🐱全電化衛星のスラスターを追え! ― 2023年02月08日 03:45
全電化衛星のスラスターを追え!
(SpaceX、スペインのヒスパサット向け通信衛星を打ち上げ)
https://spaceflightnow.com/2023/02/06/falcon-9-amazonas-nexus-coverage/
久しぶりに、生中継で打ち上げを見た。
この衛星は、全電化衛星で、投入軌道はスーパーシンクロナス・トランスファー軌道という、絵に描いたような今時の流行な仕掛けだ。
「ソーラー アレイを配置した後、宇宙船は独自のプラズマ推進システムを使用して、今後数か月にわたって軌道を徐々に再形成し、最終的には赤道上空 22,000 マイル (約 36,000 キロメートル) を超える円形の静止軌道に落ち着きます。」
「ファルコン 9 ロケットは、上段エンジンを 2 回発射して、アマゾナス ネクサス宇宙船を楕円形の超同期トランスファー軌道に投入しました。」
スーパーシンクロナス・トランスファー軌道でググると、浮沈子の与太記事が、とんでもなく上位でヒットする(ヤバいな・・・)。
(スーパーシンクロナス・トランスファー軌道)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2016/02/19/8022738
「静止衛星を上げる時に、静止軌道である3万6千キロ(35786km)より高い高度に上げてしまうという方法らしい。」
まあ、どうでもいいんですが。
で、浮沈子としては、投入軌道よりも、今回は衛星に取り付けられている「独自のプラズマ推進システム」とやらが気になるわけだ。
(アマゾナス ネクサス ミッション)
https://www.elonx.cz/mise-amazonas-nexus/
「この衛星はSpacebus-Neo 200プラットフォーム上に構築され、電気モーターのみが装備されています。」
埋め込まれているリンク先(タレスやヒスパサットのページ)を見ても、大したことは書いてない。
こういう時は、いつものページだな・・・。
(アマゾナス・ネクサス)
https://space.skyrocket.de/doc_sdat/amazonas-nexus.htm
「推進:?、電気推進」
おいおい!。
当てにしていたページが外れだったので、少し調べる。
(タレス アレニア スペース: Spacebus-Neo)
https://space.skyrocket.de/doc_sat/tas_spacebus-neo.htm
一覧が出ていたので、整理してみた。
<衛星:打ち上げ日:バス:推進システム:>
・ユーテルサット コネクト:2020.01.16:Spacebus-Neo-100:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・シラキュース 4A:2021.10.24:Spacebus-Neo-100:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・SES 17:2021.10.24: Spacebus-Neo-200:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・Eutelsat Konnect VHTS:2022.09.07:Spacebus-Neo-200:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・ユーテルサット 10B:2022.11.23:Spacebus-Neo-200:プラズマスラスター
・アマゾナス・ネクサス:2023.02.07:Spacebus-Neo-200:?、電気推進
・サトリア:2023年:Spacebus-Neo-200:?、電気推進
・アストラ1P:202x:Spacebus-Neo-200:?、電気推進
・シクラル 3A:202x:Spacebus-Neo (不明なバージョン):?
・シクラル 3B:202x:Spacebus-Neo (不明なバージョン):?
うーん、去年の11月のユーテルサット10B辺りから、ワケワカになっている。
バスのサブバージョンのアップグレード(100→200)は、関係ないようだしな。
いろいろネットを徘徊したら、こんなページが出てきた。
(全電化衛星の世界動向)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjsass/65/9/65_274/_pdf/-char/ja
時期的にはやや古いが、全体の傾向や技術要件の差、系統が分かって参考になった。
「いずれの電気推進も政府主導プログラムの成果から波及,開発されたものと言うことができ,初期の電気推進開発は開発リスクが高く,政府支援が必須であることが伺える.」
やや手前味噌な感じがしないでもない(本人は、技術試験衛星9号機のホールスラスタ開発担当!)。
これを読むと、B社(イオンエンジン)以外は全てホールスラスタな感じがする。
「第 1 表からは今後,全電化静止衛星においてはホールスラスタが趨勢を占めるであろうことも推測できる.」
「特に,Snecma の PPS-5000 が欧のみならず米にも販路を拡大している点には注目すべきである.」
