官需と民需 ― 2018年10月28日 11:00
官需と民需
H3の話にも共通するんだが、従来、官需だけで賄ってきた打ち上げロケットの費用を低減する手段として、民需を取り込んで打ち上げ回数を増やし、生産ラインの合理化と収益機会の増大で、トータルのコストを下げるという手法がある。
これには、大前提があって、そもそも、民需を取り込めるだけのコスト削減が図れているかどうかだ。
経済的競争力の全くないH2Aとかで商売しようと思っても、余程のバーゲンをしなければ使ってもらえないし、そのためには、技術試験とか相乗りとか国際援助絡みで、コストを相殺する必要がある。
あるいは、衛星打ち上げ事業者が、打ち上げ手段を多角化するために、敢えて経済性には目を瞑って選択するということもあるかも知れない。
そういう方法では、もちろん数を稼げないので、民需によるコスト削減なんて不可能だ。
絵に描いた餅・・・。
H3は、そこんとこを何とかして、民需を取り込んだストーリーを描きたいに違いない。
まあ、浮沈子的には無理だと思うんだがな。
衛星事業者にとって、多少の値段の上乗せが必要だとしても、打ち上げの時期の選択が自由になったり、信頼性が高い方がビジネスとしては旨味がある。
年に数回しか上がらないロケットに、それを期待するのは無理だ。
年に7回程度のアリアンが商売になっているのは、2機の衛星を相乗りで打ち上げられたり、超重量級の衛星を打ち上げられる能力があるからだ。
ファルコン9の登場で、その牙城も揺らいでいる。
さっき、バルカンの記事を書いていて気付いたんだが、このロケットの設計は、オンボードのメインエンジン2基を回収して、コストを下げるというところがキモだ。
毎回の再使用により打ち上げコストが低減して、旺盛な民間需要を取り込むことが出来、その結果、低廉な価格を実現して官需にも安価に応えることが出来るというストーリーなわけだ。
その再使用が出来ないということになれば、費用対効果はほとんど改善されずに、新規の開発費用が掛かるだけ持ち出しになる。
官需が著しく増大するとか、従来の衛星を超えた大きさや重量のやつを打ち上げなければならないのならともかく、大して変わらないのであれば、新規開発などしない方がいいのだ。
それでも、無理くりな再使用を前提としたロケットを開発せざるを得ないのは、ファルコンシリーズの登場があったからだな。
再使用による劇的なコストの削減。
いや、再使用しなくても、従来の半額の価格で商売してくる安価なロケットの登場。
そりゃあ、デカいエンジン一発で打ち上げられた方が効率はいいに決まっているが、莫大な開発コストを掛けて技術的な勝利を得ても、使ってくれなければ話にならない。
従来は、月旅行とか、そういう景気のいい話がいっぱいあったから、おもいっきり技術的に背伸びしても、開発する意義があったんだろうが、既にそういう時代じゃなくなったからな。
既存のエンジンをクラスター化して、上手に使えば、安いコストで同等の能力を発揮でき、冗長化に伴う高度な残存性も得ることが出来る。
電子の帝国の技術を使いこなして、機械の王国を席巻する構図がここにも見られるわけだ。
そうして獲得した低コスト技術を引っ提げて、打ち上げロケットの価格破壊を行えば、他社も追随せざるを得ない。
ファルコンシリーズの場合は、1段目の再使用というギミックも付いてくるしな。
ロケット丸ごと再使用するのは大変だから、バルカンの場合はエンジンだけ回収するというコンセプトで応じる。
しかしなあ、本当に実現できるのかどうかは疑わしい。
もし、それが出来ないとすれば、バルカンの存在意義は半減する。
エンジンを乗せ換えただけの使い捨てロケットになる。
ロシア製エンジンを、いつまでも使い続けるわけにはいかないからな。
(RD-180)
https://ja.wikipedia.org/wiki/RD-180
「アメリカ国内からも安全保障に直結するロケットの基幹部品のロシアへの過度の依存を疑問視する声も以前に増して高まり、2014年8月に代替のエンジンの開発が着手された。代替のエンジンとしてブルーオリジンのBE-4とエアロジェット・ロケットダインのAR-1の開発が進められる」
BE-4が選定されたわけだが、まともに使えるかどうかは不明だ。
(ブルーオリジンがロケットエンジン供給へ、ベゾス創業の宇宙企業)
http://ascii.jp/elem/000/001/750/1750071/
