神の告示 ― 2015年08月26日 12:45
神の告示
ちょっと呆れたので、いちおう書いておこう。
平成27年4月13日に第5版として発行されている中央労働災害防止協会の潜水士テキストについて、出版の担当者からご連絡をいただいた。
不活性ガス濃度がパーセント単位では、分圧を正しく計算できないという点について、改めてお伝えして、出版物として独自に修正する考えはないのかと聞いてみたのだが、高圧則の改訂に関する部分なので、やはり大元が変わらないと変更はできないということだった。
うーん、そんなもんかなあ。
著者の方は、それでいいということなんでしょうかと重ねて聞いてみたが、法の引用に当たる部分については、仮におかしいところがあったとしても、出版社からそのまま記述するようにお願いするということだった。
見事な遵法精神であるな。
コンプライアンスの鏡だ!。
この本の初めのところにある「改訂にあたって」には、以下の記述がある。
「減圧理論を理解することは容易ではありませんが、改正高圧則の趣旨があくまで減圧表は潜水者が自分で作成することとされていますので、減圧理論の少なくとも初歩を理解する必要があります。」
大変結構な話だが、執筆者一同は、実際に理解しているんだろうかと疑いたくなる。
別に、濃度の単位としてパーセントを使っていけないわけではない。
それなら、不活性ガスの分圧を求める計算式が誤っていることになる。
NN2やNHeを100で割っておく計算式でなければならない。
単位が誤りか、式が誤りか、どちらかである(ひょっとすると、実際の運用を考えたら、単位はパーセント表示のままにして、計算式を修正した方がいいのかもしれない)。
これは、別に厚労省の告示だけでなく、世界中で使われてきたビュールマンの減圧式の常識であって、今更、いいとか悪いとかいう話ではない。
単純ミスなだけ。
だから、告示を改めるのには時間が掛かるから、出版物の記述の訂正とか補足を何らかの形で先行させることが出来るかどうか、是非とも検討してもらいたいと思ったのだが、たとえ誤りがあっても、法の引用なので勝手に訂正はできないという回答だった。
呆れた・・・。
というか、そういうものかと、いささか恐怖を感じた。
このテキストは、別に厚労省の監修を受けているわけではなく、独自に発行しているもので、法の原文の引用はともかく、その適用について解説し、減圧表を潜水者が自分で作成できるように導いてくれるものということになっている。
それは、ウソだということだ。
この計算式と不活性ガスの濃度の単位では、正しい値は出ない。
テキストの記述を見ても、具体な計算例を出しているわけではないが、170ページでは、「高圧則改正検討会で例示された計算の過程を参照されたい」として、例の報告書を読むように指示している。
もちろん、この報告書自体が、パーセント単位と明記しながら、0.79とか使っちゃったりしているので、ますます混乱することになる(浮沈子は、別ルートで見つけて、告示の誤りの直接の原因は、この報告書にあると確信したんだが)。
いずれにしても、誤りは誤りで、単に訂正すれば済む話だし、手続きはあるだろうが、単純ミスなので、さっさとやってしまえばいいだけだ。
テキストの訂正にしても、法の引用といっても、記述を見ると告示の丸写しではないようだし、(%)とあるところを削って、解説のところで全体を1とする割合であることを補足すればいいだけである。
他にもやり方は、いくらでもあるだろうし、それこそが法令の解説書としての本旨だと思うんだが、出版社としてはお上に飯を食わせてもらっている立場上、勝手に直すわけにはいかないということなんだろう。
神の告示だな・・・。
担当者の方と、これ以上話をしても埒が明かないので、とりあえず電話は切ったが、この記述に基づいて表計算ソフトに代入しようとして四苦八苦した浮沈子としては納得はできない。
告示の改正→テキストの次期改訂→記述内容の変更という手順になるようだが、それまではこの内容が記述されたままになる。
出版社のホームページを見ても、出版物の正誤を表示するページはないようなので、たぶん数年先にならないと正しい記述にはならないんだろう。
まあいい。
我が国には表現の自由を守る法律もあるようだし、出版の自由は尊重されなければならない。
お役所との関係もあるので、内容の正誤より、法令の解説書を発行しているというポジショニングに配慮するということはあるだろう。
それは自由だ。
我が国は、いい国だな。
しかし、ことは潜水に係ることであり、ましてや潜水計画の根幹である減圧表の計算そのものなので、浮沈子としても、このまま手をこまねいているわけにはいかない。
出版社のご担当は、パーセントのところが違うだけでしょと、文系的発想丸出しの対応だった。
この計算式から導出した減圧表に基づいて(それより保守的にして)潜らせなければ違法になる。
文系的にはそういうことだし、理系的には潜水士の健康や命にかかわる話だ。