「これに対し Aerojet は 2012 年に Belfast の TAS の工場内にEuropean Space Propulsion を設立,ESA 資金により XR5 をマイナーチェンジした XR-5E を開発,QT まで終え,TAS-B の PPU との組合せにて欧での生産,販売を画策したが,目標とした利益を得られず 2016 年に撤退している」
気になったので、調べてみた。
(欧州宇宙推進機関、タレス アレニア スペース ベルギー電力処理装置を使用した 5 キロワット ホール スラスターのテストを完了)
https://www.rocket.com/article/european-space-propulsion-completes-testing-five-kilowatt-hall-thruster-thales-alenia-space
「欧州宇宙推進 (ESP) は、パワー プロセッシング ユニット (PPU) を備えた 5 キロワットのホール スラスターのテストを成功裏に完了しました。 」
(欧州宇宙推進:航空宇宙企業がベルファストの事業を閉鎖:2016 年 5 月 13 日の記事)
https://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-36283409
「予想される年間売上高 1,300 万ポンドに近づくことはありませんでした。」
まあいい。
浮沈子が注目したのは、エアロジェットがテストしていた、ベルファストの工場の方だ。
(タレス防空)
https://en.wikipedia.org/wiki/Thales_Air_Defence#Historical
「2001 年に Shorts Missile Systems は Thales Air Defence Limited に改名されました。」
エアロジェットは、事実上、この会社でテストをしていたということになる(未確認)。
ところが、これがどんでん返しなわけだ。
(英国の拠点:ベルファスト)
https://www.thalesgroup.com/en/countries/europe/united-kingdom/about-thales-uk/our-uk-locations#northernireland
「2016 年 10 月 18 日、英国の宇宙飛行士ティム ピークは、英国初の電気宇宙推進統合センター製造施設を正式に開設しました。私たちは、ベルファスト サイトが知られている人工衛星用の最先端の電気推進システムを誇りに思っています。この施設は、当社の空間設計および製造能力における重要なマイルストーンです。」
BBCの記事にあるのと同じ建物が写っているからな。
やれやれ・・・。
撤退の記事が2016 年 5 月 13 日付けだから、米国の名門ロケット企業が撤退して半年も経たないうちに、同じ工場内に、欧州最大の衛星メーカーが電気推進の製造施設を開設したわけだ。
技術流出がなかったのかが問題だな。
余程気前のいい話だったのかもしれない(未確認)。
いずれにしても、それから2年余りの月日が流れた・・・。
(完璧な推進ポインティング: Neosat プログラムの主な成果)
https://www.esa.int/Applications/Telecommunications_Integrated_Applications/Perfect_propulsion_pointing_a_main_achievement_of_the_Neosat_programme
「「すべて電気」の Spacebus Neo 衛星は、角運動量の管理に加えて、スラスターによって生成された小さな力を効率的に使用して、軌道位置を変更または維持できます。」
「Thales Belfast のチームは、電動スラスターとそれに関連するハードウェアを受け取るための各ポインティング メカニズムを準備します。完成したアセンブリは、フランスの Thales Alenia Space Cannes に送られ、衛星に統合されます。」
「これらのユニットは、最初の Spacebus Neo 衛星である Eutelsat の KONNECT で飛行します。」
ギュンターの記事では、ユーテルサット コネクト(2020.01.16)のスラスターは、スネクマのPPS-5000ということになっている。
が、添付されている画像は、誰が見たってPPS-5000とは異なる(理由は<さらにさらに追加>参照)。
が、ギュンターの記事でも、PPS-5000と明記されているのは、昨年9月のEutelsat Konnect VHTSまでの話だ。
そう、タレスは、昨年11月のユーテルサット 10Bや、今回のアマゾナス・ネクサスでは、新たに開発されたホールスラスタ(たぶん)を実装したに違いないのだ(うーん、妄想かあ?→そうみたいですな)。
更に調べていくと、この謎の新開発のスラスター(?)には、ちゃんとした名前まで付いていることまで発見した。
(THALES ALENIA SPACEが韓国のGEO-KOMPSAT-3衛星にTETRA電気推進を提供)
https://www.thalesgroup.com/en/worldwide/space/press_release/thales-alenia-space-provide-tetra-electric-propulsion-koreas-geo