「ブルーオリジン(Blue Origin)が競合ロケット企業にエンジンを供給する契約を獲得した。」
「ブルーオリジンのエンジン「BE-4 」は、ULAが建造する次世代ロケット「バルカン・セントール(Vulcan Centaur)」に使用される。」
自ら打ち上げロケットを開発するところからのエンジン供給というのは、あまり健全な話には聞こえない。
「最終的には自社が主要なロケット打ち上げ会社になる」
ブルーオリジンにしてみれば、敵に塩を送ることになるわけで、その代金で開発されたニューグレンが上がるようになれば、BE-4エンジンの供給をストップすることも出来るしな。
ULAから見れば、ライバルに生殺与奪の権限を与えてしまう話だが、そうせざるを得ないほど切羽詰まっているんだろうか?。
ともあれ、再使用によるコスト削減が実施できなければ、民需を取り込んで官需のコストを下げるというシナリオは崩壊する。
それでも、ロシア製エンジンを換装できればそれでいいとするか、さらなるコスト低減に突っ走るファルコンシリーズの当て馬になるかだな。
当て馬競争ということになれば、オメガだって負けてはいないだろう。
固体燃料ロケットの再使用については、既にスペースシャトルの固体燃料ブースターで実績があるからな(どれだけコスト削減になったかは不明)。
大どんでん返しで、主役が交代という羽目にもなりかねない。
一寸先は闇の世界だ。
莫大な税金を投入して、大見栄を切った古き良き宇宙時代は終わりを告げ、世知辛いコスト重視の民需主導の時代に代わりつつある。
官需のコスト削減のために、民需の効果を反映させようというシナリオは、その転換の時代の、まあ、言ってみれば移行措置のようなものだ。
少なくとも、地球低軌道上では、明らかにそうなりつつある。
ULAが、バルカンの再使用に失敗したからといって、必ずしも打ち上げビジネスから撤退するとは断言できないが、ライバルの開発状況次第では、あり得ない話ではない。
再使用或いは抜本的な技術革新無き単なる価格競争は、収益の低下を招き、ひいては品質の問題にも発展しかねない。
米国のロケット開発は、タイトロープを渡る時代になっているのかもしれないな・・・。
H3の話にも共通するんだが、従来、官需だけで賄ってきた打ち上げロケットの費用を低減する手段として、民需を取り込んで打ち上げ回数を増やし、生産ラインの合理化と収益機会の増大で、トータルのコストを下げるという手法がある。
これには、大前提があって、そもそも、民需を取り込めるだけのコスト削減が図れているかどうかだ。
経済的競争力の全くないH2Aとかで商売しようと思っても、余程のバーゲンをしなければ使ってもらえないし、そのためには、技術試験とか相乗りとか国際援助絡みで、コストを相殺する必要がある。
あるいは、衛星打ち上げ事業者が、打ち上げ手段を多角化するために、敢えて経済性には目を瞑って選択するということもあるかも知れない。
そういう方法では、もちろん数を稼げないので、民需によるコスト削減なんて不可能だ。
絵に描いた餅・・・。
H3は、そこんとこを何とかして、民需を取り込んだストーリーを描きたいに違いない。
まあ、浮沈子的には無理だと思うんだがな。
衛星事業者にとって、多少の値段の上乗せが必要だとしても、打ち上げの時期の選択が自由になったり、信頼性が高い方がビジネスとしては旨味がある。
年に数回しか上がらないロケットに、それを期待するのは無理だ。
年に7回程度のアリアンが商売になっているのは、2機の衛星を相乗りで打ち上げられたり、超重量級の衛星を打ち上げられる能力があるからだ。
ファルコン9の登場で、その牙城も揺らいでいる。
さっき、バルカンの記事を書いていて気付いたんだが、このロケットの設計は、オンボードのメインエンジン2基を回収して、コストを下げるというところがキモだ。
毎回の再使用により打ち上げコストが低減して、旺盛な民間需要を取り込むことが出来、その結果、低廉な価格を実現して官需にも安価に応えることが出来るというストーリーなわけだ。
その再使用が出来ないということになれば、費用対効果はほとんど改善されずに、新規の開発費用が掛かるだけ持ち出しになる。
官需が著しく増大するとか、従来の衛星を超えた大きさや重量のやつを打ち上げなければならないのならともかく、大して変わらないのであれば、新規開発などしない方がいいのだ。
それでも、無理くりな再使用を前提としたロケットを開発せざるを得ないのは、ファルコンシリーズの登場があったからだな。
