。

「ターゲット:低軌道(傾斜53.2°)」

軌道傾斜角自体は同じだ。

「今回はSpaceXが過去に使用した従来の北東の軌道ではなく南東に飛行しました。SpaceXによると、その理由は、冬季の1度の着陸エリアと空力カバーの天気が良いことです。ただし、ミサイルはバハマを回避する必要があるため、全体的なペイロードはわずかに低くなります。」

再使用なんてしなければ、回収地点の天候のことは気にしなくてもいい。

回収地点ではないが、似たような話としては有人宇宙船の打ち上げの際に、緊急脱出して着水する際の海域の天候を考慮しなければならないから、その回復を待って打ち上げ日程がズレるということはある。

今回は、無人衛星群の打ち上げなわけで、再使用ロケットならではの、初の打ち上げ方向の変更ということになった。

再使用ロケット新時代だな。

そのおかげで、同時に打ち上げられる53機の衛星数が、49機に減ってしまった。

それがどーした!?。

ロケットの製造コストの大部分を占める1段目ブースターと6億円ともいわれるフェアリングの回収確率を高めることに比べれば、1割弱の衛星数の減少は十分受け入れられるコストに違いない。

んなもんは、スターシップが出来上がれば、直ちに取り戻して見せる。

ファルコンだって、回収に成功することにより、新たな打ち上げに回すことが出来て、収益性が高まるわけだから、比較考量して合理的な選択をすることになったと思われる。

使い捨てロケットではありえない選択だな(そもそも回収しないし)。

スペースシャトルの苦い経験から、米国の官製ロケットSLSは、再使用していたエンジンや固体燃料ブースター(SRB)を使い捨てにして飛ぶことになっている(SRBは4段重ねから、回収用パラシュート分を燃料に回して5段重ねになった)。

開発には10年以上を費やし(まだ飛んでいませんから、開発が終わったわけではありませんが)、紆余曲折を経て年内には飛び上がる公算が高い。

その間に、時代は再使用ロケットに向けて大きく舵を切った。

再使用は、もちろんコスト削減という側面が強いが、高頻度の打ち上げを可能にするソリューションでもある。

初期のころは、恐々再使用ロケットを飛ばしていたが、今ではNASAも米軍も認めるメインストリームになっている。

バンバン上げる。

遠慮なく上げる。

ファルコンヘビーのセンターコアは、まだ、再使用されて飛んだことはない。

サイドブースターは、何度も着陸しているし、再使用もされているようだ。

ヘビーでの打ち上げは、ペイロードが重いとか、静止軌道に近い軌道へ直接投入するなど、センターコアの回収に向かない打ち上げもある。

一度は、ドローン船に着艦したが、持ち帰る途中で失われた。

ヘビーのセンターコアの再使用の実現は、スターシップを別にすれば、S社に残された課題の一つだ。

ファルコン9の1段目ブースターの耐久性も課題の一つかもしれない。

既に11回飛行している機体もあるようだが、エンジン隔壁の劣化で、1機は失われている。

今後も、想定外の劣化などによる喪失があるに違いない。

それらを改修して飛ばし続ける方がいいのか、見切りをつけて海の藻屑にしてしまった方がいいのかを見極めるのは難しいだろう。

自社事業であるスターリンクを回しているということは、その点でもメリットがある。

顧客のペイロードの打ち上げで、冒険するわけにはいかないからな。

回収だけ失敗するならともかく、打ち上げにまで影響が出るようでは困る。

スターリンクで実績を積んで、その結果をクライアント向け打ち上げに反映させるという現在の運用は、まあ、理想的な姿でもある。

低軌道メガコンステレーションという事業モデルを成功させることが出来れば、打ち上げ需要は一気に高まる。

スターシップが、仮に2段目を使い捨てにする暫定的な運用であれ、実現した暁には、S社は他の追随を許さない打ち上げ能力を手にすることになる。

スターリンクは、その先駆けに過ぎないかも知れない。

インターネット衛星だけではなく、気象観測や地上のリモートセンシングがメガコンステレーションによりリアルタイムに行われるようになるかもしれないし、もちろん、スパイ衛星だって対象になるだろう。

ワンウェブが狙っているように、GPS衛星も低軌道コンステレーションで運用される可能性もある。

スターリンクが高機能化してそれらの需要を取り込んでいくのか、それとも、別のコンステレーションを展開することになるのかは知らない。

人工の星々が我らが地球を覆い尽くし、地上のことが手に取るように分かるようになる時代は、すぐそこに来ている。

そして、それを実現するキーテクノロジーこそ、再使用ロケットに他ならない。

S社だけではない。

2匹目のドジョウを狙うロケットラボも、再使用に最適化した打ち上げロケットの開発を始めている。

(米企業ロケット・ラボ、独創的な新型再使用ロケット「ニュートロン」を発表)
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20211220-2233861/