「Thales Alenia Space の新しい電気推進製品ラインである TETRA は、英国で設計および組み立てられており、SpaceBus NEO プラットフォーム推進サブシステムの実証済みの成功と飛行の遺産と、英国宇宙庁のサポートを組み合わせて利用しています。」
テトラって言うのか・・・。
「TETRA は、物理的、電気的、熱的に容易に対応できる、軽量で効率的かつコンパクトな最新のソリューションです。その長寿命と柔軟な設計により、メガコンステレーション、地球観測衛星、軌道上サービス、ハイブリッド静止衛星など、さまざまな軌道やアプリケーションに適しており、顧客の要件を完全に満たします。」
これが、ベルファストでエアロジェットからパクった(!)スラスターかどうかは知らない(そうではないようです)。
しかし、プレスリリースの中では、「実証済みの成功と飛行の遺産」と明記されているからな。
もう、飛ばしているってことなわけだ(そうなのかあ?)。
プレスリリースは、2月1日だ。
その時点では、もちろん、アマゾナス・ネクサスは上がっていない。
つまり、昨年11月のユーテルサット 10Bには、TETRAが実装されていたことになる(そういうことかあ?)。
もちろん、今回の打ち上げでもテトラスラスターが実装されているに違いない。
アマゾナス・ネクサスのホールスラスタ(たぶん)を巡る、浮沈子の長い旅はひとまず終わった。
ひょっとすると、ベルファストの工場は、単に組み立てだけを行うのかも知れない。
が、設計が英国ということになっているからな。
そこは重要だ(やっぱ、エアロジェットからのパクリかあ?)。
スラスターに電気を供給する電源(PPU)についても、タレスは内製している(TASベルギー)。
「ベルギーの Thales Alenia Space は推進力ユニットを提供し、ドイツの Thales の Microwave & Imaging Subsystems 活動は電気スラスターを提供します。」
このスラスターは、開発のスキームから、エアバスDSのEurostar Neoでも使われることになる。
欧州は、全電化衛星の市場をガッチリと掴みつつある。
我が国が技術試験衛星9号機の開発を終え、2025年度に延期された打ち上げをボーっと待っている間に、市場はごっそりさらわれちまうに違いない(実際、既に韓国の衛星は持っていかれたしな)。
「この契約は、Thales Alenia Space の韓国での長いサクセス ストーリーに追加され、衛星および衛星コンステレーション用の革新的な電気推進システムの設計と提供における当社の印象的な実績を裏付けるものです。」
三菱電機が、切歯扼腕しているのが目に浮かぶな・・・。
<以下追加>ーーーーーーーーーー
(ホールドライブ:ドイツ語のページ)
https://de.wikipedia.org/wiki/Hallantrieb
いろいろ調べているうちに偶然見つけたんだが、ホールスラスタは中国でも使われているようだ。
「ホール ドライブの最もよく知られている実用的な用途は、2021 年以降、中国の宇宙ステーションで行われました。そこでは、それぞれ 80 mN の推力を持つ 4 つのエンジンが、通常の軌道上昇 (「リブースト操作」) を担当しています。」
ISSのリブーストでは苦労しているからな。
もっとも、400トンを超えるISSと、せいぜい80トン止まりの天宮宇宙ステーションでは異なるのかも知れない。
このページには気になる記述もある。
「NASAは、2016 年から 2019 年にかけて、エアロジェット ロケットダインでの強力なホール効果エンジンの開発に 6,700 万ドルの資金を提供しました。」
欧州撤退のタイミングと、妙に一致しているのが気になる(気のせいかあ?)。
米国は、ホールスラスタよりも、惑星探査に使えそうなイオンエンジンに注力してきたからな。
撤退の穴埋めだったりしたら、大スキャンダルだ。
今回いろいろ調べて、ホールスラスタが静止衛星の軌道維持や静止軌道までの上昇におけるメインストリームになるのではないかという印象が強くなった。
B社が、イオンエンジンでどこまで粘るのか。
軌道到達期間(3か月から半年)を、投入軌道などの工夫と絡めて、どこまで縮めることが出来るのか。
そもそも、静止衛星の運用期間をどう見積もるのか(燃料補給とかの技術もあるしな)。
少し前までは、静止衛星と言えども、せいぜい5年くらいが寿命だった。
打ち上げロケットの性能向上で、重量衛星(6トン級)が上げられるようになり、衛星寿命は長くなった。
今では15年というのが当たり前だ。
大量(100個くらい)の中継器を積んで、腹一杯燃料を入れて、長期の業務に投入される。
今回のアマゾナス・ネクサスもそうだけど、機器の構成を制御するプログラムを弄れるようにして、柔軟な運用が可能な中継器群を搭載するようになってきた。
ここにも、メカトロニクスの時代が押し寄せているんだろうな。
トラポンのいくつかは、軍用に使われるようだし、区分所有も当たり前になっている。
衛星オペレーターは、アパートの大家さんみたいな感じになってきている。
電力とデータバスを管理し、軌道を維持して店子にサービスする存在だ。
その通信(放送・インターネット)衛星も、全電化衛星で様変わりしつつある。
運用期間は同程度の15年だけど、需要に応じて用途を変えたりすることが出来るようになったり、燃料搭載量を少なくできることから、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道へ投入したり、2機纏めて打ち上げたりすることが出来るようになってきた。