再使用による劇的なコストの削減。
いや、再使用しなくても、従来の半額の価格で商売してくる安価なロケットの登場。
そりゃあ、デカいエンジン一発で打ち上げられた方が効率はいいに決まっているが、莫大な開発コストを掛けて技術的な勝利を得ても、使ってくれなければ話にならない。
従来は、月旅行とか、そういう景気のいい話がいっぱいあったから、おもいっきり技術的に背伸びしても、開発する意義があったんだろうが、既にそういう時代じゃなくなったからな。
既存のエンジンをクラスター化して、上手に使えば、安いコストで同等の能力を発揮でき、冗長化に伴う高度な残存性も得ることが出来る。
電子の帝国の技術を使いこなして、機械の王国を席巻する構図がここにも見られるわけだ。
そうして獲得した低コスト技術を引っ提げて、打ち上げロケットの価格破壊を行えば、他社も追随せざるを得ない。
ファルコンシリーズの場合は、1段目の再使用というギミックも付いてくるしな。
ロケット丸ごと再使用するのは大変だから、バルカンの場合はエンジンだけ回収するというコンセプトで応じる。
しかしなあ、本当に実現できるのかどうかは疑わしい。
もし、それが出来ないとすれば、バルカンの存在意義は半減する。
エンジンを乗せ換えただけの使い捨てロケットになる。
ロシア製エンジンを、いつまでも使い続けるわけにはいかないからな。
(RD-180)
https://ja.wikipedia.org/wiki/RD-180
「アメリカ国内からも安全保障に直結するロケットの基幹部品のロシアへの過度の依存を疑問視する声も以前に増して高まり、2014年8月に代替のエンジンの開発が着手された。代替のエンジンとしてブルーオリジンのBE-4とエアロジェット・ロケットダインのAR-1の開発が進められる」
BE-4が選定されたわけだが、まともに使えるかどうかは不明だ。
(ブルーオリジンがロケットエンジン供給へ、ベゾス創業の宇宙企業)
http://ascii.jp/elem/000/001/750/1750071/
「ブルーオリジン(Blue Origin)が競合ロケット企業にエンジンを供給する契約を獲得した。」
「ブルーオリジンのエンジン「BE-4 」は、ULAが建造する次世代ロケット「バルカン・セントール(Vulcan Centaur)」に使用される。」
自ら打ち上げロケットを開発するところからのエンジン供給というのは、あまり健全な話には聞こえない。
「最終的には自社が主要なロケット打ち上げ会社になる」
ブルーオリジンにしてみれば、敵に塩を送ることになるわけで、その代金で開発されたニューグレンが上がるようになれば、BE-4エンジンの供給をストップすることも出来るしな。
ULAから見れば、ライバルに生殺与奪の権限を与えてしまう話だが、そうせざるを得ないほど切羽詰まっているんだろうか?。
ともあれ、再使用によるコスト削減が実施できなければ、民需を取り込んで官需のコストを下げるというシナリオは崩壊する。
それでも、ロシア製エンジンを換装できればそれでいいとするか、さらなるコスト低減に突っ走るファルコンシリーズの当て馬になるかだな。
当て馬競争ということになれば、オメガだって負けてはいないだろう。
固体燃料ロケットの再使用については、既にスペースシャトルの固体燃料ブースターで実績があるからな(どれだけコスト削減になったかは不明)。
大どんでん返しで、主役が交代という羽目にもなりかねない。
一寸先は闇の世界だ。
莫大な税金を投入して、大見栄を切った古き良き宇宙時代は終わりを告げ、世知辛いコスト重視の民需主導の時代に代わりつつある。
官需のコスト削減のために、民需の効果を反映させようというシナリオは、その転換の時代の、まあ、言ってみれば移行措置のようなものだ。
少なくとも、地球低軌道上では、明らかにそうなりつつある。
ULAが、バルカンの再使用に失敗したからといって、必ずしも打ち上げビジネスから撤退するとは断言できないが、ライバルの開発状況次第では、あり得ない話ではない。
再使用或いは抜本的な技術革新無き単なる価格競争は、収益の低下を招き、ひいては品質の問題にも発展しかねない。
米国のロケット開発は、タイトロープを渡る時代になっているのかもしれないな・・・。
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