「近年、数十機から数万機もの小型衛星を編隊で運用する『メガ・コンステレーション』の構築が活発になっています。こうした衛星群を効率よく構築するためには、複数の衛星をまとめて、なおかつ異なる軌道面に向け複数回打ち上げる必要があります。しかし、その1回あたりの打ち上げ質量は、(ファルコン9のような)大型ロケットがもつ打ち上げ能力よりもはるかに小さく、コスト面、効率面で問題があります。ニュートロンの低軌道に8tという打ち上げ能力は、まさにこうした打ち上げにとってちょうどいい、理想的なサイズなのです」

ファルコン9が、能力過大で効率面で問題を抱えているという指摘は当たらないような気がするんだがな(そんなら、なぜスターシップでスターリンク衛星を打ち上げるんだあ?)。

まあいい。

「高い即応性と頻度での衛星打ち上げは、たとえば有事の際に見たい場所のすぐ上空を通過する軌道に偵察衛星を打ち上げるなど、政府機関や民間で需要があり、こうした新たな付加価値、市場の打ち上げサービスも狙っている。」

たとえば、ファルコン(スターシップでもいいですが)が毎週飛んでいる所に相乗りして打ち上げることが出来れば、わざわざ専用のロケットを仕立てて飛ばす必要もないと思うんだがな。

再使用は、打ち上げロケットの概念を根本から覆す。

衛星は、いくらでも飛んでいる打ち上げロケットのどれかに、予約を入れて上げてもらうことになる。

既に、極軌道については、まだ頻度は年に2回程度と低いけれど、そういう「サービスとしての打ち上げを買う」というパターンに移行している。

(ミッショントランスポーター-3)
https://www.elonx.cz/mise-transporter-3/

「SpaceXが指揮するこの種の最初の打ち上げは、トランスポーター1ミッションの一環として2021年1月に行われました。その間に記録的な143の衛星が打ち上げられました。2021年6月の2回目の打ち上げで、88個の衛星が軌道に乗りました。」

特定の衛星を打ち上げるために、専用のロケットを仕立てる時代は終わりつつある。

過剰な打ち上げ能力という概念自体が過去のものだ。

再使用なら、激減した打ち上げコストさえ払えば、過剰だろうが何だろうが、使い捨てロケットよりはるかに安い金額で専用ロケットを飛ばすこともできるし、相乗りならさらに安上がりになる。

ペーターベックも、当然そんなことは分かっている。

「もしエレクトロンより大きなロケットを造ることになったら帽子を食べてみせるよ」

浮沈子が思うに、彼は再び帽子を食べる羽目になるだろうな。

まあ、どうでもいいんですが。

確認しておこう。

再使用ロケットの新たな時代は、スターリンク4-5によって開かれた。

機体の回収を優先し、ペイロードの効率は二の次になった。

SLSは依然として、最大の有人宇宙船打ち上げロケットとして君臨するだろうが、その歴史的位置づけは打ち上げられる前から決まっている。

最後の使い捨て巨大ロケットだ。

おっと、再使用と言えば、ブルーオリジンのニューグレンを忘れていたな。

ULAのバルカンロケットも、ひょっとしたらエンジンユニットだけ回収するというビジョンを実現するかもしれない(そのエンジンは、いつになったら出来るんだあ?)。

ESAも、そろそろ本気でポストアリアン6の開発における再使用を考え始めるだろう。

そうしなければ、世界の商業打ち上げの全てを持っていかれる可能性さえあるからな。

もちろん、航空業界だってメガキャリアだけが飛行機を飛ばしているわけではない。

軍用機もあるし、ジェネラルアビエーションも存在する。

個人で航空機を所有している人も大勢いる。

打ち上げロケットが、再使用だけになるかどうかはビミョーだ。

現在のところ、S社は上手くやっている。

コスト的にも、十分引き合う。

スペースシャトルのように、使い捨ての方が安いなどという羽目にはなっていない。

追随するロケットラボも、柳の下に二匹目のドジョウがいるに違いないと踏んでいる。

ブルーオリジンも、ULAも、同じ夢を見ている。

中国だって、技術的に可能なら再使用を投入してくるに違いない。

再使用ロケットが当たり前になることは、既に当たり前の話になっている(少しややっこしいけど)。

その中で、再使用するための回収を優先(回収地点の天候が穏やかな方を選択)して、打ち上げる衛星の機数を減らしたという点に浮沈子は注目した。

パラダイムの転換が起こったのだ。

この打ち上げは、必ず歴史に残る。

そうならなければ?。

うーん、帽子でも食って見せようかな・・・。

<以下追加>ーーーーーーーーーー

(今年はようやく、いくつかの新しい分厚いロケットが飛ぶのを見る年になるかもしれません)
https://arstechnica.com/science/2021/12/2022-could-be-a-huge-year-for-big-rocket-debuts-or-maybe-not/

再使用ネタではないけれど、今年の初打ち上げ予定な大型ロケットの記事が昨年末に上がっていたので、ブログ本文との関連も含めて引用する。


<スーパーヘビー:完全再使用>
LEOへの容量:150トン
現在の正式な発売日:「1月または2月」2022年
以前の発売予定日:N / A
現在の発売予定日:2022年第2四半期
自信:中