もっとも、パーセントを使えば100倍安全になるから問題ないともいえる(大体、潜らせることが出来ない)。
形式的には、4月以降の業務潜水は全て違法な潜水になり、業者は取り締まりの対象になるわけだな。
もちろん、そんな話にはならない。
告示表記の単純ミスだから。
しかし、その単純ミスを訂正して、ハズカシイ状態を是正するのは単純ではない。
以前にも、研究報告の中に出てきたアンケートの回答の話を書いた。
(検討会)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2015/07/22/7713878
「「決定事項に従う」
アンケートにあった回答を読んだ時、浮沈子は、ハッとして心を突かれた。
(「新しい標準減圧表作成に伴う実地調査および検証調査研究」160ページ。)
お上と、下々の関係。」
この業界は、ガンガン潜らせたい事業者側と、労災を減らしたい当局側とのせめぎ合いだ。
法で定められたことを守って事業を行わなければ、罰則が適用される。
それで事故が起これば、刑事責任も問われる。
だから、お上が定めた内容に、勝手に手を付けるなんてことはもっての外。
「決定事項に従う」しかないのだ。
我が国は法治国家だし、当然の話だが、国家が誤謬をおかさないという保証はない。
水中で酸素吸っちゃダメとか、つい最近まで言ってたことを考えると、そんなことは当然だ。
改正には、それなりの時間と手続きが掛かり、その間は通達等で補うことになるんだろうが、解説本の表記はそれとは別だし、法を改正するわけではないので、やり方はいくらでもあるだろう。
まあ、浮沈子の認識が甘かったわけだな。
解説本の訂正を促して、告示の修正を迫るという外堀戦術は崩壊した。
それでも、試験問題とかに出たらどうするつもりなんだろうか?。
分圧を計算から求める問題は当分出ないだろうし、問題文の中で、全体を1とした構成比を不活性ガス濃度の単位とすれば正答は出せる(まあ、告示違反だがな)。
「改正高圧則の趣旨があくまで減圧表は潜水者が自分で作成することとされています」
ホントかよ!?。
高圧則のどこを読んでも、そんなことは書いていないし、解説本にすら導出するための解説が出てないんだから、そんなもんは嘘っぱちだろう(計算例が出ている検討会報告書の案内が書いてあるだけ、良心的かも)。
この話は、いい加減ケリを着けたかったのだが、どうやら長引きそうだな。
何か進展があったら、また書く。
ちょっと呆れたので、いちおう書いておこう。
平成27年4月13日に第5版として発行されている中央労働災害防止協会の潜水士テキストについて、出版の担当者からご連絡をいただいた。
不活性ガス濃度がパーセント単位では、分圧を正しく計算できないという点について、改めてお伝えして、出版物として独自に修正する考えはないのかと聞いてみたのだが、高圧則の改訂に関する部分なので、やはり大元が変わらないと変更はできないということだった。
うーん、そんなもんかなあ。
著者の方は、それでいいということなんでしょうかと重ねて聞いてみたが、法の引用に当たる部分については、仮におかしいところがあったとしても、出版社からそのまま記述するようにお願いするということだった。
見事な遵法精神であるな。
コンプライアンスの鏡だ!。
この本の初めのところにある「改訂にあたって」には、以下の記述がある。
「減圧理論を理解することは容易ではありませんが、改正高圧則の趣旨があくまで減圧表は潜水者が自分で作成することとされていますので、減圧理論の少なくとも初歩を理解する必要があります。」
大変結構な話だが、執筆者一同は、実際に理解しているんだろうかと疑いたくなる。
別に、濃度の単位としてパーセントを使っていけないわけではない。
それなら、不活性ガスの分圧を求める計算式が誤っていることになる。
NN2やNHeを100で割っておく計算式でなければならない。
単位が誤りか、式が誤りか、どちらかである(ひょっとすると、実際の運用を考えたら、単位はパーセント表示のままにして、計算式を修正した方がいいのかもしれない)。
これは、別に厚労省の告示だけでなく、世界中で使われてきたビュールマンの減圧式の常識であって、今更、いいとか悪いとかいう話ではない。
単純ミスなだけ。
だから、告示を改めるのには時間が掛かるから、出版物の記述の訂正とか補足を何らかの形で先行させることが出来るかどうか、是非とも検討してもらいたいと思ったのだが、たとえ誤りがあっても、法の引用なので勝手に訂正はできないという回答だった。
呆れた・・・。
というか、そういうものかと、いささか恐怖を感じた。
このテキストは、別に厚労省の監修を受けているわけではなく、独自に発行しているもので、法の原文の引用はともかく、その適用について解説し、減圧表を潜水者が自分で作成できるように導いてくれるものということになっている。
それは、ウソだということだ。