まあ、アリアンは、元から2機打ち上げだけどな(5トン級くらいまで?)。
それもこれも、スターシップが運用されるまでの話かもしれない。
静止軌道衛星事業も、無傷ではいられないだろう。
業界が震撼する事態が始まろうとしている。
部屋の中のゾウだ。
ホールスラスタなんて、ショボい話は吹っ飛んじまうかもしれない。
しこたまヒドラジン積んで、静止軌道に直接20トンの衛星上げればいいじゃないの・・・。
<さらに追加>ーーーーーーーーーー
(地上基盤無線)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E4%B8%8A%E5%9F%BA%E7%9B%A4%E7%84%A1%E7%B7%9A
「地上基盤無線(ちじょうきばんむせん、TErrestrial Trunked RAdio、TETRA)は、公共安全に使用する特定用途向け業務用デジタル移動通信システムで、政府機関や、特別救急サービス、警察、消防署、救急車、鉄道輸送の従業員、運送サービス、および軍用向けに設計されている。」
タレスは、無線関係にも手を出していて、テトラとタレスを絡めて検索すると、こっちの関係がヒットして困った。
まだ、ニュースリリースしたばかりのホールスラスタの情報も、早く整備してもらいたいな・・・。
<さらにさらに追加>ーーーーーーーーーー
(Snecma は、エアバス、タレス衛星電気スラスターの注文の準備をしています)
https://spacenews.com/snecma-prepares-for-airbus-thales-satellite-electric-thruster-orders/
「PPS 5000 スラスターの使用に関するヨーロッパの 2 つの最大の衛星プライム コントラクターとの合意に続いて、今後 10 年間で年間 35 のプラズマ電気衛星推進ユニットを販売する予定」
記事は2016年のものだが、これによればPPS-5000は当分の間使い続けられるということなわけで、タレスのスペースバスネオのホールスラスターは、現在でもPPS-5000のままのはずだ。
とすれば、ベルファストで組付けられているのはいったい何なのか。
(スペースバス ネオ プラットフォーム用の電気推進ポインティング メカニズム (EPPM))
http://electricrocket.org/2019/243.pdf
「ESA パートナーシップ プロジェクトの一環として、RUAG は、Thales の Spacebus Neo プラットフォーム用の新しい EP ポインティング メカニズムの開発と認定に選ばれました。」
「設計駆動要件は次のとおりです。」
・スラスター供給ハーネス、スラスター供給配管、およびメカニズム ハーネスから生じる高抵抗トルク下でのポインティング機能。
・Fakel SPT-140 と Safran PPS-5000 の 2 つのスラスター タイプに対するメカニズムの相互互換性
・スラスターの高い衝撃感度。
そうなのだ、RUAGが開発したのは、ホールスラスタの「架台」だったわけで、画像でみても、スラスターヘッドがダミーで写っているだけなわけだ(記事のフィギャー1参照:SPT-140 スラスター マス ダミーを使用した発射構成の電気推進ポインティング メカニズム (EPPM)。:キャプションより)。
例によって、浮沈子の早とちりによるチョンボだな。
そうなると、テトラ=PPS-5000+EPPMという公式も怪しい(そうなのかあ?)。
ひょっとすると、互換性のあるSPT-140辺りが組み込まれている可能性すらある(そんなあ!)。
テトラなんていう、ワケワカのシステム名を与えたのは、ロシア製のスラスターヘッドユニットを使用しているのを隠すためのショボい対策の可能性すらある(ありえねー・・・:タレスは、一貫してPPS-5000だからな)。
まあ、どうでもいいんですが。
もちろん、様々な可能性はあるわけで、何とも言えない。
タレスはガリレオ衛星(欧州版GPS衛星)も作っているけど、それにはPPS-5000を搭載するようだ。
(Safran は PPS®5000 プラズマスラスターで Galileo に乗り込みます)
https://www.safran-group.com/fr/espace-presse/safran-monte-bord-galileo-propulseur-plasmique-ppsr5000-2022-01-26
「Thales Alenia Space は、Safran Aircraft Engines の PPS®5000 プラズマスラスターを選択して、ガリレオ1コンステレーションの 6 つの第 2 世代衛星に電力を供給しています。」
スネクマは、サフランの一部門となって名称も変わっている。
今後しばらくは、欧州ではPPS-5000の時代が続くんだろうな(今時、ロシア製のホールスラスタは売れないだろうし・・・)。
「電気衛星事業者から 88 台の PPS ® 5000 モーターが注文され、そのうち 44 台がすでに納入されています。」(記事は、2022年1月26日付)
まあいい。
TASのTETRAが何を意味するのかは、相変わらず不明のままだ。
つーことは、アマゾナス・ネクサスの電気推進システムがどうなっているかは、相変わらず不明のままということだな・・・。