<スペースローンチシステム:使い捨て>
LEOへの容量:95トン
現在の正式な発売日:2022年3月から4月
以前の発売予定日:2021年第2四半期
現在の発売予定日:2022年夏
自信:中

<アリアン6:使い捨て>
LEOへの容量:22トン
現在の正式な発売日:2022年後半
以前の発売予定日:2020年第4四半期
現在の発売予定日:2023年第1四半期
自信:中から低

<バルカン:使い捨て(将来は一部再使用?)>
LEOへの容量:27トン
現在の正式な発売日:2022年半ば
以前の発売予定日:2022年第1四半期
現在の発売予定日:2023年第1四半期
自信:中

<ニューグレン:一部または完全再使用>
LEOへの容量:45トン
現在の正式な発売日:2022年末
以前の発売予定日:2021年第2四半期
現在の発売予定日:2024年第3四半期
自信:低い

参考までに、我が国のH3も混ぜてみよう。

<H3:使い捨て>
LEOへの容量:4トン(500km太陽同期軌道:固体燃料ブースターなしの構成)
現在の正式な発売日:2021年度以降
以前の発売予定日:2020年度
現在の発売予定日:2022年第1四半期(未発表)
自信:低い

打ち上げペイロードの桁が違い過ぎるので、直接の比較にはならないな。

現在のところ、打ち上げ日に関する正式発表はない(年度内はムリポ!?)。

再使用の流れと言いながら、直近に計画されている大型ロケットの初打ち上げの中で、再使用ロケットはスターシップだけだ。

SLSはもちろん、バルカンもアリアン6も使い捨てだ。

年内に飛ぶ可能性が皆無のニューグレンだけが、再使用を目指している。

頼りない限りだが、バルカンは口先だけは、エンジンユニットの再使用を謳っている(撤回したという話は聞かない)。

ニューグレンが大化けするかどうかは分からない。

規模こそ、スターシップの3分の1に過ぎないが、巨大ロケットに入れてもいいだろう(H3の10倍以上だしな)。

開発に10年は掛かると見られる(たぶん)。

2段目の再使用に成功すれば、米国の大型ロケットの再使用の流れが定着するだろう。

ロケットラボが、ポストニュートロンの開発に乗り出すかもしれない(ベックがもう1回帽子食えば!)。

再使用の流れが遅々として進まないように見えるのは、打ち上げロケットが官需に依存している点が挙げられる。

直接の打ち上げコストはともかく、多額の開発費を賄っているのは税金だ。

打ち上げ費用を抑えるために、その分を次世代ロケットの開発費に上積みするようなこともしているかもしれない(未確認)。

ズルじゃん!?。

SLSのように、税金を再分配するためのツール(公共事業)として使われる面もある。

S社のアプローチが掟破り(ぼろ儲けか、さもなくば破産か)なだけで、他の企業が健全なのかも知れない。

そんな中で、打ち上げ費用を削減することにはあまり熱心ではないわけだ。

官需に頼る限り、打ち上げ頻度が桁違いに上昇することもない(衛星作るのにも予算が必要だからな)。

メガコンステレーションが定着すれば、コストもさることながら、打ち上げ頻度を確保することが死活問題になる。

ワンウェブは、当初、700機余りのコンステレーションを考えているが、それは通信需要というより、打ち上げ能力がその程度しか確保できないことによると見ている(毎年、200機弱の打ち上げ)。

カイパーが、3千機余りのコンステレーションを計画しているのも、ニューグレンの打ち上げ能力を見込んでのことに違いない。

次世代スターリンクは、一桁多い3万機だが、もちろん、スターシップの打ち上げ能力に依存している。

それを実現することができるのは、巨大再使用ロケットだけだ。

スターリンクは、全世界の通信バックボーンの半分をスペースレーザーで賄おうとしている。

べらぼーめ・・・。

過疎地や洋上、航空機需要などは、余禄に過ぎない。

KDDIは、バックホールの利用から始めるようだが、ゆくゆくはバックボーンとしての利用を見込んでいるに違いないのだ。

3万機のメガコンステレーションを維持するためには、年間6千機を上げ続けなければならない。

毎月500機の衛星を上げる・・・。

上げ続ける・・・。

次世代スターリンク衛星(バージョン2.0)は、現在より大型化して搭載できる機数も減るだろうから、一度にあげられるのはスターシップをもってしても100機くらいになるかも知れない。

(第2世代のスターリンクは30,000の衛星で構成され、スターシップを使用して打ち上げられます)
https://www.elonx.cz/starlink-druhe-generace-bude-tvorit-30-tisic-druzic-a-bude-vynasen-pomoci-starship/

「各スターシップで100個を超えることを望んでいます。」

毎週の打ち上げを賄うには、完全再使用を実現するしかないだろう。

他社の追随を許さないアットーテキ打ち上げ能力で価格決定権を握れば、投下したコストを回収することなど朝飯前だ。

確かに、ぼろ儲けか、さもなくば破産だな・・・。