この計算式と不活性ガスの濃度の単位では、正しい値は出ない。
テキストの記述を見ても、具体な計算例を出しているわけではないが、170ページでは、「高圧則改正検討会で例示された計算の過程を参照されたい」として、例の報告書を読むように指示している。
もちろん、この報告書自体が、パーセント単位と明記しながら、0.79とか使っちゃったりしているので、ますます混乱することになる(浮沈子は、別ルートで見つけて、告示の誤りの直接の原因は、この報告書にあると確信したんだが)。
いずれにしても、誤りは誤りで、単に訂正すれば済む話だし、手続きはあるだろうが、単純ミスなので、さっさとやってしまえばいいだけだ。
テキストの訂正にしても、法の引用といっても、記述を見ると告示の丸写しではないようだし、(%)とあるところを削って、解説のところで全体を1とする割合であることを補足すればいいだけである。
他にもやり方は、いくらでもあるだろうし、それこそが法令の解説書としての本旨だと思うんだが、出版社としてはお上に飯を食わせてもらっている立場上、勝手に直すわけにはいかないということなんだろう。
神の告示だな・・・。
担当者の方と、これ以上話をしても埒が明かないので、とりあえず電話は切ったが、この記述に基づいて表計算ソフトに代入しようとして四苦八苦した浮沈子としては納得はできない。
告示の改正→テキストの次期改訂→記述内容の変更という手順になるようだが、それまではこの内容が記述されたままになる。
出版社のホームページを見ても、出版物の正誤を表示するページはないようなので、たぶん数年先にならないと正しい記述にはならないんだろう。
まあいい。
我が国には表現の自由を守る法律もあるようだし、出版の自由は尊重されなければならない。
お役所との関係もあるので、内容の正誤より、法令の解説書を発行しているというポジショニングに配慮するということはあるだろう。
それは自由だ。
我が国は、いい国だな。
しかし、ことは潜水に係ることであり、ましてや潜水計画の根幹である減圧表の計算そのものなので、浮沈子としても、このまま手をこまねいているわけにはいかない。
出版社のご担当は、パーセントのところが違うだけでしょと、文系的発想丸出しの対応だった。
この計算式から導出した減圧表に基づいて(それより保守的にして)潜らせなければ違法になる。
文系的にはそういうことだし、理系的には潜水士の健康や命にかかわる話だ。
もっとも、パーセントを使えば100倍安全になるから問題ないともいえる(大体、潜らせることが出来ない)。
形式的には、4月以降の業務潜水は全て違法な潜水になり、業者は取り締まりの対象になるわけだな。
もちろん、そんな話にはならない。
告示表記の単純ミスだから。
しかし、その単純ミスを訂正して、ハズカシイ状態を是正するのは単純ではない。
以前にも、研究報告の中に出てきたアンケートの回答の話を書いた。
(検討会)
http://kfujito2.asablo.jp/blog/2015/07/22/7713878
「「決定事項に従う」
アンケートにあった回答を読んだ時、浮沈子は、ハッとして心を突かれた。
(「新しい標準減圧表作成に伴う実地調査および検証調査研究」160ページ。)
お上と、下々の関係。」
この業界は、ガンガン潜らせたい事業者側と、労災を減らしたい当局側とのせめぎ合いだ。
法で定められたことを守って事業を行わなければ、罰則が適用される。
それで事故が起これば、刑事責任も問われる。
だから、お上が定めた内容に、勝手に手を付けるなんてことはもっての外。
「決定事項に従う」しかないのだ。
我が国は法治国家だし、当然の話だが、国家が誤謬をおかさないという保証はない。
水中で酸素吸っちゃダメとか、つい最近まで言ってたことを考えると、そんなことは当然だ。
改正には、それなりの時間と手続きが掛かり、その間は通達等で補うことになるんだろうが、解説本の表記はそれとは別だし、法を改正するわけではないので、やり方はいくらでもあるだろう。
まあ、浮沈子の認識が甘かったわけだな。
解説本の訂正を促して、告示の修正を迫るという外堀戦術は崩壊した。
それでも、試験問題とかに出たらどうするつもりなんだろうか?。
分圧を計算から求める問題は当分出ないだろうし、問題文の中で、全体を1とした構成比を不活性ガス濃度の単位とすれば正答は出せる(まあ、告示違反だがな)。
「改正高圧則の趣旨があくまで減圧表は潜水者が自分で作成することとされています」
ホントかよ!?。
高圧則のどこを読んでも、そんなことは書いていないし、解説本にすら導出するための解説が出てないんだから、そんなもんは嘘っぱちだろう(計算例が出ている検討会報告書の案内が書いてあるだけ、良心的かも)。
この話は、いい加減ケリを着けたかったのだが、どうやら長引きそうだな。
何か進展があったら、また書く。
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