(SpaceX、スペインのヒスパサット向け通信衛星を打ち上げ)
https://spaceflightnow.com/2023/02/06/falcon-9-amazonas-nexus-coverage/
久しぶりに、生中継で打ち上げを見た。
この衛星は、全電化衛星で、投入軌道はスーパーシンクロナス・トランスファー軌道という、絵に描いたような今時の流行な仕掛けだ。
「ソーラー アレイを配置した後、宇宙船は独自のプラズマ推進システムを使用して、今後数か月にわたって軌道を徐々に再形成し、最終的には赤道上空 22,000 マイル (約 36,000 キロメートル) を超える円形の静止軌道に落ち着きます。」
「ファルコン 9 ロケットは、上段エンジンを 2 回発射して、アマゾナス ネクサス宇宙船を楕円形の超同期トランスファー軌道に投入しました。」
スーパーシンクロナス・トランスファー軌道でググると、浮沈子の与太記事が、とんでもなく上位でヒットする(ヤバいな・・・)。
(スーパーシンクロナス・トランスファー軌道)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2016/02/19/8022738
「静止衛星を上げる時に、静止軌道である3万6千キロ(35786km)より高い高度に上げてしまうという方法らしい。」
まあ、どうでもいいんですが。
で、浮沈子としては、投入軌道よりも、今回は衛星に取り付けられている「独自のプラズマ推進システム」とやらが気になるわけだ。
(アマゾナス ネクサス ミッション)
https://www.elonx.cz/mise-amazonas-nexus/
「この衛星はSpacebus-Neo 200プラットフォーム上に構築され、電気モーターのみが装備されています。」
埋め込まれているリンク先(タレスやヒスパサットのページ)を見ても、大したことは書いてない。
こういう時は、いつものページだな・・・。
(アマゾナス・ネクサス)
https://space.skyrocket.de/doc_sdat/amazonas-nexus.htm
「推進:?、電気推進」
おいおい!。
当てにしていたページが外れだったので、少し調べる。
(タレス アレニア スペース: Spacebus-Neo)
https://space.skyrocket.de/doc_sat/tas_spacebus-neo.htm
一覧が出ていたので、整理してみた。
<衛星:打ち上げ日:バス:推進システム:>
・ユーテルサット コネクト:2020.01.16:Spacebus-Neo-100:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・シラキュース 4A:2021.10.24:Spacebus-Neo-100:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・SES 17:2021.10.24: Spacebus-Neo-200:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・Eutelsat Konnect VHTS:2022.09.07:Spacebus-Neo-200:4 × PPS-5000 プラズマスラスター
・ユーテルサット 10B:2022.11.23:Spacebus-Neo-200:プラズマスラスター
・アマゾナス・ネクサス:2023.02.07:Spacebus-Neo-200:?、電気推進
・サトリア:2023年:Spacebus-Neo-200:?、電気推進
・アストラ1P:202x:Spacebus-Neo-200:?、電気推進
・シクラル 3A:202x:Spacebus-Neo (不明なバージョン):?
・シクラル 3B:202x:Spacebus-Neo (不明なバージョン):?
うーん、去年の11月のユーテルサット10B辺りから、ワケワカになっている。
バスのサブバージョンのアップグレード(100→200)は、関係ないようだしな。
いろいろネットを徘徊したら、こんなページが出てきた。
(全電化衛星の世界動向)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjsass/65/9/65_274/_pdf/-char/ja
時期的にはやや古いが、全体の傾向や技術要件の差、系統が分かって参考になった。
「いずれの電気推進も政府主導プログラムの成果から波及,開発されたものと言うことができ,初期の電気推進開発は開発リスクが高く,政府支援が必須であることが伺える.」
やや手前味噌な感じがしないでもない(本人は、技術試験衛星9号機のホールスラスタ開発担当!)。
これを読むと、B社(イオンエンジン)以外は全てホールスラスタな感じがする。
「第 1 表からは今後,全電化静止衛星においてはホールスラスタが趨勢を占めるであろうことも推測できる.」
「特に,Snecma の PPS-5000 が欧のみならず米にも販路を拡大している点には注目すべきである.」
「これに対し Aerojet は 2012 年に Belfast の TAS の工場内にEuropean Space Propulsion を設立,ESA 資金により XR5 をマイナーチェンジした XR-5E を開発,QT まで終え,TAS-B の PPU との組合せにて欧での生産,販売を画策したが,目標とした利益を得られず 2016 年に撤退している」
気になったので、調べてみた。
(欧州宇宙推進機関、タレス アレニア スペース ベルギー電力処理装置を使用した 5 キロワット ホール スラスターのテストを完了)
https://www.rocket.com/article/european-space-propulsion-completes-testing-five-kilowatt-hall-thruster-thales-alenia-space
「欧州宇宙推進 (ESP) は、パワー プロセッシング ユニット (PPU) を備えた 5 キロワットのホール スラスターのテストを成功裏に完了しました。 」
(欧州宇宙推進:航空宇宙企業がベルファストの事業を閉鎖:2016 年 5 月 13 日の記事)
https://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-36283409
「予想される年間売上高 1,300 万ポンドに近づくことはありませんでした。」
まあいい。
浮沈子が注目したのは、エアロジェットがテストしていた、ベルファストの工場の方だ。
(タレス防空)
https://en.wikipedia.org/wiki/Thales_Air_Defence#Historical
「2001 年に Shorts Missile Systems は Thales Air Defence Limited に改名されました。」
エアロジェットは、事実上、この会社でテストをしていたということになる(未確認)。
ところが、これがどんでん返しなわけだ。
(英国の拠点:ベルファスト)
https://www.thalesgroup.com/en/countries/europe/united-kingdom/about-thales-uk/our-uk-locations#northernireland
「2016 年 10 月 18 日、英国の宇宙飛行士ティム ピークは、英国初の電気宇宙推進統合センター製造施設を正式に開設しました。私たちは、ベルファスト サイトが知られている人工衛星用の最先端の電気推進システムを誇りに思っています。この施設は、当社の空間設計および製造能力における重要なマイルストーンです。」
BBCの記事にあるのと同じ建物が写っているからな。
やれやれ・・・。
撤退の記事が2016 年 5 月 13 日付けだから、米国の名門ロケット企業が撤退して半年も経たないうちに、同じ工場内に、欧州最大の衛星メーカーが電気推進の製造施設を開設したわけだ。
技術流出がなかったのかが問題だな。
余程気前のいい話だったのかもしれない(未確認)。
いずれにしても、それから2年余りの月日が流れた・・・。
(完璧な推進ポインティング: Neosat プログラムの主な成果)
https://www.esa.int/Applications/Telecommunications_Integrated_Applications/Perfect_propulsion_pointing_a_main_achievement_of_the_Neosat_programme
「「すべて電気」の Spacebus Neo 衛星は、角運動量の管理に加えて、スラスターによって生成された小さな力を効率的に使用して、軌道位置を変更または維持できます。」
「Thales Belfast のチームは、電動スラスターとそれに関連するハードウェアを受け取るための各ポインティング メカニズムを準備します。完成したアセンブリは、フランスの Thales Alenia Space Cannes に送られ、衛星に統合されます。」
「これらのユニットは、最初の Spacebus Neo 衛星である Eutelsat の KONNECT で飛行します。」
ギュンターの記事では、ユーテルサット コネクト(2020.01.16)のスラスターは、スネクマのPPS-5000ということになっている。
が、添付されている画像は、誰が見たってPPS-5000とは異なる(理由は<さらにさらに追加>参照)。
が、ギュンターの記事でも、PPS-5000と明記されているのは、昨年9月のEutelsat Konnect VHTSまでの話だ。
そう、タレスは、昨年11月のユーテルサット 10Bや、今回のアマゾナス・ネクサスでは、新たに開発されたホールスラスタ(たぶん)を実装したに違いないのだ(うーん、妄想かあ?→そうみたいですな)。
更に調べていくと、この謎の新開発のスラスター(?)には、ちゃんとした名前まで付いていることまで発見した。
(THALES ALENIA SPACEが韓国のGEO-KOMPSAT-3衛星にTETRA電気推進を提供)
https://www.thalesgroup.com/en/worldwide/space/press_release/thales-alenia-space-provide-tetra-electric-propulsion-koreas-geo
「Thales Alenia Space の新しい電気推進製品ラインである TETRA は、英国で設計および組み立てられており、SpaceBus NEO プラットフォーム推進サブシステムの実証済みの成功と飛行の遺産と、英国宇宙庁のサポートを組み合わせて利用しています。」
テトラって言うのか・・・。
「TETRA は、物理的、電気的、熱的に容易に対応できる、軽量で効率的かつコンパクトな最新のソリューションです。その長寿命と柔軟な設計により、メガコンステレーション、地球観測衛星、軌道上サービス、ハイブリッド静止衛星など、さまざまな軌道やアプリケーションに適しており、顧客の要件を完全に満たします。」
これが、ベルファストでエアロジェットからパクった(!)スラスターかどうかは知らない(そうではないようです)。
しかし、プレスリリースの中では、「実証済みの成功と飛行の遺産」と明記されているからな。
もう、飛ばしているってことなわけだ(そうなのかあ?)。
プレスリリースは、2月1日だ。
その時点では、もちろん、アマゾナス・ネクサスは上がっていない。
つまり、昨年11月のユーテルサット 10Bには、TETRAが実装されていたことになる(そういうことかあ?)。
もちろん、今回の打ち上げでもテトラスラスターが実装されているに違いない。
アマゾナス・ネクサスのホールスラスタ(たぶん)を巡る、浮沈子の長い旅はひとまず終わった。
ひょっとすると、ベルファストの工場は、単に組み立てだけを行うのかも知れない。
が、設計が英国ということになっているからな。
そこは重要だ(やっぱ、エアロジェットからのパクリかあ?)。
スラスターに電気を供給する電源(PPU)についても、タレスは内製している(TASベルギー)。
「ベルギーの Thales Alenia Space は推進力ユニットを提供し、ドイツの Thales の Microwave & Imaging Subsystems 活動は電気スラスターを提供します。」
このスラスターは、開発のスキームから、エアバスDSのEurostar Neoでも使われることになる。
欧州は、全電化衛星の市場をガッチリと掴みつつある。
我が国が技術試験衛星9号機の開発を終え、2025年度に延期された打ち上げをボーっと待っている間に、市場はごっそりさらわれちまうに違いない(実際、既に韓国の衛星は持っていかれたしな)。
「この契約は、Thales Alenia Space の韓国での長いサクセス ストーリーに追加され、衛星および衛星コンステレーション用の革新的な電気推進システムの設計と提供における当社の印象的な実績を裏付けるものです。」
三菱電機が、切歯扼腕しているのが目に浮かぶな・・・。
<以下追加>ーーーーーーーーーー
(ホールドライブ:ドイツ語のページ)
https://de.wikipedia.org/wiki/Hallantrieb
いろいろ調べているうちに偶然見つけたんだが、ホールスラスタは中国でも使われているようだ。
「ホール ドライブの最もよく知られている実用的な用途は、2021 年以降、中国の宇宙ステーションで行われました。そこでは、それぞれ 80 mN の推力を持つ 4 つのエンジンが、通常の軌道上昇 (「リブースト操作」) を担当しています。」
ISSのリブーストでは苦労しているからな。
もっとも、400トンを超えるISSと、せいぜい80トン止まりの天宮宇宙ステーションでは異なるのかも知れない。
このページには気になる記述もある。
「NASAは、2016 年から 2019 年にかけて、エアロジェット ロケットダインでの強力なホール効果エンジンの開発に 6,700 万ドルの資金を提供しました。」
欧州撤退のタイミングと、妙に一致しているのが気になる(気のせいかあ?)。
米国は、ホールスラスタよりも、惑星探査に使えそうなイオンエンジンに注力してきたからな。
撤退の穴埋めだったりしたら、大スキャンダルだ。
今回いろいろ調べて、ホールスラスタが静止衛星の軌道維持や静止軌道までの上昇におけるメインストリームになるのではないかという印象が強くなった。
B社が、イオンエンジンでどこまで粘るのか。
軌道到達期間(3か月から半年)を、投入軌道などの工夫と絡めて、どこまで縮めることが出来るのか。
そもそも、静止衛星の運用期間をどう見積もるのか(燃料補給とかの技術もあるしな)。
少し前までは、静止衛星と言えども、せいぜい5年くらいが寿命だった。
打ち上げロケットの性能向上で、重量衛星(6トン級)が上げられるようになり、衛星寿命は長くなった。
今では15年というのが当たり前だ。
大量(100個くらい)の中継器を積んで、腹一杯燃料を入れて、長期の業務に投入される。
今回のアマゾナス・ネクサスもそうだけど、機器の構成を制御するプログラムを弄れるようにして、柔軟な運用が可能な中継器群を搭載するようになってきた。
ここにも、メカトロニクスの時代が押し寄せているんだろうな。
トラポンのいくつかは、軍用に使われるようだし、区分所有も当たり前になっている。
衛星オペレーターは、アパートの大家さんみたいな感じになってきている。
電力とデータバスを管理し、軌道を維持して店子にサービスする存在だ。
その通信(放送・インターネット)衛星も、全電化衛星で様変わりしつつある。
運用期間は同程度の15年だけど、需要に応じて用途を変えたりすることが出来るようになったり、燃料搭載量を少なくできることから、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道へ投入したり、2機纏めて打ち上げたりすることが出来るようになってきた。
まあ、アリアンは、元から2機打ち上げだけどな(5トン級くらいまで?)。
それもこれも、スターシップが運用されるまでの話かもしれない。
静止軌道衛星事業も、無傷ではいられないだろう。
業界が震撼する事態が始まろうとしている。
部屋の中のゾウだ。
ホールスラスタなんて、ショボい話は吹っ飛んじまうかもしれない。
しこたまヒドラジン積んで、静止軌道に直接20トンの衛星上げればいいじゃないの・・・。
<さらに追加>ーーーーーーーーーー
(地上基盤無線)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E4%B8%8A%E5%9F%BA%E7%9B%A4%E7%84%A1%E7%B7%9A
「地上基盤無線(ちじょうきばんむせん、TErrestrial Trunked RAdio、TETRA)は、公共安全に使用する特定用途向け業務用デジタル移動通信システムで、政府機関や、特別救急サービス、警察、消防署、救急車、鉄道輸送の従業員、運送サービス、および軍用向けに設計されている。」
タレスは、無線関係にも手を出していて、テトラとタレスを絡めて検索すると、こっちの関係がヒットして困った。
まだ、ニュースリリースしたばかりのホールスラスタの情報も、早く整備してもらいたいな・・・。
<さらにさらに追加>ーーーーーーーーーー
(Snecma は、エアバス、タレス衛星電気スラスターの注文の準備をしています)
https://spacenews.com/snecma-prepares-for-airbus-thales-satellite-electric-thruster-orders/
「PPS 5000 スラスターの使用に関するヨーロッパの 2 つの最大の衛星プライム コントラクターとの合意に続いて、今後 10 年間で年間 35 のプラズマ電気衛星推進ユニットを販売する予定」
記事は2016年のものだが、これによればPPS-5000は当分の間使い続けられるということなわけで、タレスのスペースバスネオのホールスラスターは、現在でもPPS-5000のままのはずだ。
とすれば、ベルファストで組付けられているのはいったい何なのか。
(スペースバス ネオ プラットフォーム用の電気推進ポインティング メカニズム (EPPM))
http://electricrocket.org/2019/243.pdf
「ESA パートナーシップ プロジェクトの一環として、RUAG は、Thales の Spacebus Neo プラットフォーム用の新しい EP ポインティング メカニズムの開発と認定に選ばれました。」
「設計駆動要件は次のとおりです。」
・スラスター供給ハーネス、スラスター供給配管、およびメカニズム ハーネスから生じる高抵抗トルク下でのポインティング機能。
・Fakel SPT-140 と Safran PPS-5000 の 2 つのスラスター タイプに対するメカニズムの相互互換性
・スラスターの高い衝撃感度。
そうなのだ、RUAGが開発したのは、ホールスラスタの「架台」だったわけで、画像でみても、スラスターヘッドがダミーで写っているだけなわけだ(記事のフィギャー1参照:SPT-140 スラスター マス ダミーを使用した発射構成の電気推進ポインティング メカニズム (EPPM)。:キャプションより)。
例によって、浮沈子の早とちりによるチョンボだな。
そうなると、テトラ=PPS-5000+EPPMという公式も怪しい(そうなのかあ?)。
ひょっとすると、互換性のあるSPT-140辺りが組み込まれている可能性すらある(そんなあ!)。
テトラなんていう、ワケワカのシステム名を与えたのは、ロシア製のスラスターヘッドユニットを使用しているのを隠すためのショボい対策の可能性すらある(ありえねー・・・:タレスは、一貫してPPS-5000だからな)。
まあ、どうでもいいんですが。
もちろん、様々な可能性はあるわけで、何とも言えない。
タレスはガリレオ衛星(欧州版GPS衛星)も作っているけど、それにはPPS-5000を搭載するようだ。
(Safran は PPS®5000 プラズマスラスターで Galileo に乗り込みます)
https://www.safran-group.com/fr/espace-presse/safran-monte-bord-galileo-propulseur-plasmique-ppsr5000-2022-01-26
「Thales Alenia Space は、Safran Aircraft Engines の PPS®5000 プラズマスラスターを選択して、ガリレオ1コンステレーションの 6 つの第 2 世代衛星に電力を供給しています。」
スネクマは、サフランの一部門となって名称も変わっている。
今後しばらくは、欧州ではPPS-5000の時代が続くんだろうな(今時、ロシア製のホールスラスタは売れないだろうし・・・)。
「電気衛星事業者から 88 台の PPS ® 5000 モーターが注文され、そのうち 44 台がすでに納入されています。」(記事は、2022年1月26日付)
まあいい。
TASのTETRAが何を意味するのかは、相変わらず不明のままだ。
つーことは、アマゾナス・ネクサスの電気推進システムがどうなっているかは、相変わらず不明のままということだな・・・。
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